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北里大学東洋医学総合研究所 小田口浩所長

公開日:2020.07.06
カテゴリー:外来訪問

~漢方薬の新時代診療風景~
 漢方薬は、一般に知られる処方薬(西洋医学)では対処が難しい症状や疾患に対して、西洋医学を補完する使われ方も多く、今後の医療でもますます重要な役割を果たすと考えられます。
 近年、漢方薬の特性については科学的な解明が進んだこともあって、エビデンス重視の治療方針を取る医師の間でも漢方薬が使用されることが増えています。
 漢方薬を正しく理解して正しく使うことで、治療に、患者さんに役立てたい。日々勉強を重ねる、身近な病院の身近なドクターに、漢方活用の様子を直接伺いました。ドクターの人となりも見えてきます。

患者さんの薬の量を減らしたい、それが漢方の出会いのきっかけに

小田口浩先生

 医師としてスタートした当時は、心臓血管外科を専門としていました。しかし、その後私的な事情があり、故郷である鹿児島県指宿でプライマリ・ケアへ転向。漢方と出会ったのはこのときです。それまで抱いていた印象とは違う、可能性のある医学だということに気づき、それ以降は漢方をメインに勉強し、今に至ります。

 プライマリ・ケア領域では、高齢の患者さんを多く診ることになります。高齢の患者さんは、高血圧や糖尿病など、ふだんから多くの薬を服用している方が少なくありません。そこに風邪をひくと、さらに咳止めや抗アレルギー剤などの薬が増えてしまう。具体的には、もともと10種類くらい薬を飲んでいる方が、風邪をひくことでプラス3種類。こんなことでは薬を飲むだけでお腹がいっぱいになってしまいますよね。どうにか薬を減らす方法はないかと思ったときに出会ったのが漢方薬でした。また、漢方を勉強し始めて間もない頃、自分がインフルエンザにかかったことがありました。これまでは、インフルエンザにかかると、ものすごい悪寒と発熱で苦しい思いをしていたのに、漢方(麻黄湯)を服用したらスーッと気持ちよく汗をかいて、翌日には熱が下がりスッキリ治ったのです。これは漢方独自の治し方でもありますが、すごいなと感動を覚えました。患者さんの薬の量を減らしたかったことと、この自分の体験が契機となって、漢方の魅力にはまっていきました。

全身のバランスをうまく調和してくれるのが漢方の魅力

 医師から見て、漢方の魅力は、大きく分けて2つあります。

 1つめは、全身のバランスをうまく調和してくれるということ。西洋医学は、病気の原因を特定し、その原因をターゲットとして手術をしたり、薬を服用したりして治療していくスタイルです。合理的で、新しい治療法もどんどん研究されています。しかし、身体というのは不思議なもので、1つのターゲットを治しても、他にゆがみが出るなど、そこだけを治すことでは解決しない場合もあれば、原因がはっきりわからない場合もあります。また、自律神経のバランスが悪いときなどは身体全体の調子が悪くなっていることもあります。こうなると、西洋医学では対応が難しいものですが、漢方はこうした西洋医学的に診断のつかないものや、原因がわからないもの、いくつか複合的な要因が絡んでいそうなものに対して、力を発揮してくれます。

 また、西洋医学では、同じ病名であれば誰に対しても同じ薬を用いるのが一般的です。例えば片頭痛の場合、西洋医学では、痛みを抑えるトリプタン製剤というのを用いることが多くあります。しかし、漢方では、片頭痛のほかに、どういった症状があるかで使う薬が変わります。冷え性か、暑がりか、むくみがあるか、天気が悪いときに具合が悪くなるかどうか、生理周期によって具合が変化するかどうかなどで判断するのです。

 漢方は生薬の組み合わせでできているものなので、1つの薬の中に何百、何千もの成分が含まれています。悩みがいくつもあるような人でも1つの漢方で治療できるのは、漢方の魅力です。

