めまい経験者のめまい専門医・新井基洋先生に聞く Vol.2 コロナ禍で増加?ストレス性めまいの改善法

[病気と漢方] 2021/09/17

 長引くコロナ禍は、私たちの生活にさまざまな社会的、経済的影響を与えています。中には、そうした影響がストレスとなり、健康に思わぬ問題を抱えてしまうケースもあります。「若い世代に、ストレスに起因するめまいが増えている」と話すのは、めまいの治療に長年携わっている、横浜市立みなと赤十字病院 めまい・平衡神経科部長の新井基洋先生です。Vol.1では、コロナ禍の自粛生活による運動不足で増えている、高齢者のフレイルを合併しためまいの改善方法を教えていただきました。

 Vol.2となる今回は、コロナ禍の影響などで比較的若い人から働き盛りの年齢層に増えている、ストレスが発症に強く関係するめまい群のやわらげ方とその改善に有効な漢方薬について伺います。

ストレスによる若年~壮年層のめまいも増加傾向

――先生が担当されている、めまい・平衡神経科外来ではここ1年ほど、比較的若い世代の患者さんが増えているそうですね。

新井:ストレスが発症に強く関係するめまいで受診される人が増えています。
現代において、ストレスを感じていない人というのはほとんどいないと思いますが、いわゆる「コロナ禍」では、以前とは明らかに違うストレスが健康に大きく影響するようになり、根深いストレス性めまいに悩む人が増えました。特にCOVID-19の影響で職を失ったり、生活に困窮したり、観光業界や航空業界などの冷え込みで希望する業界への就職ができなかったりといった大きなストレスが、精神的な負担となっていることを涙ながらに話す若い人の姿を多く見かけます。

――前回、お伺いした高齢者のフレイルにもCOVID-19の影響がありましたが、若い人たちにはそれがストレスというかたちで現れているわけですね。

新井:そうですね。その影響が顕著に感じられます。

――いったん治っていためまいが、コロナ禍のストレスで再発することもあるのでしょうか。

新井:中にはそういうケースもあるでしょう。前回もお話ししたように、めまいには「再発しやすい」という特徴があります。

ストレスが発症に強く関係するめまいとは

――ストレスが発症に強く関係するめまい(以下、ストレス性めまい)とは、具体的にどのような病気のことを指すのでしょうか。

新井:めまいは全てストレスが関与する疾患と考えていただいてよいのですが、中でもストレスが発症に強く関係するめまいには大きく3つあります。片頭痛関連めまい、メニエール病、そして、PPPD(持続性知覚性姿勢誘発めまい)です。この中で最も代表的なのが、最初に言った片頭痛関連めまいです。正確には前庭性片頭痛といいます。

ストレス性めまいの種類

  • 片頭痛関連めまい
    (前庭性片頭痛)
  • メニエール病
  • PPPD
    (持続性知覚性姿勢誘発めまい)

――前庭性片頭痛について詳しく教えてください。

新井:片頭痛に伴い、めまいを発症するのが、この病気の特徴です。当院の調査では、平均15年以上片頭痛を患う患者のうち特に女性患者において、前庭症状と呼ばれるめまいや浮動感などの症状が、発作のように何度も生じる傾向を認めています。めまいの持続時間は数分間、数時間、数日単位で続くこともあれば、頭を動かした時などに数秒程度生じるものまで、さまざまです。短時間の発生であっても、何度も頭痛とめまいがリンクして繰り返す場合、前庭性片頭痛の疑いがあります1)
症状を引き起こすきっかけにはストレス、精神的緊張、疲れ、度重なる光刺激、音、臭い刺激、睡眠不足、睡眠過多、月経周期、天候の変化、温度差、度重なる旅行、臭い、空腹、アルコールなどがありますが、中でもストレスは最も頻度の高いきっかけのひとつです。ストレスにさらされたり、ストレスから解放されたりした後に、頭痛が生じやすくなります2)。患者さんは女性に多く、男性の3倍程度いるといわれています3)。しかも遺伝することが多いので4)、家族歴を確認することが大切です。

――前庭性片頭痛になった場合、どうすればよいのでしょうか。

新井:前庭性片頭痛は、まず片頭痛の治療、特に予防薬投与が第一です。最近では片頭痛の発現に関与するCGRPという物質の働きをブロックする注射によって、片頭痛の劇的な改善を認めた報告が散見されます。ただし、①高価な注射製剤である、②使用は片頭痛の予防薬治療に効果がない場合に限られる、③頭痛専門医等の、厚労省が認めた専門医のみに使用が許可されているなど、多くの縛りがありますので、安易には使えません。また、頭痛が軽快してもめまいが治らないことがあります。その場合はVol.1でご紹介したようなめまいリハビリを併用し、めまいの症状の軽快に努めます。もちろん、片頭痛を引き起こすきっかけやお話ししたような誘因や悪化因子をなるべく避けるなどの生活指導が大切です。女性の場合、閉経によって片頭痛自体がやわらいでも、めまいが残る人は多いです。その場合は、症状に合わせてめまいのリハビリを含めた治療を行います。

