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がん治療における口内炎には、半夏瀉心湯が有効

公開日:2018.09.05
カテゴリー:漢方ニュース

国立がん研究センター研究所の上園先生が講演

 抗がん剤や放射線などのがん治療において、口内炎は極めて発生頻度の高い副作用として知られています。とりわけ抗がん剤治療では、口腔粘膜で活性酸素や炎症や痛みの基になる物質であるプロスタグランジンE2(PGE2)の量が増加して粘膜表面を傷つけ、ここに免疫が低下したことなどによって増加した細菌などが作用して口内炎が悪化することもわかっています。

 国立がん研究センター研究所がん患者病態生理研究分野長の上園保仁(うえぞの やすひと)先生は、認定NPO法人キャンサーネットジャパンが主催するがん医療フォーラム「ジャパンキャンサーフォーラム2018」で、抗がん剤治療によって起こる口内炎の副作用対策に漢方薬の半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう) が有効であることを紹介しました。

 「がん治療の副作用として発生する口内炎は、上あご、あるいは下あごの全部という広い範囲で炎症が起こり、しかも傷が深いのが特徴。患者さんは痛みで食べられない、飲めない、喋れないという、つらい経験をするが、有効な薬がありませんでした」(上園先生)

 半夏瀉心湯は半夏(はんげ)、黄ごん(おうごん)、乾姜(かんきょう)、人参(にんじん)、甘草(かんぞう)、大棗(たいそう)、黄連(おうれん)という7種類の生薬で構成されています。みぞおちがつかえ、ときに悪心、嘔吐があり、食欲不振で腹が鳴って軟便または下痢の傾向のある人での、急・慢性胃腸カタル、醗酵性下痢、消化不良、胃下垂、神経性胃炎、胃弱、二日酔い、げっぷ、胸やけ、口内炎、神経症などの症状に一般的には用いられています。

黄芩、乾姜、黄連に痛みの基を抑える働き

 上園先生らがヒトの口腔粘膜の細胞を採取して、人工的に口内炎同様の炎症を起こさせる実験を行ったところ、口内炎モデルの細胞では、そうでない細胞に比べ、炎症・痛みの原因であるPGE2の量が約40倍にまで増加していたそうです。

 そこに半夏瀉心湯を加えると、PGE2の量はどんどん低下することが確認されました。今度は半夏瀉心湯の構成生薬の成分を1つずつ加えてみたところ、半夏瀉心湯に含まれる黄ごん、乾姜、黄連にPGE2を低下させる効果があることが分かりました。

 また、採取した口腔粘膜細胞に傷をつけ、細胞が修復してくる時間を半夏瀉心湯を加える時と加えない時で比べると、半夏瀉心湯を加えた方が明らかに傷の修復が早いことも分かりました。これについても生薬ごとの効果を調べたところ、傷を治す効果があったのは黄ごん、乾姜、甘草の3種類でした。

 さらにがん細胞やがん細胞に抗がん剤を加えたところに半夏瀉心湯を加えても、がん細胞を増やしたり、抗がん剤の作用に影響するようなことはないのも確認されました。

 これ以外にも半夏瀉心湯に含まれる生薬のうち半夏以外の6種類は活性酸素の消去作用、半夏、黄連、乾姜には抗菌作用があり、上園先生は「半夏瀉心湯に含まれる生薬は、口内炎に対してどれ1つとして無駄なものがない」と話しました。

 講演で上園先生は、5-FUと呼ばれる抗がん剤をベースにした治療が原因で口内炎を起こした大腸がん患者さんを、半夏瀉心湯を溶かした水、あるいは偽薬(プラセボ)を溶かした水で1日3回、口をすすぐという2つのグループに分け、口内炎に対する効果を比較した研究結果も紹介しました。この結果では、口内炎が治るまでにかかった日数がプラセボの人では10.5日に対し、半夏瀉心湯では5.5日と口内炎を早く治す効果があることが分かりました。

 漢方薬の場合、一般的に粉末化されたエキス製剤が使われますが、その匂いや味が苦手な人もいます。上園先生によると、そうした場合はココアやココア味の粉末麦芽飲料に混ぜると抵抗なく口にできるとのことです。(村上和巳)

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