機能性ディスペプシアの漢方治療(2)昔から人は胃痛に悩んでいた? 胃の不調を改善する薬が、漢方薬に多い理由

[病気と漢方] 2022/03/25

原因となる疾患が特に見当たらないにもかかわらず、胃に不調を感じている状態=機能性ディスペプシア(FD)の改善には漢方薬が適していると、大野クリニック院長の大野修嗣先生は話します。漢方薬には、胃の不調の改善に効果を発揮するものがたくさんあります。なぜ胃の不調を改善する漢方薬が多いのか、そしてFDの改善にはどんな漢方薬が向いているのかを、大野先生に伺いました。

胃の不調を改善する漢方薬がなぜ多いのか

機能性ディスペプシアは心理的、遺伝的なものを含め、さまざまな原因によって発症するといわれています。治療は服薬が中心ですが、唯一の保険適用薬であるアコファイド錠(一般名:アコチアミド)を服用しても一時的に症状が抑えられるだけで、薬をやめると再発することも多く、根本的な治療につながりにくいという難しさがあります。

そこで大野先生が推奨するのが、漢方薬によるFDの改善です。大野先生は「漢方薬には体のはたらきそのものを改善する作用があるので、FDの症状だけでなく、胃の根本的な機能改善が可能です。胃の不調に効果のある漢方薬はたくさんあるので、症状ごとに使い分けもできます」と解説します。たしかに胃の不調を改善する漢方薬の種類は、以下のように豊富にあります。

胃の不調の改善効果をもつ漢方薬の例

  • 六君子湯
  • 安中散
  • 黄連解毒湯
  • 小半夏加茯苓湯
  • 二陳湯
  • 半夏瀉心湯
  • 平胃散
  • 茯苓飲
  • 茯苓飲合半夏厚朴湯
  • 調胃承気湯
  • 大柴胡湯
  • 小柴胡湯
  • 半夏厚朴湯
  • 真武湯
  • 人参湯
  • 四逆散
  • 五積散
  • 四君子湯
  • 黄連湯
  • 柴苓湯
  • 胃苓湯

このように胃の不調を改善する漢方薬が多い理由について、大野先生は「古来、胃の不調を訴える人が多かったからでは」と話します。「漢方薬は数千年の歴史をもつ、古からある医薬品で、その処方は臨床、つまり医療の現場で訴える人が多い症状が優先されてきました。胃の不調を改善する漢方薬がたくさんあるということは、その分、不調を訴える人が多かったと推測できます」

機能性ディスペプシアの改善に役立つ、代表的な漢方薬

FDの改善に役立つ漢方薬の例を、代表的な症状別に紹介しましょう。

胃もたれがつらい人に「平胃散」

平胃散(へいいさん) は、いわゆる「胃もたれ」が主症状のFDに有効な漢方薬です。配合生薬の作用により、胃を含む上部消化管の機能を改善と、消化機能を活性効果が期待できます。また水分を調整する燥湿(そうしつ)の効能をもつ生薬の影響により軟便の改善に有効かつ、気うつの改善効果もあるとされています。
「食後に胃もたれがあり、かつ軟便傾向の人にはとくにぴったりの漢方薬です」

少し食べるとおなかがいっぱいになってしまう人に「六君子湯」

食欲不振の症状が強いFDには、六君子湯(りっくんしとう) が有効です。六君子湯にはグレリン(アシルグレリン)という、消化管(胃腸系)の内分泌細胞でつくられるホルモンの分泌を促し、食欲を出す作用があります。また、気力を益し、気うつを改善する作用も期待できます。
「六君子湯は四逆散(しぎゃくさん) 桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう) 香蘇散(こうそさん) とそれぞれ合わせて(合方)服用すると、食欲不振に加えてイラつきや胸部の重苦しさなどの改善も可能になります」

胃周辺の痛みがつらい人に「安中散」

漢方医学で「中」は、おなかを示します。安中散(あんちゅうさん) は「おなかを安らかにする薬」という名称で、その名の通り、胃の不快感の改善に効果的です。とくに胃周辺の痛み(心窩部痛)に有効とされています。
「安中散は、冷えをともなう神経性胃炎や逆流性食道炎に効果を発揮します。同様の胃痛があっても、冷えではなく、ほてりを感じる場合は黄連解毒湯(おうれんげどくとう) のほうが適しているでしょう」(大野先生)

逆流性食道炎の症状がある人に「茯苓飲」

茯苓飲(ぶくりょういん) は平胃散と同じく、胃もたれが主症状のFDに効果的な漢方薬ですが、胃の上部にある噴門(ふんもん)という括約筋を閉めて食道への逆流を防ぎ、幽門(ゆうもん)という十二指腸へと通過させる下部の括約筋をゆるめる作用があることから、逆流性食道炎やげっぷの改善に、とくに効果的といわれています。
「茯苓飲の作用については、『類聚方広義』(るいじゅほうこうぎ)という江戸時代の文献にも記載があるほか、別の文献には、幕末に訪日して,横浜で医療活動を行っていたジェームス・カーティス・ヘボン氏が治せなかった、逆流性食道炎の症状を示す老人を治したという記載も残っています。漢方薬が昔から胃の不調改善に役立っていたことがわかる、おもしろい例です」

漢方薬で、機能性ディスペプシアを根本から改善

このように症状に合わせて漢方薬を使い分けると、FDの症状だけでなく、胃の機能そのものも改善され、根本的な治療につながります。また、いくつかの漢方薬に気うつの改善効果があったように、FDの誘因となるストレスなどの精神的落ち込みを改善するはたらきも(漢方治療は『心身一如の治療学』が特質です)、漢方薬には備わっています。有効に活用してFDを上手に改善していきましょう。

大野 修嗣(おおの しゅうじ)先生
大野クリニック院長

明治薬科大学製薬学科、埼玉医科大学医学部卒業後、埼玉医科大学病院、山西省人民医院中医科への留学などを経て、1996年に大野クリニックを開業。国際東洋医学会 理事/日本東洋医学会 副会長/埼玉医科大学第2内科非常勤講師。著書に『狭心症・心筋梗塞の中医学的治療』(朝日新聞出版サービス)、『膠原病・免疫疾患漢方治療マニュアル』(現代出版プランニング)など。
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