前庭性片頭痛の症状と治療
症状 ・片頭痛に伴うめまい
・前庭症状(めまいや浮動感など)の症状が発作のように何度も生じる
・めまいの持続時間は数秒程度~数日単位などさまざま
治療 ・片頭痛予防薬の服用
・めまいリハビリ(Vol.1参照)

――メニエール病の人も多いのでしょうか。

新井:メニエール病は耳のストレス病として代表的なものです。主な症状としては、日常生活に支障をきたすような重度の回転性めまいと、それに伴う吐き気や嘔吐、そして耳が圧迫される感覚と難聴・耳鳴りが生じます。メニエール病は内耳の内リンパ液が過剰になる(=内リンパ水腫)ことで発症するとされています。その一因として、ストレスホルモン(抗利尿ホルモン)の関与が考えられるため、抗利尿ホルモンの低下を目的に、水分をたくさん摂取する治療や、めまいや耳鳴りなどの個別の症状を緩和させる治療を行います。それと同時に、ストレスを減らす日常生活のアドバイスが重要です。

メニエール病の症状と治療
症状 日常生活に支障をきたすような重度の回転性めまいと、それに伴う吐き気や嘔吐、そして耳が圧迫される感覚と難聴
治療 ・水分の摂取
・めまいや耳鳴りなど、個別の症状を緩和させる治療
・ストレスのケアなど生活指導

――ストレス性めまいの3つ目として挙げていただいた、PPPD(持続性知覚性姿勢誘発めまい)とは聞き慣れない病気です。

新井:これは2017年に、めまいの国際的な学会である、バラニー学会(Barany Society)で定義された、新しい病気です。持続性知覚性姿勢誘発めまいという長い名前で、30~50代の壮年期に多く発症し、ストレスが大きくその発症に関わります。めまいの種類としては浮動性、または体がふらつく不安定性めまいで、それがほぼ毎日、24時間、365日ずっと続くという慢性めまいの代表です。視覚刺激でめまいが起きるのでスーパーの陳列棚を見ることができない、スマホのスクロールができないなど、症状もかなり深刻です。医師の見立てより、患者さんが実際に感じるつらさのほうが何倍も大きいといわれています。動くと症状が悪化するため、寝たきりや引きこもりになる場合も少なくありません。立つとめまいが悪化するので、移動に車いすが必要になることも散見されます。
この病気の場合、めまいのリハビリと、認知行動療法という治療が必要です。めまいのリハビリを通じて、自分のめまいに対する考え方にできるだけ患者自身で気付き、めまいとうまく付き合えるような認知=考え方に変えてもらう必要があります。また、抗うつ薬を使う治療法の有効性が示されています5)

PPPD(持続性知覚性姿勢誘発めまい)の症状と治療
症状 ・浮動性、または体がふらつく不安定性めまい
・症状がほぼ24時間、365日ずっと続く
・立つ動作と目を動かすことで症状が悪化する
治療 ・めまいのリハビリ
・認知行動療法
・抗うつ薬

――PPPDの患者さんは、どのくらいいらっしゃるのでしょうか。

新井:当院では典型例は1~2%だと思います。ただ、PPPD疑いのある人を加えると、5~10%にはなるでしょうか。割合や患者数については、施設によって異なると思います。例えばメニエール病の治療を専門とする医療機関もあるのですが、その医療機関がどんなめまいを得意とするかでいらっしゃる患者さんが異なるので、それが割合に反映されやすいと思います。メニエール病よりも現状では少ないですが、この概念が広まれば実際の割合が明らかになると思います。

ストレスなどによるめまいの改善に有効な漢方薬

――ストレス性めまいにも、漢方薬は有効なのでしょうか。

新井:前庭性片頭痛やメニエール病のように、急性のめまいがたびたび生じる場合には、漢方薬でめまいを緩和させることも治療の方法のひとつになることがあります。五苓散(ごれいさん) 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう) という漢方薬が有効です。

――それぞれ具体的に教えてください。五苓散にはどのような効果がありますか。

新井:五苓散は、めまいの急性期や嘔吐を伴うめまいに使います。吐き気がある時に五苓散をお湯に溶かして飲むと、おさまることがよくあります。また五苓散には上半身の水分を調整する作用があるため、耳の内耳にリンパ液がたまるメニエール病の改善にも効果を発揮することがあります。

――苓桂朮甘湯はどうでしょうか。

新井:苓桂朮甘湯も、メニエール病に有効です。また起立性調節障害、いわゆる立ちくらみの改善にも効果的です。ただし、五苓散には含まれていない甘草という生薬が入っているため、まれにむくみを起こすことがあります。特に女性の中でも細くて小柄な体型の場合は、注意して処方しています。

