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いまづ先生の漢方講座 Vol.1 夏の暑い日を漢方で切り抜けよう

公開日:2019.08.29
カテゴリー:病気と漢方
 「頭のてっぺんから、足の先まで」をモットーに、外科医としての経験も活かしながら、さまざまな症状に悩む患者さんの診察にあたっている今津嘉宏先生。新シリーズ「いまづ先生の漢方講座」では、多くの人が気になる病気や症状に対する漢方薬の使い方について、実例を挙げながら解説していただきます。

 夏に関連する病気は、熱中症ばかりではありません。以前は「夏バテ」と言われていましたが、気温の上昇による体のトラブルだけでなく、湿度の高い日本ならではの体調不良や、冷房による冷え症、熱帯夜による睡眠不足などさまざまです。しかしこれらに対して西洋医学でできることは少なく、熱中症に対する水分補給など、治療まで結びつけることは難しくなります。そんなときこそ、漢方の出番です。

Case1熱中症の青年

青白い顔をした青年が、ヨタヨタとしながら診察室へ入ってきました。

なんだか体調が良くないので、診ていただけますか

と青年。ポケットからハンカチを取り出し、口に当てながら弱々しい声で、

午前中、外回りで何件か仕事を片付けて事務所へ帰ってから調子が悪くなってしまいました。昨日までは特別、調子が悪いことはなかったのですが

見ればこの青年、体型はやや瘦せ型で、唇の色がくすんで見えるし乾燥もしています。

昨年の夏は40℃になる日もあったので、車の中はクーラーをかけていました。今年も夏バテしないように5月から暑さ対策をしていたのですが、これは熱中症でしょうか

インターネットで検索すると、自分の症状から病気を探し出すことができる時代です。夏のこの季節、原因不明の体調不良は、だいたい「熱中症」へたどり着きます。

これまで、大きな病気をしたことはありません。最近では、春先に一度、季節遅れのインフルエンザにかかったぐらいです。事務所へ帰ってから、水分は多めにとりましたが、体調が戻らないので上司に相談して、診察を受けることにしました

熱中症の基礎知識

暑さ指数

 熱中症は、実は夏だけではなく、1年を通してかかる危険性があります。とくに熱中症に注意する必要があるのが、7月中旬~9月初旬です。熱中症の発生には気温・湿度・風速・日射輻射が関係します。熱中症のリスクを表す指標としては、「暑さ指数(WBGT:Wet-Bulb Globe Temperature)」が推奨されています。梅雨明け前後は暑さのピークで、熱中症の発症リスクが最も高く、重症率も高くなります。また、本格的に暑くなる前の時期は、真夏よりも低い温度でも熱中症を発症します。

 暑さ指数に対応する行動指針としては、(公財)日本体育協会による「熱中症予防運動指針」、日本生気象学会による「日常生活における熱中症予防指針」などがあります。これらには、「暑さ指数」に対応する乾球温度(テレビ 等で報道される「気温」)との対照表が掲載されています。熱中症患者が急増する暑さ指数(WBGT)28℃は、気温31℃に相当します。熱中症で搬送される人が大量発生する暑さ指数(WBGT)は31℃、気温35℃です。

診断基準

 熱中症の診断基準としては「暑熱環境にいる、あるいはいた後」の症状として、めまい、失神(立ちくらみ)、生あくび、大量の発汗、強い口渇感、筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り)、頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、意識障害、痙攣、せん妄、小脳失調、高体温等の諸症状を呈するもので、感染症や悪性症候群による中枢性高体温、甲状腺クリーゼ等、他の原因疾患を除外したものとなります。

対処方法

 まず、熱中症を疑う症状があった場合、意識があるかどうか確認します。意識がなければすぐに救急車(119)を呼んでください。子どもやお年寄りは症状が変化しやすく、受け答えがハッキリしない場合がありますので、注意してください。
 次に行わなければいけないのが、体温を下げることです。

(1)涼しい場所へ移動する
(2)服をゆるめて、体を冷やす
(3)太い動脈が通っている場所(首、脇の下、臍周囲、足の付け根)を氷などで冷やす

 意識の状態を確認し、体を冷やすよう対応ができたら、落ち着いてゆっくりと水分を補給させます。もし、自力で水分が補給できない状態であれば、点滴などを行う必要がありますから、医療機関を受診することになります。また、水分を自力で補給できた後、まだ症状がある場合にも、念のため医療機関への受診をお勧めします。

青年の診断

 夏の体調不良は、暑さで食欲が減退した場合や熱帯夜で寝苦しく寝不足が続き体力が低下した場合など、原因はさまざまです。「夏バテ」のように、だんだんと調子が悪くなる場合もあれば、この青年のように、急に悪化する場合もあります。なかには食中毒で体調を崩すこともあります。体調不良の原因をきちんと探り当てることで、治療方針が決まります。この青年が発症したきっかけは、午前中の外回りにあるようです。誘因として、今年の5月から暑い日が続き、慢性的な体力低下があったのかもしれません。季節外れの感染症にかかっているとしたら、元来、免疫力が低い性質だったことも考えられます。すると、鑑別すべき疾患は、やはり感染症です。悪性症候群や甲状腺クリーゼは、既往歴がありませんので除外できます。

熱中症の検査および治療

 検査では、血液検査で細菌性感染症のチェック、脱水や肝機能障害などを確認します。そして、症状改善のための治療を並行して進めます。治療は点滴(補液療法)あるいは、0.1~0.2%ナトリウム含有液の内服になります。日本救急医学会から、熱中症の診療ガイドラインが出ていますので、詳しく知りたい方はご参照ください。

青年の治療

 青年には、白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう) を服用していただきながら、点滴を行いました。午後の仕事を1時間ほどお休みいただき、処置室のベッドでゆっくり休養してもらいました。白虎加人参湯は、石膏と知母が主薬で、白虎湯に人参が加わった処方です。5つの生薬で構成されているため、速効性が期待できます。この青年のような症状には五苓散(ごれいさん) の処方も考える必要がありますが、今回は、熱中症の急性期に必要となる解熱作用には白虎加人参湯に含まれる石膏が必要だと考えました。もし、顔が真っ赤に日焼けしたようになっていれば、黄連解毒湯(おうれんげどくとう) を選択していたでしょう。

 点滴が終わり、帰り際、まだ、十分な回復がないと判断したので、白虎加人参湯を2日分渡してお帰り頂きました。

夏バテの治療

 毎年、夏になると体調を崩すという、いわゆる夏バテしやすい方には、補中益気湯(ほちゅうえっきとう) 清暑益気湯(せいしょえっきとう) 胃苓湯(いれいとう) をよく処方します。この青年ならば、清暑益気湯がよいでしょう。補中益気湯は、日頃から元気があるけれど、近頃ちょっと体調が優れず、疲れやすい場合によい漢方です。一方、清暑益気湯は、日頃から少しスタミナ切れを起こしやすい場合に選択するとよいと感じます。また、胃苓湯は、平胃散と五苓散を合わせた処方ですから、疲れが胃腸に来る人に用いるとよいでしょう。

参考
今津嘉宏(いまづ よしひろ)先生
芝大門いまづクリニック院長

藤田保健衛生大学医学部卒業後に慶應義塾大学医学部外科学教室に入局。国立霞ヶ浦病院外科、東京都済生会中央病院外科、慶應義塾大学医学部漢方医学センター等を経て現職。日本がん治療認定機構認定医・暫定教育医、日本外科学会専門医、日本東洋医学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医。

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