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こんなに違う!? 中国と日本~みなさんの漢方・漢方薬に関する疑問・誤解を日本東洋医学会副会長に伺いました(後編)

公開日:2013.11.29
カテゴリー:漢方ニュース

 QLife漢方のユーザーの皆さんから寄せられた素朴な疑問・質問について、日本東洋医学会副会長の鳥居塚和生(昭和大学 薬学部 創薬分子薬学 生薬学・植物薬品化学 教授)先生に解説をお願いしました。
 3回目は、日本と中国との医学制度の違いや漢方薬と中薬について迫ります。

Q.日本と中華人民共和国(中国)のそれぞれの違いについて

(1)医学制度の違いについて(医師免許制度の違い)

 日本と中国では医師の免許に関しても大きな違いがあります。日本では医学教育が一元化されているために、一人の医師が基盤となる西洋医学・現代医学を学び、それに加えて漢方医学も学ぶという制度になっています。ですから、医師免許は一種類しかありません。薬剤師免許も同様です。そのため、いずれの病院や医院においても、西洋薬と同時に漢方薬を処方することができるほか、漢方薬を単独で処方することもできるのです。
 それに対して中国は西洋医学と中医学が別々であり二本立ての制度になっています。医学部もそれぞれが独立しているため、西洋医学の医師と中医学の医師(中医師)は区別され異なる医師免許制度になっています。基本的に一人の医師から西洋薬と中薬を処方してもらうことはできません。もちろん西洋医学の医師が中医師の免許も取得し、同時に処方している例もありますが、制度上、別立てになっているのです。

(2)医薬品制度の違いについて

 医薬品制度についても、日本は日本薬局方、中国は中華人民共和国薬典に基づいて製造管理・品質管理を行い保証されていますが、その基準には違いがあります。また伝統薬の総称を日本では「漢方薬」「漢方製剤」と呼ぶのに対して、中国は「中薬」「中成薬」と称しています。

原料となる生薬(日本)と中薬材(中国)との違い

 日本薬局方と中華人民共和国薬典と比較しますと、原料とその総数もそれぞれ異なります。中華人民共和国薬典には中薬材と呼ばれるものが600種類以上も収載されています。一方、日本薬局方ならびに局方外生薬規格では272種類の生薬が収載されています。
 このような数の違いだけではなく、同じ漢字が使用されている生薬でも基原とする植物が異なり成分や薬効が違うものがあります。あるいは同じ植物に由来する生薬でも名称が異なるものもあります。また、基原とする薬用植物の薬用部位が異なっていたり、加工調製方法が異なるものが多数あります。
 つまり基原とする薬用植物や原料が、中国国内では使用許可されていても、日本国内では許可されていないものもあるということです。

漢方薬と中薬との違い

 医薬品の数も中国では医療用中薬が約1000種、一般用となると約4500種にもなりますが、日本において医療用の漢方製剤は148種類、一般用の漢方製剤も294種とその数には大きな違いがあります。中国と日本では類似処方を含めても一致しているものは、10分の1以下となります。
 漢方医学と中医学は、古代中国医学を“源”としている点は同じですが、時代背景や風土などが異なることから、それぞれ独自に発展を遂げてきました。そのため現在、使用する原料生薬や処方については、日本と中国とでは一部共通するものもありますが、明らかに異なるものになっています。また、原料生薬や製剤が、日本国内では許可されていないものも数多くあります。不用意に海外で購入することや、安易な使用は避けた方が賢明と言えます。

