漢方薬によるインフルエンザの予防と治療

[病気と漢方] 2019/12/24
 今年もインフルエンザの感染が広がりを見せ始めています。国立感染症研究所は、例年より1か月ほど早い11月15日に全国的な流行期に入ったことを発表しました。1999年からの統計データによると、これは「新型インフルエンザ」が世界的に大流行した2009年に次いで2番目の早さです。こうした中、インフルエンザの治療薬が効きにくい、耐性ウイルスが広がる恐れがあると東京大学の河岡義裕教授らのグループが発表1)し、話題となっています。
 猛威をふるうインフルエンザに対して、私たちはどのような対策をとればいいのでしょうか。漢方治療の見地から、野木病院副院長/筑波大学附属病院臨床教授の加藤士郎先生にお話を伺いました。

インフルエンザに負けないために

 インフルエンザとは、インフルエンザウイルスによる感染症のことで、12〜3月頃に流行します。一般的なかぜは一年を通して感染しますが、それほど強い感染力はなく、のどの痛みや鼻水、咳やくしゃみなどの症状が主で、全身の症状はあまり見られません。一方でインフルエンザは、非常に感染力が強く、38度以上の発熱や頭痛、関節痛、筋肉痛、全身の倦怠感など複数の症状が短期間のうちに現れるのが特徴です。インフルエンザウイルスは、A型、B型、C型と大きく3つに分類されますが、大きな流行を引き起こすのがA型とB型です。今年度、先に流行し始めているのはA型ですが、A型B型ともに流行する可能性もあり、1シーズンに2回かかることも考えられます。子どもの場合は急性脳症、お年寄りや免疫力の低下している人は肺炎を併発したりと重症化することもあるので、注意が必要です。

 インフルエンザは、咳やくしゃみなどに含まれるウイルスを吸い込んだり、ウイルスが付着した手で口や鼻に触ることによって感染します。予防のためには、咳やくしゃみが出るときはマスクをすること、こまめに手洗いやうがいをすること、室内の湿度を適度に保つこと、人混みへの外出をなるべく控えることなどが大切です。また、事前の対策として予防接種が挙げられます。残念ながら100%防ぐことはできませんが、かかった場合でも重症化を避けることができます。

予防には補中益気湯(ほちゅうえっきとう)

 インフルエンザの予防法として新たに注目されているのが漢方薬です。在宅強化型老人保健施設から自宅へ退所した75歳以上の患者145例を対象にした調査2)では、補中益気湯(ほちゅうえっきとう) を服用したグループが服用しなかったグループに比べて、インフルエンザと肺炎の罹患率が明らかに低いという結果が得られました。インフルエンザの年間罹患率は、服用しなかった群が22.5%だったのに対し、服用した三群では平均9.5%と半分以下に、肺炎についても、服用しなかった群の17.5%に対し、服用した三群の平均は5.7%と、約1/3にとどまったのです。

 補中益気湯は、人参や甘草、生姜など10種類の生薬から成り立っている漢方薬で、体が弱っているときに体力を回復させる「補剤」のひとつとして知られています。病気や手術後に体力が低下したとき、虚弱体質の改善、普段からかぜをよくひくような人に使われます。お年寄りは体力が落ちやすいため、補剤である補中益気湯を服用することがインフルエンザの予防につながったと考えています。

かかったときは麻黄湯(まおうとう)

 インフルエンザにかかってしまった場合、麻黄湯(まおうとう) が有効だということがわかってきました。一般的にはインフルエンザの治療には抗インフルエンザ薬が使われますが、これは発症後48時間以内の服用が必要とされています。しかし麻黄湯にはこうした制限はなく、また、抗インフルエンザ薬との併用も可能です。麻黄湯には、麻黄、杏仁、桂皮、甘草という4つの生薬が含まれています。麻黄は、エフェドリンという成分が主で、体の代謝を高め、免疫を司る白血球の中にあるリンパ球を活発にさせることでウイルスを攻撃し、インフルエンザを治癒に導いてくれる働きをもっています。さらに漢方薬は全身に作用するので、インフルエンザによって起こる関節の痛みや全身の倦怠感などの全身症状の改善にも期待されています。ただし、麻黄が含まれる漢方薬は、妊婦さんや、心臓に持病のある人、体力が著しく低下したお年寄りなどは注意して服用する必要があります。

 寒くなり、乾燥が気になる冬は、かぜやインフルエンザにかかりやすくなる季節です。普段から漢方薬を活用するのはもちろんのこと、いざというときにも漢方薬の力を借りて、健康維持に努めましょう。

加藤士郎(かとう・しろう)先生
野木病院副院長/筑波大学附属病院臨床教授

1982年獨協医科大学卒業。2009年野木病院副院長、筑波大学非常勤講師。同年、筑波大学付属病院総合診療科に漢方外来開設。2010年から筑波大学付属病院臨床教授。

参考

  • 1) Imai M et al.:Nat Microbiol. 2019;doi:10.1038/s41564-019-0609-0. [Epub ahead of print]
  • 2) 加藤士郎,ほか.漢方医学.2016;40:49-52
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