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胃もたれや食欲不振などの機能性ディスペプシアに対する漢方薬の効果は?

公開日:2018.07.31
カテゴリー:漢方ニュース

六君子湯の効果を調べる試験に56の医療機関が参加

 慢性的に胃の痛みやもたれ、胸やけ、吐き気、食欲不振といった不快な症状が続いているにもかかわらず、内視鏡検査などで全く異常が認められないことがあります。こうした症状は医学的には「機能性ディスペプシア」と呼ばれます。この症状の原因は胃酸の分泌量が多い、胃の運動機能の異常、胃がんの発症にもかかわっているヘリコバクター・ピロリという細菌の感染などが指摘されていますが、まだ完全に特定はされていません。

 治療では胃酸の過剰分泌を抑えるH2ブロッカー、プロトンポンプ阻害薬や消化管運動機能改善薬などが用いられます。ただ、原因が特定されていないこともあり、こうした薬剤が効果を示さない患者さんも少なからず存在します。

 そうした中で六君子湯(りっくんしとう) が機能性ディスペプシアに有効であるという多施設共同研究「DREAM Study」の結果が、大阪医科大学先端医療開発学講座の富永和作特任教授らによって海外の医学誌「Neurogastroenterology & Motility」にこのほど掲載されました。

 六君子湯は生薬の蒼朮(そうじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、人参(にんじん)、半夏(はんげ)、陳皮(ちんぴ)、大棗(たいそう)、生姜(しょうきょう)、甘草(かんぞう)で構成される漢方薬です。主に胃腸の機能低下、食欲不振、胃痛、嘔吐の治療に使用されますが、漢方の証による忠実な症例は、胃腸の弱いもので、食欲がなく、みぞおちがつかえ、疲れやすく、貧血性で手足が冷えやすい人に用いるとされています。

 研究は2014年3月から2016年1月まで行われ、国内の56の医療機関が参加しました。研究に参加したのは、(1)機能性ディスペプシアの診断基準であるRomeIII診断基準を満たす、(2)Global Overall Symptom(GOS)スケールで4点以上が6カ月以上続いていて、Heartburnスコアが3点未満、(3)不安・抑うつの評価尺度HADSスコアで10点未満、(4)ヘリコバクター・ピロリ感染あるいは1年以内にその除菌療法を行ったことがない、(5)予め研究参加に文書同意した、という条件に合致した患者さん192人。なお、GOSスケールは日常的に症状でどれだけ困っているかを7段階で評価する尺度、Heartburnスコアは胸やけの症状を程度と頻度で点数化する尺度で、いずれも国際的に用いられているものです。

機能性ディスペプシアに伴う身体症状と精神症状に有益な可能性

 試験ではまず、全員が研究開始から2週間は薬効のない偽薬(プラセボ)を服用しました。それ以前に各患者さんが受けていた治療の影響を排除して厳格に薬効を判断するためです。2週間で自然に症状が改善してしまった患者さんなどを除き、最終的に126人が研究に参加することになりました。

 そして、126人を六君子湯群65人、偽薬(プラセボ)群63人に無作為に割り付けました。研究は無作為化二重盲検比較試験と呼ばれる方法で行われました。割り付けの内容を患者さんも医師もわからない、つまり六君子湯、偽薬のいずれを服用しているかが研究終了までわからないというものです。これは患者さんや医師のバイアスを排除する目的で行われるもので、科学的信頼度が最も高い研究方法として知られています。

 割り付け後はそれぞれの群の患者さんは、六君子湯か偽薬を1日7.5mgずつ8週間服用し、服用開始から4週間後と8週間後にGlobal assessment of overall treatment efficacy (OTE)という患者さん自身が回答する質問票で効果を評価しました。この質問票は、「かなり改善した」「改善した」「やや改善した」「変わらない」「やや悪化した」「悪化した」「かなり悪化した」の7段階で症状を評価するものです。

 試験結果は、4週間後では「かなり改善した」、「改善した」という回答の合計が、六君子湯群14.8%、プラセボ群11.4%で、8週間後では六君子湯群が37.7%、プラセボ群が22.9%でした。8週間後の結果では、統計学的な検討で明らかに六君子湯群の方が有効との結果が出ました。

 また、6種類の症状を評価する上部消化管症状の重症度評価用質問票(PAGI‐SYM)によるスコアリングでは、両群とも合計点数は治療開始前と比べ、治療開始後にスコアが低下し、症状の改善が認められました。ただ、このスコア低下の程度は六君子湯群がより大きく、六君子湯群では8週間後に6種類の症状全てが統計学的な検討で明らかに改善し、うち食後膨満感/早期満腹感と腹部膨満感の2症状では、プラセボ群に比べても統計学的に明らかに改善レベルが高いという結果でした。胃食道逆流症の症状を評価する評価尺度(m-FSSG)のスコアでも8週間後ではプラセボ群より明らかに高い改善が認められています。

 さらに不安・抑うつの評価尺度HADSの総スコアも六君子湯群では投与前と比較して、4週間後、8週間後と明らかに改善しました。HADSは抑うつ7項目、不安7項目の質問で構成されていますが、8週間後の時点ではいずれの項目でもプラセボ群よりも統計学的に高い改善レベルに達していました。

 一方、有害事象(副作用)の頻度は両群間で差はありませんでした。

 富永教授らはこの結果から「六君子湯は機能性ディスペプシアに伴う身体症状と精神症状に有益な可能性がある」と結論付けています。

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