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十全大補湯、補中益気湯などに大腸がんの肝臓への転移を防ぐ可能性

[漢方ニュース] 2016/07/11

第67回日本東洋医学会で富山大学の済木先生らが発表

 がんにかかると最も気を付けるべきことの1つが、がんが見つかった臓器(原発巣)から、がん細胞がリンパ節や他の臓器へ転移することです。転移が始まると、様々な治療も困難になり、患者さんの生命予後も悪化することはよく知られています。こうしたがんの転移に対して最近、動物実験などの結果から、一部の漢方薬に抑制効果があることが分かってきています。

 そうした事例として富山大学和漢医薬学総合研究所病態生化学分野教授の済木育夫先生らが、漢方薬の十全大補湯(じゅうぜんたいほとう) 補中益気湯(ほちゅうえっきとう) が大腸がんの肝臓への転移を防ぐ可能性があると、香川県・高松市で6月3~5日に開催された第67回日本東洋医学会学術集会で発表しました。

 十全大補湯と補中益気湯はともに、ホルモン分泌、血流、神経、免疫などの生体機能の低下を補う「補剤」と呼ばれる漢方薬で、一般的には病後、術後の体力低下や虚弱体質などの改善に用いられています。

 このうち十全大補湯は人参(ニンジン)、黄耆(オウギ)、蒼朮(ソウジュツ)、地黄(ジオウ)、当帰(トウキ)、川きゅう(センキュウ)、茯苓(ブクリョウ)、芍薬(シャクヤク)、桂皮(ケイヒ)、甘草(カンゾウ)、補中益気湯は人参、黄耆、蒼朮、柴胡(サイコ)、当帰、升麻(ショウマ)、陳皮(チンピ)、生姜(ショウキョウ)、大棗(タイソウ)、甘草とそれぞれ10種類の生薬で構成されています。

十全大補湯の投与量が多いほど転移結節数の減少が顕著に

 済木先生らは、あらかじめ十全大補湯を4mg、20mg、40mgという3種類の1日投与量で7日間経口投与させたマウスと十全大補湯を投与しなかったマウスに、Colon26-L5と呼ばれる転移を起こしやすい大腸がん細胞を肝臓につながる門脈という血管に移入し、肝臓への転移の状況を転移結節とよばれる、がんの転移により生じた隆起の数から比較しました。

 その結果、十全大補湯を事前投与したマウスでは、十全大補湯を投与しなかったマウスに比べ、明らかに肝転移の結節数が少なく、十全大補湯の投与量が多いほど転移結節数の減少が顕著であることが明らかになりました。また、事前に十全大補湯は投与せずにがん細胞の移入後に抗がん剤のシスプラチンを2回投与したマウスでは、十全大補湯1日40mgを投与したマウスと同程度に肝臓への転移を防ぎましたが、これらのマウスではシスプラチンの副作用とみられる体重減少が顕著で、実験に使用したマウスの半数が死んでしまいました。つまり、十全大補湯は抗がん剤のような激しい副作用を起こすことなく、肝臓への転移を抑制したことになります。

 そこで済木先生らはさらに人間の免疫を司る細胞のなかでも代表的なNK細胞、マクロファージ、T細胞をそれぞれ除去あるいは欠損したマウスで、同様の実験を行い、マクロファージがない状態では十全大補湯による転移の抑制効果がないことを明らかにしました。つまり十全大補湯はマクロファージを媒介にして大腸がんの肝臓への転移を抑制していることになります。

 十全大補湯は地黄、当帰、川きゅう、芍薬という4種類の生薬で作られる漢方薬・四物湯(しもつとう) と、主な生薬が人参・甘草・蒼朮・茯苓である四君子湯(しくんしとう) に桂皮、黄耆を加えた生薬などで構成されています。このため済木先生は四物湯、四君子湯でも同様の実験を行いましたが、四物湯では転移抑制効果が見られたのに対し、四君子湯では転移抑制効果がないことが分かりました。ちなみに四物湯と黄連解毒湯(おうれんげどくとう) という漢方薬の合剤である温清飲(うんせいいん) では、やはり転移抑制効果があったとのことです。

 ここから四物湯に含まれる地黄、当帰、川きゅう、芍薬という4種類の生薬が転移抑制に関係していると考えられますが、済木先生らがさらに進めた実験ではこの4種類の生薬うち川きゅう以外の3種類を含む人参養栄湯(にんじんようえいとう) 、地黄以外の3種類を含む当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん) では転移抑制効果がなく、この4種類の生薬のうち当帰のみを含み、それに加え他の生薬で構成される補中益気湯では転移抑制効果が認められました。しかもより詳細な実験では、補中益気湯の転移抑制効果は、NK細胞を介したものであることまで分かっています。

 将来的にはこの作用経路が異なる十全大補湯と補中益気湯を併用し、より効果的な転移抑制を狙うという処方も考えることができるのかもしれません。更なる研究が待たれます。

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