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前編 : ホットフラッシュ、イライラ…更年期の不調に漢方で向き合う

公開日:2020.10.21
カテゴリー:病気と漢方
 「現代は更年期を迎えても、そこからあと30~40年は生きる人が多い時代。更年期をうまく乗り切り、その後の人生をなるべく楽しく過ごすためにも漢方の知恵を上手に使ってほしいです」そうおっしゃるのは、つくばセントラル病院産婦人科部長で東邦大学薬学部客員講師の岡村麻子先生。岡村先生は薬学部卒業後に医師となり、さらに中医学を学ぶため、中国にも留学。漢方医学と西洋医学、両方の側面から女性の体をトータルに診療できる数少ない婦人科専門医です。第1回目の今回は、更年期に起こる心身の変化とその原因、そして有効な漢方薬について伺いました。

更年期とは

更年期に悩む女性

 そもそも「更年期」とは女性のライフステージの区分のひとつを指す言葉です。女性のライフステージは卵巣機能の活動に伴い、小児期・思春期・成熟期・更年期・老年期の5つに区分されます。
 更年期にあたるのは閉経の前後5年ずつ、計10年間くらいの期間です。閉経の平均年齢が50.5歳1)ですから、年齢でいうと40代半ば~50代半ばごろでしょうか。個人差はありますが、そのくらいの時期に遅かれ早かれ皆、更年期を迎えることになります。

 ところで更年期には、皆さんご存じのように少々やっかいなところがあります。それは更年期特有の諸症状(更年期症状)の発症です。更年期では20~30代の成熟期にピークを迎えた女性ホルモンの分泌が急激に低下し、それに伴ってさまざまな身体的、精神的症状が現れてきます。こうした更年期症状は、この時期、そしてその後の女性のQOL低下につながることが少なくありません。更年期をどう乗り切るかは、その後の人生の過ごし方にも大きく関わってくるといえます。

更年期症状は「自律神経系・内分泌系・免疫系」のバランスが崩れて起こる

 更年期症状は、先ほどもお話ししたように女性ホルモン(エストロゲン)の急激な減少がきっかけとなって起こります。具体的にはまず、急に女性ホルモンの分泌量が減ることで、ホルモンの分泌をつかさどっている脳の「視床下部」という部分に混乱が生じます。視床下部は「ホルモンを出して」という指令を出しているのに、肝心のホルモンが分泌されないため、視床下部が混乱してしまうのです。視床下部ではホルモン分泌のほかに、私たちの体の働きを調整する役目を果たしている「自律神経」の調節も行っています。そのため、視床下部の混乱は、自律神経の乱れにもつながります。

 私たちの体は「自律神経系」と、ホルモン分泌をつかさどる「内分泌系」、そして外部から進入する異物から身を守る「免疫系」、この3つの働きがバランスを保つことで健康を維持しています。自律神経が乱れると、このバランスが崩れてしまい、その結果、体のあちこちに不調=更年期症状が現れてくるのです。

 どんな更年期症状がどれくらい起こるかは、人それぞれ異なります。たいした症状を感じないまま更年期が過ぎていくこともあれば、日常生活に支障をきたすほどひどくなる場合もあります。皆さんがよく耳にする「更年期障害」とは、この更年期症状が日常生活に支障をきたすほど強くなった状態のことをいいます。また、更年期障害はすべての人に起こるわけではありません。

主な更年期症状

 更年期に起こる症状は人それぞれ異なりますが、代表的な症状もいくつかあります。例えば、ホットフラッシュと呼ばれるのぼせや発汗、動悸(どうき)、冷え、不眠などは多くの人に現れやすい代表的な更年期症状といえます。

 これらの症状には、漢方医学において更年期症状が瘀血(おけつ)、気逆(きぎゃく)、腎虚(じんきょ)によって起こるとされている背景があります。

 血の流れが阻害された状態である「瘀血」では、不眠や精神的な不安定、のぼせ、肩こり、筋肉痛などの症状が現れます。「気逆」は、気のめぐりが逆行した状態で、冷えやのぼせ、発作的な動悸、頭痛、胸痛、腹痛、嘔吐、イライラ感、下肢や四肢の冷え、手のひらや足の裏の発汗などが代表的な症状です。また腎の働きが弱っている、いわゆる「腎虚」の状態では脱毛や、皮膚の乾燥、頻尿などの排尿障害、下肢の冷えなどが起こりやすくなります。

 主な更年期症状としては上記のほかにめまい、腰痛、関節痛などが挙げられますが、症状はじつにさまざまです。実際の治療の現場ではこうした多様な更年期症状の種類や強さを、患者さんにチェックリストなどを使って評価してもらい、治療に役立てています。

