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がん治療中の辛い症状は漢方薬でも改善できる!<第1回>「食欲不振」には、「六君子湯」が食欲増進ホルモンを高める

公開日:2016.01.29
カテゴリー:がん治療と漢方

 近年、漢方薬において「この成分が、身体にこのように働くから、症状が改善する」というように、“効く”メカニズムが解明されつつあります。この連載では10回にわたって、特に抗がん剤治療の副作用として起こる症状に漢方が有効であるケースをご紹介していきます。

 がん患者さんにとって「食べられない」ことは大問題です。体力も気力も保つことができるのは、食べることができてこそ。食が進めば、腸も積極的に動くことになり、その結果、自然治癒力をアップさせることができます。腸は、食べ物や大事な微量元素などを吸収し、栄養分を全身に送り出す生命維持に関わる大切な機能を担っており、広げた面積はテニスコート1.5面分にもなると言われています。体内に栄養を取り入れるだけが目的であれば、点滴や静脈注射、胃に穴を開けて栄養を流し込む方法もありますが、食べるという満足感はこうした方法では得ることができません。ですから口から食べることのできない患者さんは、気力や体力が衰えることが多く、その結果、治療にも悪影響が出てしまいます。

六君子湯で食欲を取り戻し、気力や体力も取り戻す!

 こうした食欲不振に効果のある漢方薬が「六君子湯(りっくんしとう) 」です。六君子湯は、人参(にんじん)、半夏(はんげ)、茯苓(ぶくりょう)、大棗(たいそう)、陳皮(ちんぴ、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)という8つの生薬で構成。古来より、食化不良、胃腸がなんとなく弱っている、食欲不振、食後の胃痛や胃炎、嘔吐の症状がある患者さんに使われてきました。

 最新の研究結果により、六君子湯が食欲を促す唯一の消化管ホルモンである「グレリン」の分泌を促すなど、グレリンの作用を強化することが分かってきました。グレリンは、1999年に日本の研究者によって胃から発見されたホルモンで、食欲を促す作用の他に成長ホルモンを分泌させたり、心臓の血管を保護する作用を持っています。

 ではなぜ六君子湯がグレリンの分泌を促すのでしょうか。抗がん剤治療時などには、身体の中でセロトニンという物質が増えます。このセロトニンが、セロトニンの結合する「セロトニン受容体」を介して、グレリンの分泌を低下させ、食欲を抑えてしまうのです。六君子湯は、このセロトニン受容体の働きを抑えることで、グレリンの分泌を元に戻す(高める)のです。

 気力も体力も低下してしまう食欲不振には六君子湯を服薬することで「がんと闘うカラダ」を取り戻しましょう。

上園保仁先生
国立がん研究センター研究所 がん患者病態生理研究分野 分野長

1989年産業医科大学大学院 修了、医学博士 取得、1991年米国カリフォルニア工科大学生物学部門 ポスドクとして留学、1992年産業医科大学薬理学講座 助手、2004年長崎大学大学院医歯薬学総合研究科・内臓薬理学講座 助教授、2010年独立行政法人国立がん研究センター研究所がん患者病態生理研究分野 分野長。
日本薬理学会編集委員会委員、北米神経科学会 会員、日本緩和医療薬学会 監事、日本緩和医療学会 がん性疼痛ガイドライン作業部会委員、補完代替医療ガイドライン改定WPG員、日本癌学会 会員。

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