季節の養生 冬 かぜやインフルエンザに負けない身体を作る

[病気と漢方] 2020/02/04
 1972年に日本初の漢方医学の総合的な研究機関として設立された北里大学東洋医学総合研究所。長い歴史を通じて、日本人の体質や気質にあった形に発展してきた漢方には、季節ごとに生じる悩みを乗り切る知恵が詰まっています。北里大学東洋医学総合研究所の広報・医療相談室室長で薬剤師である緒方千秋先生に、季節にあった漢方の知恵を教えていただきます。第3回目は、かぜとインフルエンザについて解説していただきます。

 誰もが一番身近な疾患と考えがちな「かぜ症候群」は、少しおとなしくしていればじきに治るだろうと思い、積極的に治療をしない方も多いのでないでしょうか。しかし「かぜは万病のもと」と言われるほど、時には重症化してしまうこともあるのです。

 かぜは鼻からのどにかけての空気の通り道(上気道)に起こる呼吸器の感染症で、多くがウイルス感染です。症状としては、悪寒、発熱、くしゃみ、鼻水、鼻つまり、のどの痛み、咳、痰、全身倦怠感がみられます。これをかぜ症候群と呼んでいます。かぜ症候群の原因ウイルスのうち、症状が重症化するリスクが高いインフルエンザは、特別に扱われています。特に高齢の方は重症化しやすいと言われ、優先的にワクチンが接種されます。ワクチン接種によって重症化が防げるとも言われています。

 しかし漢方医学では、体力や免疫力を維持することでウイルスに負けない身体を作ることに重点をおいています。同じ環境にいる人が、皆同じようにかぜをひくとは限りません。また同じインフルエンザにかかってしまっても病状や重症度が異なります。これは個人が持っている体力や生命力(元気の素)の違いによるものです。

漢方医学における体力や生命力は「腎」と関わっている

 漢方医学ではスタミナや生命力の源を「精」と表現しています。「精」には遺伝的な要素(先天の精)と自分で作り出す「精」(後天の精)があります。「先天の精」は親から受け継いだ先天的な生命力で、成長や老化によって減少していくものです。その減少した「先天の精」を補充するものが「後天の精」で、飲食物(水穀)の栄養分から作り出されます。これらの「精」は漢方医学的な臓器である「腎」に蓄えられています。すなわち体力や生命力は漢方医学的な「腎」との関わりがあるため、かぜやインフルエンザに負けない身体作りには「腎」の力を強化することが重要なのです。

 病気になったときには「精のつくものを食べた方がよい」とよく言われますが、これは漢方医学的な要素を含んだ内容で、理にかなっています。

 漢方医学での「腎」には、西洋医学での腎機能(排泄や老廃物の濾過)と同じような働きもありますが、もっと生命に関わる重要な役割があります。その役割が、成長や発育、生殖、ホルモンに関する働きで、生涯にわたって「腎」がつかさどります。発育障害や老化現象がある場合も、「腎」の力を強化する必要があります。

 「腎」は季節で例えると「冬」にあたり、「寒」を嫌い、「立」の姿勢をすることで、“こころ”や“からだ”に変調を及ぼすと言われています。また「腎」の変調には黒い精のつく食材がよいと言われています。

冬の養生は「蔵」で、「腎」にエネルギーを補給し身体を温めること

 冬は「蔵」の季節と考え、寒さから身体を守るために生命力を身体に蓄えておくことが大事です。冬というと、こたつに入り温まりながらみかんを食べている姿が思い浮かびます。じっと家にいて、あまり動かず体力を温存しているのです。また、動物は冬眠しますし、昆虫は土の中で春になるのをじっと待っています。植物も春に芽を出すまでをじっと土の中で耐えているのです。

 睡眠も明るくなるのを待って起きるなど、他の季節と比べると睡眠時間も長くなります。明るさだけでなく寒いので布団から出られないこともあります。知らず知らずの間に私たちも体力や生命力を「腎」に補給しているのです。

 「腎」は「寒」や「立」の姿勢を嫌うため、温かさを保ちましょう。立っている状態が長くなると下半身が特に冷えて、尿漏れや頻尿、腰痛、水分代謝異常、痺れなどが起きやすくなるため、注意をしましょう。身体を冷やさないことが大切で、衣服で温めるだけでなく、食事でも温かい物を摂ることも大事です。朝食には温かいスープなどをおすすめします。寒いからといって暖房の効いた場所にずっといると、乾燥により、のどや肌、大腸の異変が起こります。保湿も心がけて下さい。天気のよい日は太陽に当たり、汗をかかない程度にストレッチやウォーキングなどして、代謝力もアップしましょう。

冬に温めるのをおすすめする箇所

① 頭
たくさんのツボがあり、寒気で首が縮み、肩こり、頭痛を起こすので、毛糸の帽子などをかぶるのをおすすめします。
② 背中
寒気が背中から侵入すると、体表だけでなくも内臓も冷やします。マフラーやショールを持ち歩きましょう。特に睡眠中も布団から肩を出さないように、また入浴も肩までつかりましょう。
③ 足
末端(足先)から冷えると太ももや腰まで不調を及ぼすため、素足は厳禁で、温かい靴下を履いて過ごして下さい。オイルを入れた足湯などもおすすめします。

冬の養生に役立つ食材

精のつく食材
ウナギ、スッポン、ヤマイモ、クルミ、黒ゴマ、黒マメ、クコの実、昆布、ひじき、きくらげ、カキ、黒米(黒い食材が多い)
身体を温める食材
ショウガ、シナモン、トウガラシ、山椒
※身体を冷やす性質がある食材の大根、カリン、ユズなども、温めて用いることで身体を温めます。
緒方千秋(おがた・ちあき)先生
北里大学東洋医学総合研究所 広報・医療相談室室長、薬剤師。

北里大学薬学部を卒業、1年半医療機器メーカーに勤務後、現・北里大学東洋医学総合研究所薬剤部にて30年間、生薬を用いた漢方薬の調剤に携わり、様々な生薬に触れ、また多くの患者様と接してきました。その経験を活かし、現在広報・医療相談室を立ち上げ、これまで以上に患者様に向き合う漢方医療を目指しています。
子供の頃から伝統的なことが大好きで、周りからは少し変わり者扱いをされてきました。小学生で生け花をはじめ、中学生の時に師範を取得し、社会人になったのを機に茶道をはじめこちらも師範を取得しました。今も気づくと伝統医学を専門に扱う薬剤師になっています。一貫して伝統医学を重んじた生活スタイルを保っています。

北里大学東洋医学総合研究所

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