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市販薬の使い過ぎが悪化を招くことも 「便秘」の改善と漢方薬

公開日:2022.02.03
カテゴリー:病気と漢方

便が何日も出ない、お腹の張りが続く、排便時に痛みが出る――。多くの人が悩んでいる「便秘」。しかし「誤った市販薬の使用によって、便秘を悪化させてしまう人も少なくありません」と川崎医科大学総合医療センターの眞部紀明先生は話します。便秘をはじめとする多くの消化器疾患の治療に携わってこられた眞部先生に、便秘との正しい向き合い方、漢方薬に期待される効果について、伺いました。

毎日出ているのに便秘? 治療が必要な便秘の基準

――まずは便秘について教えてください。どんな症状があると「便秘」になるのでしょうか。

眞部先生(以下、眞部):便秘については基準があり、以下の6つの症状のうち、2つ以上に当てはまると、治療が必要な「便秘症」と診断されます1,2)。

「便秘症」と診断される症状

  1. 便を出すとき、強くいきむ必要がある*
  2. 便の形状がウサギのふんのようにコロコロしている、または硬くてゴツゴツしている*
  3. 便が出しきれていないような感覚がある*
  4. 肛門付近が細くなったり、閉じたりしているような感覚があり、便が出しづらい*
  5. 浣腸などをしないと排便するのが難しい*
  6. 排便するのは週に3回未満

*排便の4分の1超の頻度で起こる

慢性便秘症診療ガイドライン2017(RomeⅣ基準)を元に編集部が作成

ただし、この基準に当てはまらなくても、十分かつ快適に排便ができていない状態が続き、日常生活に支障が生じている場合は、便秘症と診断されることもあります。極端なことをいうと、便が出しきれていないような感覚=残便感が常にあるようであれば、毎日排便していても便秘と診断されることもあるのです。そのほかすっきり便が出ずお腹の張りがずっと続いているのも、便秘症状のひとつである可能性があります。

――毎日便が出ているのに便秘のこともあるとは驚きですね。実際、どのくらいの方が便秘に悩んでいるのでしょう。

眞部:2019年の国民生活基礎調査によると、女性では半数弱が便秘に悩んでいるようです3)。比較的少ないといわれる男性でも、4人に1人が症状を訴えています。私が以前行った調査では、「自分は便秘ではない」と捉えている人のうち、15%くらいは実は便秘だったというデータもありました。自覚のない人も意外に多いようです。女性は骨盤の形状や筋力が弱いこと、そして月経によるホルモンバランスの変化などの影響で、若いうちから便秘傾向があるので、排便回数が少ないことを自覚しにくいのかもしれません。

気づかずに悪化させてしまうケースも

――排便の頻度だけが便秘の判断基準ではないかもしれませんが、やはり回数を意識することは大切なのですね。

眞部:そうですね、便秘にもいくつかのタイプがあり、腸の機能低下などが原因で起こる「排便回数減少型」というタイプの便秘では、排便回数の減少が見られます。腸の機能自体に問題はなくても、若い人などでダイエットのため極端に食事の量を減らしたり、食物繊維が足りていなかったりすると、排便の回数や量が減って便秘になることもあります。

――ほかにはどんなタイプの便秘がありますか?

眞部:女性の場合はプロゲステロンという女性ホルモンの作用も関係しています。このホルモンは大腸の平滑筋を緩める作用があるため、ぜん動運動が弱まるのです。月経前の便秘はプロゲステロンの作用が影響していることが多いですね。また、便が硬いことや、肛門周辺などの排便に関係する筋肉が弱ることで便が出しづらくなる、「排便困難型」の便秘もあります。中にはこうした排出困難型の便秘をご自身でつくり出してしまっている方もいます。

――「自分で便秘をつくり出している」とは、どういうことでしょうか?

