漢方について相談できる病院検索 漢方について相談できる病院検索

さまざまな身体症状に加え、精神症状に長く悩んでいた35歳男性

公開日:2012.01.13

さまざまな身体症状に加え、精神症状に長く悩んでいた35歳男性

 ひょろりと背の高い35歳男性。大学4年生の就職活動時に眩暈や動悸が出現し、内科で精査を受けるも異常が認められず、精神的なものと判断されジェイゾロフトが処方された。しかし改善が見られずに、耳鼻科よりグランダキシンが追加投与されるも症状に大きな変化は見られなかった。
 そういった状況のなか、私が勤務している別のメンタルクリニックを初めて受診してきた。「体が重く何もする気力が湧かない」とのことだったので、メイラックスを処方。少しは緊張が取れ、体の重さが改善されたものの、5か月経過しても、吐き気や動悸、集中力の低下は続いた。そこで炙甘草湯(しゃかんぞうとう) を開始した。3週間後、「動悸はだいぶ減ったが眩暈は続く」とのことだったので、炙甘草湯を屯用とし、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう) に変更。さらに3週間後に受診した際には、眩暈・動悸・胃痛・吐き気があり「全く改善が見られず」と。この間耳鼻科よりメリスロンが処方されていたが、効果は見られなかったようである。そこで半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう) に変更。
 効果があるのではと期待していたが、1か月経過しても、その期待に反して全く症状の改善は見られなかった。そこで、再度症状を詳細に聞いて見たところ、冷え症があることがわかり、真武湯(しんぶとう) に変更。イライラもあることから少量のアナフラニールも追加した。2週間後、「少し上向き。モヤモヤが取れた」と初めて手応えが見られ一安心した。眩暈・吐き気も五苓散(ごれいさん) と比較してもらったところ真武湯の方が合うと言うので、しばらく継続して処方した。
 今までの中では一番合うとの自覚だが、まだ不安感が残っていると感じたので、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう) に変更してよいかを尋ねたところ、「良くなるのなら何種類でも試しますよ」と了承。すると、1か月後には「今までで一番良い。不安が取れた。吐き気や頭痛も取れた」と効果が現れてとても嬉く感じた。
 引き続き、これまで多く訴えていた身体症状に加え、精神症状にスポットを切り替え聞き出したところ「常に緊張している、不安で喉が渇く。人前で顔が熱くなる」とのことで、今話題になっている社会不安障害の一種ではないか、と考えルボックスを追加したところ、震えや吐き気の副作用が出現しすぐに中止した。代わりに半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう) にしたところ、再診時に嬉しそうに「これが良いんじゃないですか?動悸が一気になくなりましたよ」と一番の手応えのようで、その表情は私も効果を実感できるものだった。
 1か月後には精神的にも身体的にも落ち着き、「眩暈も気にならない。穏やかに過ごせる」と語ったので、西洋薬のアナフラニールとレキソタンを微調整してもらいつつ、メインを継続的に漢方で処方している。現在は元気に会社に行っており、受診も以前のように「○○も悪いし、△△も苦しいし・・・」と色々な訴えをしていた患者さんとは思えないくらいの明るい表情になった。

 これだけ何種類も漢方を変更しても患者さんがついて来てくれるのは、西洋薬にはなかなか無い現象だと思う。西洋薬は、抗鬱薬、抗不安薬、安定剤など様々な名前の薬はあるものの、作用機序は似ており、処方を変更してもあまり劇的な変化は見られないが、漢方は、何らかの症状は改善することが多いので、患者さんも嫌がらずに変更に協力してくれるのではないかしら、と感じた。漢方の素晴らしいところは、その人に合う漢方が見つかると、1つの症状だけでなく全体が治ること。それを実感出来たのが今回の症例であり、昔の人の知恵の素晴らしさに感謝した一例である。

小松桜(こまつ・さくら)先生
愛世会愛誠病院・漢方外来
2000年順天堂大学卒業。順天堂医院メンタルクリニック科で2009年まで勤務。
不定愁訴や過量服薬、副作用出現の患者さんに対し、向精神薬のみでの対応では加療困難なケースもあり、漢方に興味を持った。
現在の施設で本格的に学ぶようになり、2010年より漢方外来勤務。精神科専門医。

記事の見出し、記事内容、およびリンク先の記事内容は株式会社QLifeとしての意見・見解を示すものではありません。
記事内容・画像・リンク先に含まれる情報は、記事公開/更新時点のものです。掲載されている記事や画像等の無断転載を禁じます。

外部サイトへ移動します

リンク先のウェブサイトは株式会社QLifeが運営するものではないこと、医療関係者専用であることをご了承ください。