更年期の不調は漢方医学と西洋医学の「いいとこ取り」で対策を

 更年期症状の治療や緩和にはまず、更年期症状を引き起こすそもそもの原因となっている「内分泌・自律神経・免疫」のバランスを整えることが大切です。こうしたバランスの調整は漢方医学の得意分野であり、さまざまな症状が起こる更年期症状の治療においては、漢方医学のほうが西洋医学よりもややメリットが大きいかもしれません。なぜなら漢方薬は、2つ以上の生薬の組み合わせでできているため、1剤でいろいろな症状に対応が可能だからです。中でも加味逍遙散(かみしょうようさん) 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん) 温経湯(うんけいとう) の3つは、更年期症状の治療に、特に効果的な漢方薬です。単独での使用はもちろん、西洋薬との併用でも効果を発揮してくれます。

 加味逍遙散は、体力が中程度の人の更年期症状の緩和のほか、月経異常の治療にも使われ、のぼせ、頭痛、めまい、肩こり、発汗異常、手足のだるさ、精神不安、便秘傾向といった心身の不調に広く効果があります。「婦人の一切の申し分に用いてよく効く」といわれています。

 一方、桂枝茯苓丸は赤ら顔で体力がそれほど落ちていない人に用います。血が滞った状態である瘀血を改善する代表的な漢方薬である桂枝茯苓丸は、顔や頭はのぼせて汗をかくけれども足は冷えている、下腹部に張りがあるという人に向いています。また頭痛、肩こり、めまいなどの緩和にも効果を発揮します。
 温経湯が向いているのは、手足はほてるけれどお腹に冷えがあり、さらに唇が乾燥しているようなタイプの人です。体力もあまりない、虚弱体質の人が多いでしょう。温経湯は血が不足した血虚(けっきょ)を改善する漢方薬としても知られており、全身の血液循環を整えることでほてりや冷えを改善します。また、それによって皮膚の乾燥の改善にも効果が期待できます。

 これらの漢方薬を使うことで、更年期症状が改善されることは多々あります。更年期症状でお悩みの場合はお近くの漢方専門医に相談してみるとよいでしょう。

 しかし中には西洋医学の治療法が優先されることもあります。例えば、一般的にホットフラッシュの治療でもっとも効果が期待できるとされるのは、西洋医学であるHRT(ホルモン補充療法)です。つまり、ホットフラッシュそのものの緩和においては、漢方薬はHRTにかなわないでしょう。このように特定の症状を抑えたり改善したりするのは西洋医学の得意分野といえます。一方、漢方医学は体全体を見て、体の中のどこでバランスが崩れているか、症状が起きる原因そのものを見極めるのが得意です。それぞれ得意なアプローチが異なる西洋医学の治療も漢方医学の治療も受けることができる、それが日本の医療の良いところです。せっかくですからそれぞれの良さを生かしながら、更年期症状の治療や改善に努めていくことをおすすめします。

 なお、HRTを行いたくても行えないというケースもあります。たとえば、原因不明の不正性器出血など禁忌や慎重投与にあてはまる症状がある場合です。先に紹介した温経湯には、止血ならびに滋潤(全身に栄養を届け潤す)作用のある阿膠(あきょう)が含まれています。阿膠は不正出血に有効な漢方成分で、更年期の不正出血にも効果を示します。温経湯の服用によって不正出血が改善し、その結果、HRTを用いた治療が可能になった症例がありました。つまり、「必要な西洋医学の治療を行うための準備を漢方薬で」という使い方も漢方薬にはあると私は考えています。

後編では、更年期を過ごすにあたり気をつけたいことや上手な漢方医学の取り入れ方を、さらに具体的に紹介していきます>

参考
  1. 更年期障害について教えて下さい。|日本産婦人科医会webサイト<2020年10月19日閲覧>
岡村麻子(おかむら・あさこ)先生

茨城県出身。東邦大学薬学部卒後、日立化成茨城研究所に勤務。島根大学医学部卒後、東京大学医学部産婦人科学教室入局。日赤医療センター、焼津市立総合病院、茨城日立総合病院、東京北医療センター、東京ベイ浦安市川医療センター、北京中医薬大学研修などを経て、2014年から現職。女性の本来持つ力を活かして健康につなげるために、西洋医学に東洋医学を融合させる東西結合医療を目指している。
『臨床力をアップする漢方 西洋医学と東洋医学のW専門医が指南!』(中山書店)、『エビデンスをもとに答える妊産婦・授乳婦の疑問92』(南江堂)その他数編を分担執筆。
日本産科婦人科学会 専門医・指導医。日本東洋医学会 漢方専門医・指導医。日本女性医学学会 専門医・指導医。(以上、2020年8月現在)

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