【新連載】Vol.1 民間薬と漢方薬の違い │くらしと生薬

[病気と漢方] 2021/09/06
執筆:並木 隆雄先生(千葉大学医学部附属病院和漢診療科 科長)

 日本のくらしに古くから根づいている生薬の話をしてほしいとのご要望に応え、医師である筆者と、薬学者で歴史にも造詣の深い帝京平成大学薬学部の鈴木達彦先生より、それぞれ違う目線からの生薬の話をしたいと思います。今回は1回目ということで、総論からお話しします。

生薬とは何か

 生薬自体の話をする前に、まず総論的なよもやま話をしましょう。

 皆さんは「生薬」をどのように読まれていますか?専門家も含めて、音読みで「しょうやく」と読んでいる方も多いでしょう。でも、「きぐすり」と読まれている方もいるかと思います。お蕎麦屋さんののれんに、今でも変体仮名で「生そば」と書かれているのを見かけますね。その読みは「きそば」です。ということで「きぐすり(生薬)」という読み方も、以前はそれなりに使われている読みではあったわけです。ただ、語感から、植物性の生薬なら、山に天然に生えている、あるいは人工栽培されているもので、なおかつ採りたてのものを指しているように感じるかもしれません。

 生薬(きぐすり)を広辞苑で引いてみると、「薬草をまだ刻まず、調剤していない漢方薬。しょうやく」と書かれています。隣の項目に「生薬屋」という語があり、「①生薬を売る店。漢方薬の店。②転じて売薬店。薬舗。薬種屋」と書かれています。これはまさしく、消費者が薬を購入したりする実際を表現しているとも言えます。現在、専門家が生薬(しょうやく)というときは、もう少し詳しい意味合いになります。ちなみに、生薬は英語でcrude drugということが多いと思います。ただ、この「crude」は、天然で、未加工という意味ではあるのですが、negativeなニュアンス(粗野、洗練されていない)にもつながっているようです。英語ではそういう複雑なニュアンスのある語でもあります。ちなみに、公式な定義とされる厚生労働省監修の「日本薬局方」では、「医薬品各条の生薬は、動植物の薬用とする部分、細胞内容物、分泌物、抽出物又は鉱物など」とされています。もう少し詳しく説明すると、天然の産物である植物の葉、茎、根などや鉱物、動物のなかで薬効がある部分をそのまま、または性質を変えない程度に切断、破砕、乾燥、蒸すなどの簡単な加工、調製を行って薬用に付したものと考えられます。

漢方薬と民間薬の違い

 上記の定義に沿った天然の植物由来のものを使った薬のうち、似たようなものとして、民間薬(みんかんやく)と漢方薬があります。

 私も、幼少のころ祖母の家に遊びに行ったところ、けがをしたときに、祖母が観賞用に庭の花鉢に植わっていたアロエの葉をちぎって、そこから出てくる少しドロッとした液体を傷口に塗ってくれた記憶があります。つまり、祖母は、生薬を使った治療法を知っていたわけです。同じように、地方によっては、センブリやキハダなどの苦い味の植物を胃腸薬に使ったり、腹痛にゲンノショウコを使ったりすることがあるでしょう。なお、西洋でも、生薬を例えばハーブキャンディの原材料にしたり、かつてはジギタリスの葉を強心薬として使ったりすることはあったと聞きます(なお、「西洋ハーブ」は異なる定義なので注意)。このような、民族内や地域内での使用経験を元に使用される生薬のことを民間薬と呼びます。それに対して、漢方薬は、漢方医学の考え方に基づき、基本的には2種類以上の生薬を長年の使用経験で得られた定められた量で組み合わせた薬のことです(例外として、下剤の大黄や元気をつける生薬の代表の人参などは単独で用いることもある)。慢性病に用いる場合は、体全体の調子を整えることを目標にして、個人の「体質のゆがみ」に着目し、そのゆがみを改善させる方剤として、多くの場合、2~20種類くらいの生薬を配合したものを用います。つまり、生薬を単品で用いる民間薬に対し、一部の例外を除いて、生薬を複数で使うのが漢方薬です。その理由は、複数の生薬を混ぜると、単独より混ぜ方で効果が得やすい場合や、複数の症状にあった方剤ができるうえに、体質に合わせることで副作用が少ない薬にできる可能性があるからです。

 このことは和食と中華料理の違いを例にするとわかりやすいと思います。日本の食事は平安時代の絵巻物での貴族の食事の風景を見ると、魚は刺身、ご飯は山盛りで、調味料は塩が皿に盛られていたらしく、これが素材を生かした食事、今の和食の一部につながるわけですが、多様な味付けは難しいと思います。一方、中華料理は複数の食材を合わせて、炒め、それに調味料を加えて、微妙な味わいや生では生み出せないうまみが出せる場合も多いわけです。つまり、複数の素材(生薬)を混ぜることで、その人の好み(体質)にあわせた食事(方剤)が出せるようになるわけです。ちなみに、このような料理方法は仏教とともに伝わり、鎌倉時代に禅僧が宿坊などで食べる精進料理などを皮切りに日本料理の味付けを発達させたといいます。

 さて、民間薬は、副作用について明らかでないことも多いと言われます。それに対し、漢方薬は、医薬品として販売されており、効果についてだけでなく副作用の集積もなされています。つまり、安全性が高い使用方法がわかっています。ということで、漢方薬と民間薬は似て非なるものです。違いをわかりやすく表にまとめました。参考にしてください。

 ちなみに、先に例を出したアロエは、カタカナで表記していたので、明治以降に輸入されたと思っていたら、驚くことに少なくとも江戸時代には日本に伝わっていたようです1)。和名も、芦薈(ろかい)とついています2)。ただし、日本では、民間薬として使うことが主で、一般的に日本で使われる漢方薬としては使われていません。

漢方薬と民間薬の違い
漢方薬 民間薬
生薬数 複数使用が原則 1種類が主
生薬の由来 植物、動物、鉱物 主に植物
理論 基づいている ほとんどなし
症状 複数の症状に対応
体質改善もおこなう
単独症状のことが多い
対症療法が主体
副作用 情報あり 情報少ない
加工 複数の方法あり あまりしない
使用法 主に乾燥保存した生薬を水や酒で煎じる
まれに生の生薬も用いる
生のままか、乾燥させた生薬を水で煎じる

※上記には例外もあります。薬の形で販売されている民間薬は伝承薬ともいいます

並木 隆雄(なみき・たかお)先生
千葉大学医学部附属病院和漢診療科 科長

千葉大学医学部卒業後、千葉大学医学部附属病院、帝京大学附属市原病院心臓血管センター、千葉県立東金病院内科部長を経て、千葉大学大学院医学研究院先端和漢診療学客員助教授に着任。2012年より和漢診療科診療教授を務める。
日本東洋医学会認定漢方専門医・指導医、日本循環器学会専門医、日本内科学会総合内科専門医、日本不整脈心電学会不整脈専門医、医学博士。

参考

  • 1) 鈴木洋. 漢方のくすりの事典-生薬・ハーブ・民間薬-, ‎ 医歯薬出版 2011; p.9
  • 2) 鈴木洋. 漢方のくすりの事典-生薬・ハーブ・民間薬-, ‎ 医歯薬出版 2011; p.439
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