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切除不能進行再発大腸癌で、がん化学療法を受ける67歳男性

[オンコロジー(がん)専門医による漢方外来] 2012/10/12

 がん化学療法の副作用のひとつである口内炎は、普段の生活でもよく遭遇する疾患である。このため治療を受けている患者が担当医へ口内炎ができていることを訴えないことが多い。
 例えばこんなケースのように…

切除不能進行再発大腸癌で、がん化学療法を受ける神本氏(仮名・67歳男性)の場合

 わたし神本は「切除不能進行再発大腸癌」と宣告を受けがん化学療法を受けている。たぶん、街中でよく見かける初老の男性を想像してもらえればよいだろうか? いやいや、がん治療で、少しやせたし、シワも増えている。わたしの大腸がんは、1年前に見つかった。「がん」と宣告されたときは、目の前が真っ暗になって頭の中が空っぽの状態だった。さらに追い打ちをかけるように「手術ができない状態」と言われ、崖から突き落とされた気分になった。あの時説明してもらった医師には、今でも病院の中ですれ違うと、なぜか体が緊張してしまう。

 今通っている病院は私が住んでいる地域のがん拠点病院だ。病院の中はいつも大勢の患者でごった返している。特にわたしが関わる場所では、老若男女を問わずいろいろな指示が飛び交う。
 「血液検査はちゃんと列に並んでください」「診察はあそこの席でお待ちください」「会計はまだです。順番ですので」などなど、うんざりするほど注文をつけられる。いつも素直にいくつかの指示にうなずいてはいるが、心の中では反論できないでいる自分が少し悲しく感じているのも事実だ。
 わたしのがん治療を担当している太金(ふとがね)医師は、大学を出て8年目。この病院へ昨年の春に赴任してきた。まだ、若いにもかかわらず真面目に対応してくれているので、少しではあるが頼りにしている。

 病気について最近は少しではあるが、心の余裕ができていると感じている。というのも、前回の診察時に、お腹の中のがん細胞が小さくなっている写真を見せてもらい、がん化学療法に対し、前向きに納得して治療を受けることができるようになっているからだ。

◆   ◆   ◆

 そんなある晩、自宅で妻と食事をしていた時のこと。わたしは思わず「痛い!」と大きな悲鳴を上げてしまった。口の中にいくつもの口内炎ができていたから。がん化学療法の副作用の一つである口内炎には、この治療を始めてからずっと必ず痛い目に遭わされている。
 食欲がなくなるのは仕方が無いことだけれど……。この口内炎で痛くて食べられないのは、本当に嫌になる。妻には病院で献立のアドバイスをもらったりと、いつも食べることには苦労をかけて、申し訳ないと思っている。こうした妻の努力がなければ、もっと食べられていなかったと強く思っている。心配する妻が「主治医の太金先生に相談してみたらどう?」と。私は次の診察時に聞いて見ることにした。

 がん治療中は、煮魚などの煮込んだ醤油のにおいが不快になるなど、味覚が大きく変わってしまうことが往々にしてある。四国がんセンターでは、そうした患者の声に応える形で「坊っちゃん食」「漱石食」「マドンナ食」などといった『副作用対策食メニュー』を考案。がん治療中の患者の「食べる意欲を持ち続けること」を大切にしている。

腫瘍内科の外来

太金医師
「どうされました?」
神本
「実は相談があってきました」
太金医師
「治療中の食事については、奥様に管理栄養士から説明があったと思いますが、そのことで何か?」
神本
「いえいえ、食事は教えていただきましたとおりやっておりまして、順調です。それとは別の話なんです。実は口内炎で困っているんです。たかが口内炎だと思われるだろうと思いますが、これが痛くて大変なんですよ」
太金医師
「口内炎ですか……。いつごろからですか?」
神本
「いつも先生のところへ伺う時期になると治ってしまっていたので、お話ししなかったのですけれど、治療をはじめた最初から苦労していました」
太金医師
「そうでしたか……。痛いですよね……」
神本
「ええ。これさえなければ、食事もしっかり食べられると思うんですよ」
太金医師
「それにはとっておきの薬があります。半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう) というのですが、先日、国立がんセンターで漢方のセミナーがありましてね。そこで私も知ったのです」

 半夏瀉心湯は、プラセボを対照とした二重盲検第Ⅱ相臨床試験(HANGESHA試験)で口内炎の治癒期間を短縮することを証明された漢方薬。半夏瀉心湯に含まれる生薬オウゴンの有効成分にはWoogoninとBicalinがあり、口腔粘膜の障害を抑制し、オウレンに含まれるBerberinが口腔内の細菌に対して増殖の抑制をすることにより、口内炎の治癒を促すことがわかっている。(北島政樹監修「がん漢方」p.22~24 南山堂,東京,2012)

太金医師
「この漢方薬を溶かして、口の中でうがいをしてください」
神本
「えっ!漢方薬でうがいするんですか?」
太金医師
「そうなんですよ。直接、口内炎に塗ってもいいらしいんです」
神本
「そんな漢方薬の使い方もあるんですね」
太金医師
「ええ。いろいろと使い方を変えて、漢方薬をうまく使えば、もっと多くの患者さんの苦痛を軽くしてあげることができることが分かったんです。ぜひ使ってみてください」

まとめ

 がん化学療法の副作用のひとつである口内炎は、普段の生活でもよく遭遇する疾患である。このため治療を受けている患者が担当医へ口内炎ができていることを訴えないことが多く、隠れた副作用として実臨床では経口摂取の減少の理由の一つとして注目すべきものである。
 口内炎の原因は、誤って噛んでしまったり、ビタミン不足、栄養不足などの全身状態の変化、ウイルスや細菌感染、口腔内汚染などによる。がん化学療法に伴う口内炎は粘膜障害のひとつとして認められる。
 口内炎の治療は、原因により様々である。がん化学療法の副作用として認められた場合には、粘膜保護剤、ステロイド軟膏、抗生物質などが用いられる。また、ビタミンC、E、グルタミンを用いたり、痛みが強い場合には、氷などによる口腔内の冷罨や局所麻酔薬の塗布などが行われている。(北島政樹監修「がん漢方」p.22~24 南山堂,東京,2012)
 半夏瀉心湯は、これまでの治療法と比べ、がん化学療法による口内炎の治療方法として、基礎的実験ならびに臨床研究で、有意に治癒期間の短縮を認めていることから、今後、がん化学療法の副作用軽減における福音となる漢方薬のひとつである。

今津嘉宏(いまづ よしひろ) 北里大学薬学部・薬学教育研究センター 社会薬学部門

1988年藤田保健衛生大卒、慶應義塾大学医学部外科学教室入局
東京都済生会中央病院外科、慶應義塾大学医学部漢方医学センターを経て11年4月より現職。外科医の父の戸棚に漢方関係の本が並んでいたのがきっかけで、がん治療に漢方を活用するようになった。
がん治療認定医機構暫定教育医・外科学会指導医・消化器内視鏡学会指導医・東洋医学会指導医など
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