眞部:多いのは市販の便秘薬の使い過ぎで、かえって便秘を悪化させてしまっているパターンです。便秘薬を使って排便をコントロールすること自体はよいのですが、市販の便秘薬には刺激性の成分、つまり腸を刺激する下剤が入っているものが多いため、それらを安易に使い続けてしまうと、腸が刺激に慣れて、より強い刺激を加えないと便が出せなくなっていってしまうことがあるのです。薬剤に対して耐性ができてしまうという状態です。私が診た患者さんの中には「1回に市販の便秘薬を16錠飲まないと便が出ない」という人もいました。これは極端な例ですが、例えば1回あたりの服用量は適切でも、週に数回の頻度で半年以上飲み続けていたり、薬を飲まなければ便が出なかったりという場合は、注意が必要な領域に入っているといえるでしょう。

――便の排出が困難なタイプの便秘ではもうひとつ、排便に関係する筋肉の異常で起こるケースもあるようですが、それはやはり高齢の人に多いのでしょうか。

眞部:それが意外に若い人にも多いのです。特に、若い女性で浣腸を頻繁にしたり刺激性の下剤を高頻度で使ったりしている場合は、肛門の近くにある恥骨直腸筋という筋肉が疲弊していることがあります。恥骨直腸筋は直腸の端を支えたり、肛門を閉めたりする筋肉で、排便においてとても重要な役割を果たしています。恥骨直腸筋は通常、いきむと緩んで排便をスムーズにさせるのですが、疲弊した状態になると、いきんでも緩まなくなるため便が出せず、便秘になってしまうことがあります。

――市販薬や浣腸の使い過ぎが筋肉にまで影響を与えることもあるとは知りませんでした。

眞部:骨盤底筋群(骨盤の下にあって内臓を支える筋肉)の機能異常で、同じような状態になることもあります。
こうなると薬ではどうにもならず、専門の施設で治療を受ける必要があります。ですが、恥骨直腸筋の疲弊による便秘も、通常の便秘も「便が出ない」という症状に違いはありません。そのため、「薬の量が足りないから便が出ないのかも」と勘違いして、便秘薬を飲み続けてしまう人もいます。そうすると、どんどん腸の働きも悪くなって、便秘がさらに悪化してしまいます。

日常的に便秘薬に頼る生活が半年続いたら受診? 病院に行く目安は?

――便秘に関しては「病院に行ったほうがいいのかな…」と思っていても、なかなか踏み切れない人も多いように感じます。どのような傾向があれば、病院を受診したほうがよいのでしょうか。

眞部:早めの受診に越したことはないですが、「半年」という期間がひとつのポイントになります。例えば、1週間に2回くらいしか便が出ない状態が半年以上続いている、便秘薬を日常的に服用する状態が半年以上続いているという場合は、先ほどお話しした、直腸筋の疲弊による難治性の便秘になっている可能性もありますので受診をおすすめします。市販の便秘薬で様子を見ていたけれど、どうにもならなくなり来院される患者さんは少なくありません。もともと便秘気味の人が、刺激性の便秘薬とうまくつき合っていくのは、なかなか難しいようです。

――そのほか、受診したほうがよい傾向があれば教えてください。

眞部:やはり最初にも紹介した慢性便秘の診断基準に当てはまるかどうかが重要ですが、その中でも「便の硬さ」「排便の頻度」は自分で気づきやすいポイントになるでしょう。
便の硬さについては、コロコロしたウサギのふん状の便しか出ない場合、受診をおすすめします。また排便回数については個人差がありますが、週の排便回数が「常に2回以下」という場合は受診対象となると考えたほうがよいです。
加えて、お腹の張りや残便感といった症状を半年以上にわたって頻繁に感じる場合も、受診したほうがよいでしょう。早く治療すれば、ひどくならないうちに改善できることもあります。

