ペットを失って以来、8か月間も不眠に苦しんでいた女性看護師
ペットを失って以来、8か月間も不眠に苦しんでいた女性看護師
49歳の看護師から、「眠れる薬はありませんか?」と相談された。話によると、8か月ほど前にペットを失ったとのこと。ペットが亡くなってから精神的に辛く、眠れなくなってしまったようである。このような症状は、ペットロス症候群と呼ばれることもあり、近頃では珍しくない。ペットが家族同然の存在になっていたり、場合によっては家族以上に愛情を注ぐ人もいるので、逆にペットを失った時の飼い主のショックは大きく、精神疾患を発症することがある。
とはいえ、眠らないでいると仕事に支障があるため、勤務先の医師から睡眠導入剤を処方してもらって何とか眠るようにしていた。ところが睡眠導入剤を飲むようになってから、「フラフラしてしまう」症状が出た。睡眠導入剤には色々な種類があるが、どれも「ふらつき」や「めまい」といった副作用が起きることがある。そこで、「漢方薬で何か眠れるようになる薬はないものか」と相談に来たのであった。
「眠れるようになる」ことが多い漢方薬は幾つかある。代表格は加味帰脾湯(かみきひとう)である。また、「働きすぎて疲れきったために眠れない」という場合には酸棗仁湯(さんそうにんとう)が有効なことがある。そこでこの患者さんには、加味帰脾湯のエキス剤と酸棗仁湯のエキス剤を、両方とも1日3回(1日7.5g)飲めるように2週間分ずつ処方した。そしてまず加味帰脾湯を2週間飲んでみて、次の2週間はもう一方の酸棗仁湯を飲んでもらい、どちらの方が良かったかを1か月後に聞かせてもらうことにした。果たしてこの患者さんの回答は、「加味帰脾湯も確かに眠れるようになったけれども、酸棗仁湯の方がぐっすり眠れる感じがする」と言う。
前に書いたように、酸棗仁湯は「働きすぎて疲れきって眠れない」という人に喜ばれることがある。実はこの患者さんは、私の知り合いのクリニックで勤務している。そのクリニックではエースのような存在であり、一番の働き者らしい。そのため知らず知らずのうちに疲れていたのか、それともペットを亡くしたことで心底疲れ果ててしまっていたのか、どちらにしても酸棗仁湯で非常に感謝された。
現在は酸棗仁湯を1日1回飲むだけで良く眠れると言う。また、休日でゆっくりしたいときなどは、1日2回内服すると非常に落ち着いてゆっくり出来ると言い、内服を続けている。
漢方薬の副作用で「ふらつき」や「めまい」が出ることはほとんど無い。そのため有効な漢方薬に出会うことができれば非常に感謝され、お互いハッピーになれるのである。
愛世会愛誠病院・下肢静脈瘤センター
血管外科の外来で漢方薬を使うようになってから、本格的に漢方を学ぶようになり、2010年より血管外科と漢方内科を兼務。
日本外科学会専門医、日本脈管学会専門医。