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Vol.1 40代以降の冷えと漢方 ~冷えが「万病のもと」である理由~

公開日:2022.12.16
カテゴリー:病気と漢方

寒さが身に染みる秋から冬にかけて、多くの人が悩まされる「冷え」。パンパンに重ね着しないと外に出られない、食品売り場フロアの寒さに耐えられない、手足が冷たくてなかなか寝つけない…などに悩む人も多いと思います。体質だからと改善を諦めてしまいがちな「冷え」ですが、そのままにしてしまうと、さまざまな不調や深刻な病気の原因となることをご存じでしょうか。今回は、修琴堂大塚医院院長の渡辺賢治先生に、冷えの原因や引き起こされる病、具体的な改善方法などについてお話を伺いました。

漢方では「冷え症」。立派な病気です

「冷え」を一般的な病院で訴えても、検査して特別な原因が見つからない場合は、冷え「性」、あるいは「体質」とされるだけで、治療対象にはなりません。しかし、漢方医学を含む東洋医学では「冷え」を、“治療が必要な状態”ととらえると渡辺先生は言います。

「西洋医学では『冷え』という病名はないので、基本的に冷えを治療する薬はありません。それに対して東洋医学では、体の冷えを『冷え症』というひとつの病気としてとらえます。しかも、さまざまな不調を引き起こす原因になるものとして重要視しているのです。ちなみに漢方医学では、体に必要なエネルギーが不足する『気虚(ききょ)』、血液の流れが滞ってしまう『瘀血(おけつ)』、余分な水分が滞留してむくみが生じる『水毒(すいどく)』、また自律神経が乱れて血管の収縮・拡張が上手にできない『気滞(きたい)』などが、冷え症の原因と考えます」(渡辺先生)

体が冷える、手足が冷たいといったほか、「気虚」による倦怠感、「瘀血」による肩のこり、「水毒」によるむくみなども症状としてあらわれてきます。さらに冷えが進むと、太りやすい、疲れやすい、眠れない、なども引き起こされるといいます。「たかが冷え」と軽く見ないことが大切です。

冷え症の部位別タイプと主な原因

頭から足の先まで、冷え症は全身に及びますが、冷えを感じる部位で、原因も少しずつ異なってくるのだと渡辺先生は説明します。以下、タイプ別の特徴を伺いました。

手足が冷える人

「熱は血流に乗って体内を巡りますが、巡りが悪いため体の末端まで血液が行き届かず、手や足の指先が温まらないまま冷えている状態です。痩せている人や女性に多く、その場合は食事によるエネルギー不足や血流低下、自律神経の乱れが主な原因です」(渡辺先生)

全身が冷える人

「特に高齢者や若い男性などに見られることが多く、体の表面も体内の温度も低下している状態です。代謝機能の低下(=エネルギー産生量不足)が主な原因。疲労やストレス、不摂生などで起きた自律神経の乱れによる体温調整機能の低下も原因となります」(渡辺先生)

下半身(腰やお尻)が冷える人

「腰より下の下半身全体が冷えている状態です。座りっぱなしの姿勢で下半身の血流が悪くなることや、加齢とともに筋肉量が落ちることなどが原因。日常的に運動する習慣がない30代以降の男女に多く見られます」(渡辺先生)

お腹が冷える人

「手足が温かく冷えを感じていないのに、実際は内臓が冷えていて、下痢や便秘を起こしやすい状態です。肥満傾向にある人、中高年の女性を中心に男性にもみられ、自覚していない人も多くいます。冷たい飲食物のとり過ぎや、自律神経の乱れが主な原因です」(渡辺先生)

冷えは「万病のもと」。さまざまな病気の発症リスクにつながる

このようにさまざまなタイプがある「冷え症」ですが、どのタイプもそのままにしてしまうと、心身の不調や深刻な病気の原因となることはあまり知られていません。それこそが「冷えは万病のもと」と言われるゆえんだと、渡辺先生はおっしゃいます。

「冷えが続いた場合の体への影響は、まず内臓機能の低下が考えられます。胃腸の血流が悪くなると、食欲不振や消化不良、下痢や便秘などの症状につながります。また、肝臓や腎臓への血流が滞れば、不要物や有害物質の解毒、排出機能が低下してしまい、むくみのみならず、肝不全、腎不全などの深刻な病気の発症リスクも高まる場合があります。さらに、生殖器系への影響も深刻で、女性の場合はPMS(月経前症候群)や月経困難症、子宮筋腫や子宮内膜症などの病気、男性の場合はED(勃起不全)や精子の減少・運動率の低下などにもつながりかねません。また、手足の冷えはしびれやこり、頭部の冷えは頭痛やめまいの誘因となることもあります」(渡辺先生)