(3)漢方医学と中医学の診断や処方の違い

 日本の漢方医学の治療の特徴は、独自に発展した「方証相対」・「随証治療」および独自の診断(気・血・水、腹診など)にあります。これらの診断から病状や体質を判断し、「証(しょう)」を明らかにして、それに対応した漢方処方を用いた治療を行っていきます。なかでも「腹診」は日本で発達した診断技術であり、病状を見極める上で多くの情報を得ようとして考案された方法と言えます。舌診や脈診などに加えて、腹診という診断方法を用いて診断の“精度”を高めています。
 それに対して中国では、独自の理論に基づく“弁証論治”を行っています。弁証論治とは、その人の体質、病気の進行具合など様々な要因を分析し、病態や病因を解析し、その病因を治療する薬効のある生薬を組合せた処方により治療をすすめると言う方法となっています。その患者だけのオリジナルな処方を作って治療するという方法であり、そのための理論と言えます。
 このような違いから、日本では主に「○○湯」といったように漢方エキス製剤という顆粒などにしたものが用いられ、全国どこの病院においても、品質のバラツキの度合いが少ない均質な薬を投薬することを可能にする状況を作り出しています。これに対し中国は、基本的に治療薬は個人毎で違った生薬が組合わさった処方が出されることになるので、生薬を自宅で煎じて服用することが求められ、一定の品質を維持することが難しいとも言われています。またそのため効果の出方にも、ばらつきが出る可能性は十分にあります。

Q.日本の医療制度の特徴は何ですか?

西洋医学と東洋医学の長所を取り入れたハイブリット型医療を実践する日本

 このように一人の医師が西洋医学を基本として、西洋医学が適する患者には西洋医学を用い、漢方医学が得意とする疾病にはそれを用いるというように、西洋医学と漢方医学の長所を取り入れた一種のハイブリッド型医療を実践しているのが日本の医療制度の特徴です。これは世界的に見ても類がないことと言えますし、柔軟で質の高い医療体制を提供しているといえます。

世界に積極的に発信できる日本の漢方薬

 日本の生薬や漢方製剤は、日本薬局方等で規格が定められ、残量農薬・重金属・微生物・放射能汚染などが厳しく管理され、また成分のバラつきも同様に管理され、品質の均質性も担保された漢方製剤(エキス製剤)が中心です。
 2011年に実施された「漢方薬処方実態調査」(日本漢方生薬製剤協会調べ)によれば、日本の医師の89%が漢方製剤を処方し、大学医学部や薬学部の教育カリキュラムの中に、漢方医学の教育が組入れられ、現在ほとんどの大学が必須科目として漢方医学の教育を実施しています。また前に述べたように、漢方エキス製剤の均質性が高いため治療効果について、科学的・現代医学的評価が可能であることです。現代医学の最先端のレベルで漢方製剤の薬効、作用メカニズムや臨床効果が証明されつつありことと併せて、“科学的方法論”で検証できる点が漢方医学の優れた特徴と言えます。
 消化器病学の最高峰とされる国際学会である米国消化器病週間(DDW:4つの消化器系の学会の総会を同時に行う大会として著名)において、この4年間は、毎年20演題を越える漢方薬に関する最新の研究成果が報告され、海外の専門医師からも注目を浴びていることが知られています。更に米国臨床腫瘍学会、欧州臨床腫瘍学会、米国肝臓学会ほか多くの国際会議等でも最新の研究が発表されています。これらのことは、何より“科学的方法論”で検証でき、効果を科学的に実証できることに裏付けられているから出来うることなのです。言葉を換えて言えば、日本の漢方製剤は、高い技術水準で品質が保証されていること、最新の医学・薬学レベルで薬効・薬理が解明されていること、そしてこれらに立脚して、客観的な臨床評価方法で有効性、安全性が検証可能であることが背景になっているからです。
 まさに、日本が世界に積極的に発信できるものが、(1)西洋医学と漢方医学をハイブリッドさせた、このような医療システムそのものであり、(2)そのシステムを支える、科学的な評価を受けた高品質の漢方薬・漢方エキス製剤、と言っても過言ではないと考えています。(« 中編へ

鳥居塚和生先生
日本東洋医学会 副会長、日本東洋医学サミット会議 事務総長

1977年千葉大学薬学部卒、1979年千葉大学大学院薬学研究科修了。薬学博士。エスエス製薬(株)中央研究所 研究員、富山医科薬科大学、テキサス大学(客員研究員)、北里研究所東洋医学総合研究所等を経て、2000年昭和大学薬学部助教授、2006年昭和大学薬学部生薬学・植物薬品化学教室教授に。現在は昭和大学薬学部 創薬分子薬学 生薬学・植物薬品化学・教授、日本生薬学会 財務幹事、和漢医薬学会 理事。

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