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婦人科領域の漢方薬(1)漢方薬の基本と月経困難症への対処

公開日:2019.12.04
カテゴリー:漢方ニュース

 卵巣からのホルモンの影響を受けるという点で男性とは大きく異なる女性では、月経に関連した疾患やはっきりとした原因は分からないさまざまな症状(不定愁訴)が現れます。そうしたなかで、婦人科のさまざまな症状に対して、漢方薬による治療が行われています。そこで婦人科領域で比較的訴えの多い「月経困難症」と「更年期障害」に対する漢方治療について、北里大学東洋医学総合研究所の森裕紀子先生にお話を伺いました。第1回は漢方薬の基本と月経困難症への対処です。

西洋薬と漢方薬で異なる得意分野。違いを理解することで、必要な治療がわかる

最初に基本的なことですが、漢方薬の処方と私たちが一般に受けている西洋薬の処方との考え方の違いを教えてください。

 一般的に、西洋薬による治療では、診断を行って病名を確定してから、その病名を適応に持つ薬が処方されます。これに対し、漢方は東洋医学に基づく診断で「証(体質や症状など)」を確定し、それに基づく処方を行います。このため同じ病気でも人によって処方される漢方薬が異なることがあります。また人によっては、月経困難症に効果があった漢方薬で、頭痛や下痢、便秘が良くなったということもあります。

 ただし、漢方薬による治療と西洋薬による治療は対立するものではなく、補完するもので、併用して行われています。

婦人科領域で漢方薬の治療を受けるにあたって、注意しておくべきことはありますか?

 漢方薬の治療と西洋薬の治療では、得意分野が違います。例えば、子宮頸がんでは、初期ならば切除して患部そのものを取り除くことが大切で、漢方薬による治療より手術の方が効果的です。早期発見のためにも婦人科領域で20歳以上を対象に実施されている子宮頸がん検診を受診しておくべきです。また40歳以降は子宮体がんも増加しますので、不正出血などがある場合は早期に受診して検査する必要があります。

 こうしたがん検診などに加えて、年に1回程度は血液検査をして貧血の有無や肝腎機能を確かめておくことが重要と、私は考えています。月経による出血があるため、男性に比べて女性は貧血になりやすいものです。毎月少しずつ月経によって貧血が進行する場合、重症になるまで貧血症状に気がつかないことがあります。貧血気味で月経困難症があるケースでは、貧血を改善することで月経困難症の症状が改善に向かうこともあります。また、漢方薬に限らず長期に薬を服用する場合は、肝腎機能の異常を起こす可能性があるため血液検査が必要です。

 月経困難症の場合、子宮筋腫や子宮内膜症が原因になっている場合もあります。年齢や症状、筋腫や内膜症の大きさによっては、漢方薬による治療よりも西洋医学的な治療を先行した方が良いこともあります。

 そのため婦人科の超音波検査などが任意で受けられるならば、受けておいた方が良いと言えるでしょう。

漢方薬で体質改善を目指しながら、月経困難症の症状改善を

証に基づく処方を行うとのことでしたが、そうした中でも漢方薬による治療が向いている婦人科領域の病気は、どのようなものがあげられるでしょう?

 代表的なものは子宮筋腫や子宮内膜症がない月経困難症、医学的には原発性月経困難症と呼ばれるものがあげられます。

 月経困難症では薬局やドラッグストアで手軽に買える一般用医薬品(OTC)の消炎解熱鎮痛薬を服用して対応している方も少なくありません。鎮痛薬は効果が出るのは早いですが、その効果はあくまで一時的なものです。もちろん急に痛みが強くなった時などやむを得ない場合の使用は否定しませんが、こうした鎮痛薬を月10回以上服用している場合には薬物乱用頭痛に陥る危険性もあります。薬物乱用頭痛とは、鎮痛薬などを服用する回数や量が増えていくことで、脳が痛みに敏感になり、逆に頭痛の頻度が増え、薬の効果も減るという悪循環に陥った状態です。

 特に年齢が進むと、生理痛以外に腰痛や頭痛を併発する人が増えてきます。鎮痛薬だけで対応すると、鎮痛薬の服用回数が増えてしまい薬物乱用頭痛になりやすい状態が起きてしまいます。漢方治療の場合、月経困難症を治療しながら体質改善を目指すため、このような観点でも漢方薬による治療が望ましいと言えます。

月経困難症に対する漢方薬治療の目標は?

 漢方薬による治療では、いま現在の月経困難症の症状を改善しながら、次の周期の症状もより軽くすることを念頭に治療を開始します。ちなみに西洋薬の鎮痛薬と漢方薬の併用は可能です。併用することで鎮痛薬の効果が長く続くようです。まずは鎮痛薬が不要な状態を、最終的には漢方薬や鎮痛薬を服用しなくても済む体づくりを目指します。

漢方治療では具体的にはどのように漢方薬を決めるのでしょうか?

