<編集後記>多彩な更年期症状の裏側にあるものとは
女性の一生で避けて通れない閉経。更年期はその前後5年ずつ、計10年間くらいの期間にあたります。更年期に起こる心身の変化や原因、更年期を過ごすにあたって気をつけたいことや、上手な漢方薬の取り入れ方について、2回にわたりつくばセントラル病院産婦人科部長で、東邦大学薬学部客員講師の岡村麻子先生に前後編にわたりアドバイスをいただきました。
女性ホルモンの変化と更年期のストレス
これまでの「女性は結婚して専業主婦となり、子供を産んで家庭を守る」という生き方が当たり前ではなくなり、結婚することや子供を持つことも自由に選べる多様な生き方ができる時代となりました。しかし、自由に生きられる時代になったが故に、女性はそれぞれのライフステージにおいて、また別のストレスを抱えるようにもなっています。
岡村先生は取材時、更年期について「それまでの弱いところがクローズアップされる時期」と話していらっしゃいます。症状が多彩であることは更年期症状の特徴です。そう考えると説明がつきます。
性成熟期といわれる20〜30代の間、就職、結婚、出産、育児、家庭と仕事の両立とさまざまな課題を抱え、自分自身に目を向ける時間もなく過ごしてきた方も多いかもしれません。そのような中で「少し我慢すれば」と放っておいた不調が少なからずあるのではないでしょうか。更年期以降もまだまだ課題は残っており、忙しい毎日かもしれませんが、ここで少しだけ立ち止まり、「自分自身の身体のことに向き合う時間」を作ってみてほしいと思います。
近年、更年期障害と同じ時期に起こるものとして、「夫源病」という、夫が原因となって起こる病気にも注目が集まっています。夫の何気ない言動に対する不平や不満、あるいは夫の存在そのものが強いストレスとなり、妻の身体にめまいや動悸、頭痛、不眠といった症状があらわれる病気のことで、イシクラメディカル代表の石蔵文信医師が提唱しました。
石蔵医師は、もともと男性更年期障害の専門家でしたが、男性の治療を行う中で、妻である女性のカウンセリングも行うようになり、この夫源病を患う女性が多いことに気がついたそうです。
この夫源病は、実は更年期障害と無関係ではありません。
ラットに強いストレスを与えたときの性別での差を調べた研究1)では、同じストレスでもその影響はオスのほうが強く、メスのほうがストレス耐性が高いことがわかりました。また、メスでも卵巣を取ったメスではオスと同様のストレス耐性でしたが、女性ホルモン(エストロゲン)を補充すると、ストレスに強くなることも報告されました。これは動物での実験結果ですが、このことからヒトの場合でも女性ホルモンがストレスから女性の身体を守ってくれている可能性が考えられます。それまでは我慢してなんとかなっていても、女性ホルモンが急激に減少しストレスに弱くなっている更年期に、積み上がったストレスが心の許容量を超えることで体調を崩してしまうケースが少なくないことにも納得がいきます。
更年期の心と体に効く漢方医学の教え
漢方医学では「心身一如(しんしんいちにょ)」という言葉がよく使われます。
これは、心と体はつながっていて切り離すことができず、それぞれがお互いに強く影響しあっているという意味で、漢方医学の特徴を表す言葉でもあります。
例えば、緊張が続くような場面では、ストレスがかかって胃が痛くなったり、逆に体のどこかに痛みがあってそれがなかなか治らないと気持ちまで憂うつになってしまったりというように、心の不調は体の症状に影響し、体の症状が心の不調を招くこともあるということを表している言葉です。
特に最近では、新型コロナウイルスの影響で、リモートワークが進み、夫婦や家族で過ごす時間も多くなりました。
自粛期間が長く続いている現在のような状況では、夫の言動に対する不平や不満も重なりがちで、いつも以上にストレスも多く、身体に負担もかかり、不調が出やすくなります。
漢方薬のよいところは、ひとつの薬でさまざまな症状に対応できる点です。更年期には、のぼせ(ホットフラッシュ)や発汗、動悸(どうき)、冷え、不眠、イライラ、気持ちの落ち込みなど、複数の症状が出ることが多いのですが、漢方薬であればひとつの薬で改善できることもあります。更年期後の人生を楽しく幸せな「幸年期」にするために、漢方薬の力を借りてみてはいかがでしょうか。(大場真代)