その他、めまい適応のある漢方薬

新井:めまいの適応がある漢方薬としては、五苓散、苓桂朮甘湯のほかに、真武湯(しんぶとう) 黄連解毒湯(おうれんげどくとう) があります。
真武湯は、ふわふわするような浮動性めまいに効果的といわれますが、附子(ぶし)という生薬が含まれています。附子には心悸亢進といって、心臓をドキドキさせる作用があります。若い人の場合、ドキドキで心配になるという人もいるので、私は高齢者以外にはあまり処方しません。
黄連解毒湯も、めまいの適応がある漢方薬ですが、私はめまいそのものではなく、それに伴うのぼせ、ほてりの改善に使うことが多いです。

――高齢者の胃腸障害を伴うめまい・ふらつきに使っていた、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう) を使うことはありますか。

新井:半夏白朮天麻湯も、もちろん使います。ふわふわするような浮動性めまいがある若い人には、真武湯は用いずに半夏白朮天麻湯を処方します。頭痛の適応もあるのでたいへん使いやすいです。
日本では美人を表す言葉に「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」という言葉がありますが、漢方ではめまいの漢方の使い分けに、この言葉を文字って、「立てば苓桂、回れば沢瀉(たくしゃ)、歩くめまいは真武湯」ということがあります。立ちくらみには苓桂朮甘湯、回転性のめまいには沢瀉湯、ふわふわする浮動性のめまいには真武湯が有効というのを、端的に言い表しています。ただし、沢瀉湯はエキス剤にないので、五苓散で代用します。また、先ほど言った動悸が出るなどの副作用のことを考えると、真武湯の代わりに半夏白朮天麻湯を使ったほうがよいと、私は考えます。これらを踏まえて、「立てば苓桂、回れば沢瀉、歩くめまいは半白天」というのが、私流のめまいに使用する漢方薬の使い分けです。
半夏白朮天麻湯には、副作用が心配される附子も甘草も入っていません。そのため、副作用の心配をせずに使うことができます。とはいえ、全員に合うわけではありません。7人中1人くらいは、半夏白朮天麻湯が合わない人もいる印象です。誰にでも効果を発揮する薬というのは、残念ながら今の医療にはありません。

ストレスなどによるめまいの改善に有効な漢方薬
有効な症状
五苓散 めまいの急性期
嘔吐を伴うめまい
メニエール病
苓桂朮甘湯 メニエール病
起立性調節障害(立ちくらみ)
真武湯 高齢者の浮動性めまい
黄連解毒湯 めまいに伴うのぼせ、ほてりの改善
半夏白朮天麻湯 若年者から高齢者までの胃腸障害を有する慢性めまい

ストレス性めまいの治療で大切なこと

――そのほか、ストレス性のめまいを改善するうえで大切なことを教えてください。

新井:めまいや頭痛など、表面に現れている症状だけを治そうとせず、根本原因になっている悩みやストレスを解決することが大切です。
ストレス性の病気は、川の流れにたとえるとわかりやすいです。たとえばメニエール病の場合、川の下流ではめまいと耳鳴り、そして難聴という症状が起きています。しかし、その上流にあるのはストレスです。下流の症状の改善には、上流にあるストレスを改善する必要があります。ですから、問診がとても重要です。めまいの医師は心療内科ならぬ心療耳鼻科のスタンスが必要です。

――なるほど、表面の症状だけにとらわれず、根本的な原因を解決することが大切ということですね。

新井:はい、それ以外にも食事や睡眠など、生活習慣についてのアドバイスをすることもあります。患者さんにとって何がよいのかを、お話を聞きながら判断していくのが、私の仕事です。

次回はめまいと一緒に起こりやすいつらい症状と、それらの改善に有効な漢方薬について解説します。

新井 基洋(あらいもとひろ)先生
横浜市立みなと赤十字病院 耳鼻いんこう科/めまい・平衡神経科 部長

北里大学医学部卒業後、北里大学耳鼻咽喉科に入局。国立相模原病院耳鼻咽喉科を経て、健常人OKAN(めまい研究)で医学博士号取得後、横浜赤十字病院(現・横浜市立みなと赤十字病院)に赴任。耳鼻咽喉科副部長、同部長に就任した後、2016年より現職。日本耳鼻咽喉科学会耳鼻咽喉科専門医、日本めまい平衡医学会専門会員・評議員。著書に『めまいリハビリ実践バイブル―めまいと不安を治す12分の習慣』『めまいは寝てては治らない 実践! めまい・ふらつきを治す23のリハビリ』(ともに中外医学社)

参考

  • 1) 五島史行ほか. Equilibrium Res 2019; 78(3): 230-231
  • 2) 慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013, 2013; 医学書院 p.97
  • 3) Sakai F, et al. Cephalalgia 1997; 17: 15-22
  • 4) 慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013, 2013; 医学書院 p.292
  • 5) 堀井新. 日耳鼻 2020; 123(2): 170-172
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