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失職のストレスで、過食と嘔吐を繰り返すようになったうつ病の男性

[精神科医が使って知った漢方薬の魅力「意外と効くもんだ」] 2011/05/31

失職のストレスで、過食と嘔吐を繰り返すようになったうつ病の男性

 26歳男性。ストレスにより動悸・眩暈(めまい)などの身体症状や抑うつ気分が出現し、四年前から精神科に通院していた。パキシルやジェイゾロフトなどの抗うつ薬と、デパケンを気分安定薬として内服していたものの、芳しくなかったそうだ。さらには、仕事内容・家族関係のストレスが大きくなるに従い、イライラ・便秘・下痢も増えてきたという。
 そこで最初は、抑肝散(よくかんさん)を処方した。二週間後に受診した際には「イライラせずに、結構良い感じ」との評価であったので、このまま上手くいくかと思っていた矢先、急に勤務先が倒産して職を失ってしまった。失職は大きなストレスになる。この患者さんも不安感が高じて、過食症状が出現してしまった。さらに過食の後は「すっきりしたい」との理由で嘔吐を繰り返すようになった。
 そこで抑肝散から半夏瀉心湯(はんげしゃくしんとう)に変更。その結果、「沢山食べても気持ち悪くならないから、吐くのは減った」のだが、過食は依然として継続していた。一ヶ月経過してもその状態が続くため、今度は六君子湯(りっくんしとう)に変更した。すると、「気分が楽になって暴食が減ったし、お腹の辺りのつっかかりが取れて、吐くのも随分減った」と嬉しそうに語ってくれた。そのまま内服を続けながら就職活動を行っていたら、数日前になって「先生、就職が決まりました」という嬉しい報告をしてくれた。
 精神科やメンタルクリニック科で、抑うつ状態で食欲不振に陥っている患者さんには、抗うつ薬による副作用での嘔気(おうけ)を抑えたり、食欲増進を目的として、六君子湯を処方することが多い。また、「最近、少し元気が無くなってきて、食欲も落ちている」という高齢者に対しても、抗うつ薬を処方する程でなければ六君子湯が良い。「気力が出た」と喜ばれることが多い。
 ところで今回の男性のように、もともと抗うつ薬を内服している患者さんの場合には、「六君子湯を加えると、食欲が増進して、過食が悪化してしまうのではないか」、と心配する人もいるだろう。ところが実際には、六君子湯により気分が安定化するため、抗うつ薬の量を減らさなくとも過食や嘔吐が軽減する例が時に多々ある。
 過食というと、抗不安薬や抗精神病薬・抗うつ薬などで対応するのが普通だが、著効薬剤というものは少なく、カウンセリングに頼ることも多い。六君子湯であれば、副作用も殆ど見られず、自己中断しても離脱症状は無いため、安心して処方出来る一つの選択肢として今後も使用していきたいと思っている。

小松桜(こまつ さくら) 愛世会愛誠病院・漢方外来

2000年順天堂大学卒業。順天堂医院メンタルクリニック科で2009年まで勤務。
不定愁訴や過量服薬、副作用出現の患者さんに対し、向精神薬のみでの対応では加療困難なケースもあり、漢方に興味を持った。
現在の施設で本格的に学ぶようになり、2010年より漢方外来勤務。精神科専門医。
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