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【麦門冬湯】かぜの後の長引く咳の改善効果/論文の意義

公開日:2011.12.09
カテゴリー:特集・漢方の実力

西洋医学では対処法に乏しく困っている領域
かぜの後の長引く咳を早期に改善することができる-麦門冬湯(ばくもんどうとう)

 かぜをひいた後、ほかの症状はよくなったのに、なかなか咳が止まらないという経験はありませんか。病院で咳止め(鎮咳剤)をもらって飲んでもよくならず、せっかくかぜが治ったはずなのに辛い状態が続くことがあります。今回、入船和典先生(愛媛大学大学院病態情報内科学(第二内科))らは、無作為化並行群間比較試験により、もともと咳に効果があるとされてきた麦門冬湯が、そのようなかぜの後の長引く咳を早めに軽減できることを明らかにしました。この研究成果は、植物由来の医薬品やその治療の研究に関する国際的な医学専門誌『Phytomedicine』2011年6月号に掲載されました。

背景:かぜをひいた後に長引く咳は,鎮咳剤で改善しない場合が少なくない

かぜの後の長引く咳 かぜをひいた後に咳が止まらないという訴えで、病院にいく人はかなり多いようです。この症状には「かぜ症候群後遷延性咳嗽(post-infectious prolonged cough; PIPC)」という病名がついていることをご存知ですか。咳嗽(がいそう)とは咳のことですが、3週間以上続く咳嗽が遷延性咳嗽と定義されています。
 かぜ症候群後遷延性咳嗽の原因は完全には解明されていませんが、かぜによって気管支の表面を覆っている細胞がダメージを受けて、気道に炎症が及ぶために起こると考えられています。また、それによって、気管支の表面を保護しようとして、分泌物が過剰に分泌されますが、本来はその分泌物を外に運ぶ役割を果たす線毛細胞※1も障害を受けているため、分泌物が痰として気道の外に出にくくなってしまうことも咳の原因となると思われます。

 遷延性咳嗽の一般的な治療薬は中枢性鎮咳薬とされており、この薬剤は脳にある咳中枢(咳をコントロールする司令塔)の働きを抑える作用があります。しかし、この薬剤では効果を示さない患者さんも多くおり、別の治療法の必要性が認識されていました。
 『麦門冬湯』は、「麦門冬(ばくもんどう)」、「半夏(はんげ)」、「大棗(たいそう)」、「甘草(かんぞう)」、「人参(にんじん)」、「粳米(こうべい)」の6つの生薬で構成されています。主薬の麦門冬にはのどを潤して粘り気のある痰を出しやすくする作用があることが知られており、『麦門冬湯』は痰の切れにくい咳や気管支炎、気管支ぜんそくに使われます。
 近年、日本の複数の研究グループが、麦門冬湯の遷延性咳嗽に対する効果の検討を精力的に進めています。すでに、いくつかの研究により、この漢方薬による遷延性咳嗽の改善効果が報告されていますが、今回、入船先生は初めて、無作為化並行群間比較試験※2という、科学的により厳格な検討方法を用いて、かぜ症候群後遷延性咳嗽に対する効果と安全性を確認しました。

※1 細胞表面に産毛のようなもの(線毛)をもっており、それが動いて細胞表面上にある物質を運び出す機能をもつ細胞
※2 患者さんを、2つのグループに無作為に割り振って、両グループを同時に観察し結果を比較する方法

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