 どの漢方薬を服用するかを決めるときに、胃腸の具合を検討します。人によっては漢方薬の服用で胃痛などを起こすこともあるからです。胃痛が起こる状態で漢方薬を飲み続けることは避けるべきです。もし胃腸が弱いと診断された場合は、胃に負担のない漢方薬あるいは、胃腸を整える漢方薬を処方することになります。

漢方の「婦人科三大処方」、月経困難症など婦人科疾患のさまざまな症状に対応

月経困難症の治療では具体的にはどのような漢方薬を使うのでしょうか?

 私は第一選択薬としては当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)が望ましいと考えています。当帰建中湯は桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)に当帰(とうき)という生薬を加えた漢方薬です。

当帰建中湯

 桂枝加芍薬湯は芍薬(しゃくやく)、桂皮(けいひ)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)という生薬で構成されていて、ふだんから下痢や便秘がちな胃腸の弱い人に用いられる漢方薬です。これに血行を良くして体を温め、痛みなどをとる作用を持つ生薬である当帰を加えたのが当帰建中湯です。

 もっとも中には当帰建中湯の当帰で胃痛を生じて服用できない人もいます。そうした方にはストレス性胃炎などにも使われる安中散(あんちゅうさん)を用います。安中散は桂皮、延胡索(えんごさく)、牡蛎(ぼれい)、茴香(ういきょう)、甘草、縮砂(しゅくしゃ)、良姜(りょうきょう)という7種類の生薬で構成されています。このうちの延胡索にはやはり血行を良くして体を温め、痛みをとる作用があります。いずれも基本は胃腸を整える漢方薬ですが、鎮痛作用を持つ生薬が含まれているため、胃腸の弱い月経困難症の患者さんの中には、これらを服用するだけでも症状が改善する方もいます。

 月経困難症以外に、ふだんから食欲がないという人には人参(にんじん)、蒼朮(そうじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、半夏(はんげ)、陳皮(ちんぴ)、大棗、甘草、 生姜の生薬で構成され、胃腸を整えることにより特化した漢方薬である六君子湯(りっくんしとう)を用います。

 また第一選択薬である当帰建中湯を服用してもなお生理痛が残っていて、冷え性がある場合は、当帰建中湯に体の中から温める作用を持つ生薬の細辛(さいしん)、呉茱萸(ごしゅゆ)、さらには利尿作用を有する生薬の木通(もくつう)が加わり、冷え性やしもやけの改善などに用いる当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)に切り替えます。

月経困難症以外の症状もある場合はどうするのでしょうか?

 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)が通称「婦人科三大処方」として知られています。婦人科領域のさまざまな症状は月経困難症も含めて、実はこの三大処方のいずれかで6割くらいの人が改善するとも言われているほどです。

 当帰芍薬散は芍薬、川芎(せんきゅう)、蒼朮、沢瀉(たくしゃ)、当帰、茯苓という生薬を含んでいますが、下半身がむくみやすく、冷え症がある、どちらかというと下痢しやすい、色白、天候不順時に体調が悪化しやすい人に適しています。

当帰芍薬散

 桂枝茯苓丸は桂皮、芍薬、桃仁(とうにん)、茯苓、牡丹皮(ぼたんぴ)という生薬で構成され、当帰芍薬散とは逆に筋肉質気味で、便秘傾向、肩こりなどの症状のある方が向いています。

桂枝茯苓丸

 一方、加味逍遙散については柴胡(さいこ)、芍薬、当帰、茯苓、蒼朮、山梔子(さんしし)、牡丹皮、甘草、生姜、薄荷(はっか)という生薬で構成されますが、当帰芍薬散と桂枝茯苓丸のそれぞれで使われている生薬の一部が含まれています。その意味では当帰芍薬散、桂枝茯苓丸のそれぞれの処方に当てはまる症状をともに持つ方、また生理前にイライラ感が強まる方などが向いています。

加味逍遙散

 おおむね中高生の月経困難症を訴える方は、当帰建中湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯とこれら三大処方のいずれかでほぼ症状が改善することが多いものです。

年齢が高くなると月経困難症は治りにくいものなのでしょうか?

 高校生ぐらいまでと比べ、20~30歳以降での月経困難症は確かに治りにくくなります。年齢とともに子宮筋腫や子宮内膜症のある人が増えますし、冷え症や生活習慣による体への負担が症状として出てくる人が増えるからです。

 それでもまずは三大処方で当てはまるものがあればそれの処方を優先し、当てはまらないのであれば漢方医と十分に相談してその他の処方を検討していくことになります。

(聞き手:村上和巳)

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