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卵巣がんの初回標準治療に十全大補湯を併用することで予後が改善

公開日:2019.10.25
カテゴリー:がん治療と漢方

 女性特有のがんである卵巣がんは、全体で5年相対生存率が58.0%ですが、この数字は女性がかかる部位別がんの中では決して高い方ではありません。卵巣がんはいわゆる集団型の検診は行われておらず、自覚症状が出始まった段階ではかなり進行していることがその理由のひとつと考えられています。また、進行した卵巣がんに対して、有効な抗がん剤の選択肢が限られていることも生存率があまり高くない背景にあると考えられています。

 そうしたなか、刈谷豊田総合病院産婦人科の山本真一先生らは、卵巣がんでの初回標準治療に漢方薬の十全大補湯(じゅうぜんたいほとう) を併用することで、進行期の卵巣がんでの予後改善(生存期間延長)効果があったことを第70回日本東洋医学会学術総会で発表しました。

 十全大補湯は黄耆(おうぎ)、桂皮(けいひ)、 地黄(じおう)、芍薬(しゃくやく)、蒼朮(そうじゅつ)、川芎(せんきゅう)、当帰(とうき)、人参(にんじん)、茯苓(ぶくりょう)、 甘草(かんぞう)の10種類の生薬で構成される漢方薬です。病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血に用いられる漢方薬ですが、従来からがんの患者さんが服用することで、生存期間の延長に有効であるという報告があります。

十全大補湯併用群で、予後が改善

 山本先生らは2005~2015 年に刈谷豊田総合病院と東京女子医科大学病院で卵巣がんの治療を行い、追跡が可能な360人のデータで、初回の標準治療から十全大補湯を併用したことによる予後への影響を調査しました。この360人のうち3か月以上十全大補湯を併用した44人を併用群、それ以外の316人を非併用群としました。
 その結果、併用群と非併用群の全体の比較では、併用群の方が予後が良いとの結果が得られました。

 一方、がんの場合は一般にその進行度によって予後も変わってきます。卵巣がんでは、がんが卵巣や卵管にとどまっているIa期、Ib期、Ic1期、Ic2期、Ic3期、がんが骨盤内に広がっているIIa期、IIb期、骨盤外で腹膜や後腹膜リンパ節にがんの転移があるIIIA1(i)期、IIIA1(ii)、IIIA2期、IIIB期、IIIC期、他の臓器への転移があるIVA期、IVB期の14段階にも分けられます。数字やアルファベットが進むほど進行しているがんとなります。
 山本先生らはこれをIb期までの初期群、Ic1以降の進行群に分け、両群での予後改善効果も統計学的に調べました。すると、初期群では十全大補湯の服用有無で差は認められませんでしたが、進行群では標準治療と十全大補湯を併用した方が統計学的に予後の改善効果が認められることがわかりました。
 また、がんではがん細胞の形状による組織型分類があります。卵巣がんでは卵巣の表層をおおう細胞で発生する上皮性、卵子のもとになる胚細胞から発生する胚細胞性、その他の性索間質性に大きく分類され、上皮性が卵巣がんの90%を占めています。上皮性の卵巣がんはさらに漿液性腺がん、粘液性腺がん、類内膜腺がん、明細胞線がんなどにわけられます。
 この組織別で十全大補湯の併用効果を統計学的に検討したところ、漿液性腺がんでは十全大補湯を併用しない人に比べ、併用した人の方が統計学的に明らかな予後の改善が認められました。

 山本先生は「初期群で明確な差がなかったのは、本来予後の良い進行分類であったことが原因と考えられる。進行群での予後の改善は十全大補湯が有効に作用した結果と思われる」と述べました。また、十全大補湯は組織型で有効性に違いがある可能性もあるとも指摘しました。(村上和巳)

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