便秘治療に役立つ漢方薬

――先生は便秘の治療に漢方薬をよく使われているそうですが、漢方薬を使うメリットはどんなところにありますか。

眞部:便秘治療には西洋薬の新しい薬がたくさん出ていて、治療の選択肢は増えています。それらは明確なエビデンスもあり、迷わずに使うことができます。ただし、これは便秘薬に限りませんが、西洋薬は作用点が1つか2つ――つまり、1つの薬には1つか2つの効き目というのが基本です。大腸の機能に問題が発生している「機能性便秘」の場合、いくつかの症状を抱えることが多くあります。また、腸と胃の調子は関連すると考えられており、どちらかに不調が出るともう片方も不調になったり、片方を治療するともう片方が治ってきたりすることもあります。いくつかの生薬の組み合わせでできている漢方薬にはたくさんの作用点があり、一剤でさまざまな症状に対応することが可能です。西洋薬ではコントロールできないような症状までカバーできる可能性があるのが、漢方薬のメリットといえます。

――漢方薬には、市販の便秘薬に含まれるような刺激性の成分は使われていないのでしょうか。

眞部:いいえ、西洋薬に比べるとはるかに少ない量ではありますが、漢方薬にも刺激性下剤の成分は使われています。例えば大黄(だいおう)という生薬は刺激性下剤の一種で、大量に摂取すると腸の働きを低下させることもあり、注意が必要です。便秘治療の漢方薬として有名な大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう) 調胃承気湯(ちょういじょうきとう) には大黄が含まれています。

――便秘のタイプによって漢方薬を使い分けることもあるのでしょうか。

眞部:同じ病名でもタイプによって薬を使い分けるのは、漢方薬の特徴といえます。これは、漢方医学で「同病異治」と呼びますが、「便秘」ひとつ取っても、便秘のタイプは人によって異なりますし、患者さんの体型や体質、年齢も異なります。そのため、それぞれに合った漢方薬を処方していきます。例えば、大建中湯(だいけんちゅうとう) は術後の腸閉塞の予防あるいは治療に用いられている漢方薬ですが、便秘にも有効な漢方薬で最も汎用性が高く、消化管の運動促進作用があります。お腹の張りがある人にも有効です。大建中湯に西洋薬をプラスして使うケースもあります。

――過敏性腸症候群の便秘タイプにはどのような漢方薬が有効でしょうか。

眞部:桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう) または桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう) がよいでしょう。芍薬という生薬の働きによって腸の平滑筋の緊張がやわらぎ、排便を促す効果が期待できます。
また、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん) も有名ですが、この漢方薬はBMIでいうと25以上、ややふくよかな人に適しています。それ以下の人が使うと、手足のだるさやむくみ、吐き気や血圧上昇などの副作用が生じることもあり、危険です。便秘は「たかが便秘」と思わずに、信頼できる医療機関を受診していただきたいです。医療機関を受診したほうが、結果として便秘改善の近道になることもあるので、ぜひ適切に専門医を頼ってください。漢方薬を含め、適切な治療を提案できるので、早めに対策をして便秘を治療していきましょう。

参考
  1. 眞部紀明ほか. 日内会誌 2020; 109(2): 254-259
  2. Lacy BE, et al: Gastroenterology 2016; 150(6) : 1393-1407
  3. 2019年 国民生活基礎調査の概況 第9表 性・年齢階級・症状(複数回答)別にみた世帯人員・有訴者数・有訴者率(人口千対)<2022年1月14日閲覧>
  4. Sakisaka N, et al. Front Nutr 2018; 5: 73
  5. 青山重雄. phill漢方 2018; 70: 12-14
  6. 新井基洋. 漢方と最新治療 2018; 27(1): 73-78

眞部紀明(まなべ のりあき)先生
川崎医科大学 総合医療センター中央検査科部長。同大医学部臨床医学 検査診断学(内視鏡・超音波) 教授

1993年、広島大学医学部卒業。消化器内科を専門に研究を行い、2018年より現職。日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本消化器病学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、日本消化管学会胃腸科専門医・指導医、日本消化器がん検診学会認定医、日本食道学会食道科認定医、日本超音波医学会専門医、日本ヘリコバクター学会ピロリ菌感染症認定医。

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