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いまづ先生の漢方講座 Vol.3 体質に合った漢方で風邪を予防しよう

公開日:2020.03.12
カテゴリー:病気と漢方
 「頭のてっぺんから、足の先まで」をモットーに、外科医としての経験も活かしながら、さまざまな症状に悩む患者さんの診察にあたっている今津嘉宏先生。シリーズ「いまづ先生の漢方講座」では、多くの人が気になる病気や症状に対する漢方薬の使い方について、実例を挙げながら解説していただきます。

 季節の変わり目や気温の低い日が続くと、風邪やインフルエンザにかかる人が増えてきます。風邪をひきやすいという方や、毎年インフルエンザにかかっているという方もいるのではないでしょうか。今回は、風邪やインフルエンザの感染を少しでも予防したいと考える方へ、漢方ができることをご紹介します。

Case3風邪の予防に訪れた女性

季節を考えると少し厚着をした30歳代の女性が、お見えになりました。

季節の移り目には、必ず風邪を引くんです。今朝から、少し寒気がしてきたので診ていただきたいのですが

と、色白の顔の女性は、力のない声で話し始めました。

仕事を始めて、体調管理には気をつけているんですけれど、ワンシーズンに何度も風邪を引いてしまって、何とかしたいなぁ、と

毎年受けられている健康診断では、低血圧と貧血を指摘されたぐらいで大きな病気はなく、産業医からは、特別な指導は受けていないそうです。

何の病気もないのに、風邪を引いてしまう原因は何ですかって聞いても、運動不足だとか、体調管理に気をつけなさい、としか言われないんですよ

確かに、検査結果で異常がないと指導もしづらいだろうなぁ、と思わず産業医に同情していると、さらに彼女は、話を続けます。

インフルエンザワクチンも受けるようにしているんですけれど、なぜだか毎年かかってしまうんです。何とか、風邪にかからないようになりたいんですけれど

女性の診断

 風邪の原因は、約90%がウイルス、約10%が細菌です。呼吸器系の感染症は風邪と呼ばれますが、ノロウイルス、腸炎ビブリオ菌などの消化器系の感染症は、お腹の風邪、食中毒と言われます。まだ免疫が発達していない小児期や、糖尿病、心疾患、脳血管疾患など基礎疾患をお持ちの高齢者の場合、感染症に罹患しやすいと考える必要があります。

 季節の変化に体調が左右される方は、意外と多いと思います。天気が悪くなると頭痛がしたり、気圧が下がるとめまいがするなど、症状は様々です。今回の相談者と同じように感染症にかかりやすくなる方も多くいらっしゃいます。このような相談は、確かに女性に多いのですが、決して女性だけではありません。男性にも、風邪を引きやすい、お腹の調子が悪くなるなど、季節や天候など自然の変化に影響される方がいらっしゃいます。

 風邪の症状は、時間経過で変わっていきます。知らないうちに体の調子が悪くなっている場合が多いと思いますが、彼女のようによく風邪を引く方は、風邪の初期症状に敏感です。「何となくおかしい」「少し変だ」という体の変調に、よく気付きます。

 鑑別診断は、必ず基礎疾患を確認することです。健康診断で問題がないと言われていても、臨床医が見なおすと病気が隠れている場合があります。健康診断は、人によっては自分の健康状態が勤務先へ報告されると心配だと考えて、問診に対して正直に答えていない可能性もあるからです。

女性の治療

 彼女には、桂枝湯(けいしとう) を処方しました。桂枝湯は、桂皮(シナモン)、芍薬(ペオニフロリン)、大棗(ナツメ)、甘草(グリチルリチン酸)、生姜(しょうが)で構成される漢方薬です。小青竜湯(しょうせいりゅうとう) 麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう) 麻黄湯(まおうとう) など、よく風邪に使われる漢方薬には、アドレナリンを含む麻黄が含まれていますが、桂枝湯にはありません。症状と体の関係に注目すると、使い分けができます。症状が軽症あるいは体が弱い時は、麻黄が含まれていない漢方薬を第一選択とします。また、体質が強靱でも重篤な病態の場合、麻黄を用いるとかえって悪化することがあります。彼女の場合は、一年を通じて風邪を引きやすいことから体が弱く、軽症の状態で来院されましたので桂枝湯を選択しました。

 インフルエンザや新型コロナウイルスなど重症化する危険性がある場合は、麻黄が含まれる漢方薬を第一選択薬にします。麻黄を含む漢方薬を選ぶ場合は、局所症状を目安にします。くしゃみ、鼻水など鼻症状が中心の場合は、小青竜湯。ノドの違和感、咽頭痛などノド症状の時は、麻黄附子細辛湯。喉のイガイガ、咳など最初からノドよりも奥の症状の場合は、麻黄湯を選択します。

 あとは、症状の時間的変化にあわせて、漢方薬を変えていきます。最初の1~2日は、半日単位で症状の変化を考えて処方を変えていきます。その後は、1日単位から数日単位へと処方を変えます。彼女には、桂枝湯を続けてもらい、もし症状が悪化した場合は、桂枝湯と麻黄湯を半分ずつ混ぜてもらうようにお話ししました。その後、風邪の症状が治まっても胃腸の状態が悪い場合などは、もう一度、桂枝湯を内服してもらうか、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう) を内服してもらおうと考えているとお話ししておきました。

 数週間後、竹下夢二の絵に出てくるような儚げな様子だった彼女は、笑顔で診察室へ入っていらっしゃいました。

 桂枝湯を飲んだら15分ぐらいで身体の芯が温まり始め、汗が出てきてスーッと風邪が抜けていったそうです。その後は、ちょっと風邪かもしれないと感じたら、残っていた桂枝湯を飲むとそれ以上、症状が悪くならずに過ごせました、と嬉しそうな笑顔を見せてくれました。

風邪の治療

 風邪の治療は、一般的に総合感冒薬、消炎剤、解熱剤などを組合せます。細菌感染が疑われた場合は、抗生物質が併用されます。漢方薬は、数種類の生薬を組み合わせてありますので、いろいろと薬を組み合わせる必要がありません。その人に合った漢方薬を選んであげるだけです。

 インフルエンザ、新型コロナウイルスなど、流行する時期がある感染症の場合は、予防的な治療が欠かせません。しかし、現在の国民健康保険、社会保険は病気の治療はできますが、健康な場合は保険適応になりません。つまり、予防医学は自費負担なのです。

 がん診療の臨床研究で、免疫力を高める作用を持つ補中益気湯(ほちゅうえっきとう) を感染症予防として利用する研究が行われています。一般用医薬品にも、補中益気湯があります。漢方薬も薬ですので副作用がありますから、服用する場合は大丈夫かどうか、確認する必要があります。日本漢方生薬製剤協会のサイトでご確認ください(https://www.nikkankyo.org/kampo/kampo2.htm)。風邪が流行る時期は、漢方薬を常備薬として準備されてはいかがでしょうか。

参考
今津嘉宏(いまづ よしひろ)先生
芝大門いまづクリニック院長

藤田保健衛生大学医学部卒業後に慶應義塾大学医学部外科学教室に入局。国立霞ヶ浦病院外科、東京都済生会中央病院外科、慶應義塾大学医学部漢方医学センター等を経て現職。日本がん治療認定機構認定医・暫定教育医、日本外科学会専門医、日本東洋医学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医。

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