私たちの体では、それぞれの細胞の中でさまざまな化学反応が起こされ、それによって活動や生命維持に必要な物質やエネルギー、熱が生み出されています。「冷えはその活動のひとつである熱を作る機能が低下している状態」だと渡辺先生は指摘します。
また、「冷えによって胃腸の働きが鈍くなると、消化・吸収能力が弱まります。その結果、栄養素を多く含むものを食べても、うまくエネルギーを作り出せずに体が温まらないという悪循環になってしまいます。また、治療でも大切なのは漢方薬などを上手に使って“熱を上げること”。発熱は細菌やウイルスを排除するために生体が持っている力で、それを最大限に引き出せれば短期間で感染症を治癒に導くことができると考えられます。私は今までたくさんの新型コロナ患者さんを治療してきましたが、体温が高めの人は回復が早いように感じています。冷え症はその意味でも、改善したほうがよいと考えています」(渡辺先生)

冷えを遠ざける生活習慣とは?

冷えを改善するには、手袋や靴下などで「外から温める」だけではなく、血流をよくして、体の芯から温めたり、自律神経を整えたりして、「根本から改善」する必要があると、渡辺先生は訴えます。

「そのためには生活習慣を見直すことが大切。食事では、熱の材料としてタンパク質が必要です。朝食も、パンとコーヒーだけではなくて、卵焼きを加えたりして意識してタンパク質をとるようにしてください。冷たい食べ物・飲み物は内臓を冷やすので、なるべく控えめに。また、熱エネルギーの6割は筋肉の細胞内で産生されるので、運動したり、日常生活の中でこまめに動いたりしましょう。特にふくらはぎは、末端から心臓へ血液を戻す重要な役割を担うので、筋肉量を増やしてほしい箇所です。

さらに、欠かせないのが『入浴』。夏は38℃前後、冬は40℃前後のぬるめのお湯に15分以上入るのがおすすめです。血流をよくし、体を芯から温め、さらにリラックスモードの副交感神経にスイッチが入り、自律神経バランスも整えられるので、一石三鳥の効果があります」(渡辺先生)

生活を改善しながら、冷えが深刻化する前に漢方を

前述のとおり、東洋医学では冷えは万病のもとと考えますが、その一方で未病の段階で治療すれば大きな病気を防げるとも考えます。そのため、冷えにアプローチする薬は豊富にあり、「冷えをとるのは漢方薬の得意中の得意」であると渡辺先生は言います。「まずは生活改善。足りないところを漢方薬で補うとよいでしょう」(渡辺先生)

ここでは先生が実際に処方している漢方薬をご紹介します。

手足が冷える人におすすめ

桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)

どちらも「瘀血」=循環が悪い状態に効果を発揮する薬。血行をよくして、冷えた体を温めてくれます。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯はしもやけの特効薬です。

全身が冷える人におすすめ

真武湯(しんぶとう)
八味地黄丸(はちみじおうがん)
牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)

どれも体温を上げる効果が高い生薬「附子」(ぶし)が入ったもの。体力をつけ、基礎代謝を高めて、冷えをとります。

下半身が冷える人、お腹が冷える人におすすめ

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
小建中湯(しょうけんちゅうとう)
大建中湯(だいけんちゅうとう)

当帰芍薬散は血液の巡りをよくして体を温めるほか、水分代謝を整えてくれるので、むくみの改善にも役立ちます。
小建中湯と大建中湯は、お腹が冷えて便秘や下痢をする人に。消化器を直接温める漢方薬です。

「体が冷えるのは体質だからしょうがない」と諦めてしまう前に、できることはたくさんあります。さらなる不調や深刻な病気を引き起こす前に、冷えを根本から改善して、今年こそポカポカな自分を手に入れましょう。

Vol.2では、更年期を迎える40~50代女性や、働き盛りの男性にも増えているという「隠れ冷え症」について、引き続き渡辺先生に伺います。

渡辺賢治(わたなべ・けんじ)先生
修琴堂大塚医院院長

慶應義塾大学医学部卒業、同大医学部内科学教室、米国スタンフォード大学遺伝学教室で免疫学を学ぶ。帰国後漢方を大塚恭男に学ぶ。
慶應義塾大学医学部漢方医学センター長、慶應義塾大学教授を経て2019年より修琴堂大塚医院院長、慶應義塾大学医学部客員教授。

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