漢方なら病気になる前の「未病」も治療対象に

桃仁

 もう1つの漢方の魅力は、病気になってから飲むだけでなく、予防にも使えるということです。漢方の世界では、病気と健康な状態の間のことを「未病」といいます。例えば、健康診断などでは異常はみつからなかったけど、体調が優れないなどの状態です。そのまま何も対処しないと、メンタルも含め本格的な病気になってしまうこともあります。こうしたときに活躍してくれるのが漢方です。当センターでも、患者さんはお子さんから高齢の方までいらっしゃいますが、40代の方、特に女性が多く来られます。40代は特に体調の変化が起こりやすいときです。ホルモンのバランスが崩れると、免疫や自律神経などにも影響が及びます。毎日を健康にイキイキ過ごすために、漢方を活用されている方が多い印象です。

オーダーメイド診療で一人ひとりに合った漢方薬を

北里大学東洋医学総合研究所

 北里大学東洋医学総合研究所は、日本で最初に漢方薬や鍼灸による治療を中心にした日本の伝統医学の総合的な研究機関として1972年に設立されました。その特長は大きく2つに要約できます。

 1つは、良質な生薬を用いているということです。漢方薬は素材がよくなくては効果が期待できません。当漢方誠灸治療センターでは、安全性が高く質が良い生薬だけを国内外から厳選しており、生薬供給元の見直しもこまめに行っております。生薬をきちんと見極められる目利きがいるからこそ可能な対応は、当センターの特徴の一つです。

 2つめは、一人ひとりに合ったオーダーメイドの診断を行えることです。薬がよくても使い方が適切で、その方に合ったものでなくては効果を望めません。当センターにおける診療担当者の多くが、日本東洋医学会専門医制度の指導医資格を有しており、その知識を患者さんの治療へ反映させています。例えば、同じ漢方でも、そのまま出す場合もあれば、何か生薬を足してみたり、減らしてみたりすることもあります。生薬単位でのアレンジは診断能力がないとできないことです。これができるのは当センターの強みだと感じています。漢方はパシッと効く場合もありますが、基本的にはじっくり効くのがメリットです。一気によくなるのではなく、じわじわよくなるため身体にも優しく、いい状態が長続きします。よい方向へ向かっているという実感は持てないといけませんが、正しい診断のうえ間違いのない薬を飲んでいただくのが、体調がよくなる近道になります。当センターには、長い方だと30〜40年通われている方もいますが、1〜2ヶ月集中的に治療を行いたい、という方もいます。それぞれの患者さんに応じて漢方のレシピを決め、処方できる施設ですので、通常の漢方薬を飲んでも効果が得られなかった方、あちこち悪いところがあり、色々な科へ行ったけれどもなかなか改善しない、という方はぜひ1度、受診してみてください。

 今後も当研究所では、「患者さんの全身を診る」という漢方の特長は守りつつ、漢方のよさを裏付けるための研究も同時に進めていく予定です。現在は、AIで多くの情報を集約化できる技術も進んでいます。これを漢方へも活用し、漢方の多くの成分が身体へどのように効いているのかを解析していきます。漢方は古くからの先人の知恵、知識の集積の集約でもあります。昔の文献を発掘するなど古典の研究も同時に進めていきます。また、大学の施設としての側面もありますので、医師や看護師、薬剤師などを目指す学生たち、さらには専門医を目指す医師への教育も引き続き注力していきたいと思っています。

北里大学東洋医学総合研究所 漢方鍼灸治療センター

医院ホームページ:https://www.kitasato-u.ac.jp/toui-ken/center/
北里大学東洋医学総合研究所外観百味箪笥漢方薬

東京メトロ「広尾駅」の1・2番出口より 徒歩10分、「白金高輪駅」の3番出口より 徒歩12分。「北里研究所前」バス停下車、「天現寺橋」バス停下車徒歩5分、「恵比寿三丁目」「天現寺橋」バス停下車 徒歩5分。詳しい道案内は医院ホームページから。

診療科目

漢方外来、鍼灸外来

小田口浩(おだぐち・ひろし)所長略歴
小田口浩先生
慶應義塾大学医学部卒業後、慶應義塾大学心臓血管外科、指宿鮫島病院を経て北里大学東洋医学総合研究所。2016年より同所長、2018年より北里大学医学部教授を兼務。


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