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【牛車腎気丸】FOLFOX療法による副作用、末梢神経障害の予防/論文の意義

[西岡将規先生]

西洋医学では対処法に乏しく困っている領域

FOLFOX療法による副作用の末梢神経障害を予防する
―牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)

 国内で急増している大腸癌で最も確実な治療は手術による癌の切除ですが、既に病勢が進行している場合や再発時には抗がん剤による化学療法が選択されます。現在、大腸癌の化学療法ではFOLFOX療法とよばれる画期的な多剤併用療法が登場して標準治療となっていますが、この治療でよく起こる手足のしびれに代表される末梢神経障害が治療継続の妨げになることが大きな問題として指摘されています。徳島大学の西岡先生らは『牛車腎気丸』でこの末梢神経障害が予防できることを発表しました。発表内容は日本国内の癌関連学会では会員数最大の日本癌治療学会が発行する英字学術誌『International Journal of Clinical Oncology』の2011年8月号に掲載されました。

背景:進行・再発大腸癌の生存期間延長に寄与すると言われるFOLFOX療法は、末梢神経障害の副作用により治療継続困難になる患者さんが多いことが最大の問題となっているが、これを改善する治療薬はなかった

FOLFOX療法での神経障害を予防 抗がん剤の中でも有効性が高いといわれる第3世代の白金製剤・オキサリプラチンを軸に、フルオロウラシル系の抗がん剤・5-FU、葉酸製剤・ホリナートカルシウムを用いた多剤併用療法・FOLFOXは、進行・再発大腸癌の治療を一変させ、患者さんの生存期間を大幅に延長させたといわれています。このため現在では、進行・再発大腸癌の標準療法としてFOLFOX療法が定着していますが、オキサリプラチンに特有の「末梢神経障害」という副作用が問題になっています。
 この末梢神経障害は具体的には手足に激しいしびれや痛みなどが起こり、手足の指が自由に曲げられなくなったりするもので、ときには温感や触感を喪失することもあります。冷たいものに触れたり、外気が低温になると症状は悪化し、日常生活の活動そのものに支障をきたすことも少なくありません。FOLFOX療法での治療中止の多くはこの末梢神経障害によるものとも言われているほどです。
 このため最悪の場合、FOLFOX療法で一時的に癌を抑えても、末梢神経障害による日常生活での不便さから治療を中止して癌の増殖が復活、ついには寿命が尽きてしまうという悪循環を作ってしまいます。つまり、この副作用をコントロールできれば患者さんはより高い治療効果とそれに伴う生存期間の延長が期待できます。
 FOLFOX療法による末梢神経障害の改善のために様々な薬剤を併用する補助療法がこれまでもいくつか報告されてきました。その代表格はグルコン酸カルシウムと硫酸マグネシウム(Ca/Mg)ですが、効果が十分とは言えず、さらにFOLFOX療法に対する癌の反応性を低下させる可能性があることも分かっています。
 『牛車腎気丸』は「地黄(じおう)」、「山茱萸(さんしゅゆ)」、「山薬(さんやく)」、「沢瀉(たくしゃ)」、「茯苓(ぶくりょう)」、「牡丹皮(ぼたんぴ)」、「桂皮(けいひ)」、「附子(ぶし)」、「牛膝(ごしつ)」「車前子(しゃぜんし)」といった生薬から構成され、足の痛みや腰痛、しびれ、冷え症、かすみ目、排尿困難、頻尿などの治療に用いられています。このことから糖尿病に伴う末梢神経障害などの治療にも用いられ、最近では婦人科領域の癌化学治療では欠かせない存在と言われるタキサン系の抗がん剤の副作用で生じる末梢神経障害でも有効と報告されています。
 今回、西岡先生らは大腸癌のFOLFOX療法の1種であるmFOLFOX6を施行した患者さんに生じる末梢神経障害予防のために、『牛車腎気丸』を併用し、未併用の場合と比べて末梢神経障害が抑制されることを明らかにしました。しかも、『牛車腎気丸』を併用しても他の副作用の頻度増加やFOLFOX療法の効果減弱はありませんでした。つまり、『牛車腎気丸』は他に何の影響も与えることなく、FOLFOX療法に伴う末梢神経障害のみを抑制したといえます。
 現在、『牛車腎気丸』のオキサリプラチンによる末梢神経障害抑制作用については、(1)脳内物質のダイノルフィンの分泌を促して鎮痛作用を示す(2)一酸化窒素(NO)産生増加により末梢神経への血液循環と血流量を改善する-というものが有力です。また、最近では体内で痛みの感覚を伝導する神経線維の一種・C線維の活性化に関わるタンパク質などを『牛車腎気丸』が減少させる作用があることも分かってきました。
 もう1つ注目すべきことは、今回の西岡先生らの研究結果はプロスペクティブ(前向き)試験と呼ばれる手法で行われていることです。これは予め特定のことを調べる目的で研究方法を考案して実施するやり方です。これとは逆のやり方がレトロスペクティブ(後ろ向き)試験というもので、すでに存在する臨床結果を後から解析して調べますが、解釈や解析に偏り(バイアス)が入りやすいといわれています。つまりプロスペクティブ(前向き)試験の結果の方が科学的には信頼性が高いと考えられています。

 これまでFOLFOX療法での末梢神経障害に対する『牛車腎気丸』の効果に関する研究はいくつかありますが、プロスペクティブ試験による研究は西岡先生らが初めてで、その意味では最も信頼性の高い結果の1つと言えます。

2013/02/22

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