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漢方を活かす食養生 No.14 熱中症によるほてり、口渇

公開日:2020.04.24
カテゴリー:漢方ニュース
 食養生とは、健康を保ち長寿を全うするために、日常よく使う食材の性質や働きを知り、健康のために効果的な食生活を送ることです。食養生では、食物を体を冷やす順に寒、涼、平、温、熱で表す「五性」という考え方と、酸味、苦味、甘味、辛味、塩味に分ける「五味」という考え方に基づいて食材をとらえます。
 ここでは、食養生を実践するためのレシピや、食養生と漢方の関係について、水嶋クリニック院長で東洋医学研究所所長の水嶋丈雄先生が解説します。

 体を温める・冷やすといった食物のさまざまな性質を利用して、患者さんの状態に合わせた食事指導の例や漢方治療を全14回にわたって配信した本シリーズも、今号で最終回となります。

 畑仕事で無理をしてしまい、寝苦しい夜が明けると体がほてり微熱もあったため来院した60代の女性。脱水が著明で熱中症による発熱と考えて緊急点滴・漢方治療を行いました。さらに、循環血漿量を増やすために行った食事指導例を紹介します。

 このところ畑仕事が忙しく、無理をして仕事をしていたら、受診の前日は夜間に寝苦しく、体がほてり、熱を測ったら37.8°Cありました。受診時、頬が赤く、目がくぼんでいて口が渇くとの訴え。血圧は158/108mmHg、呼吸数28でやや早く、脱水が著明で熱中症による発熱と考えました。

 まずは緊急で点滴を行い、循環血漿量の増加のために生脈散(しょうみゃくさん)を湯液として処方しました。生脈散は、人参、麦門冬、五味子から構成され、『内外傷弁惑論』に原典を持ち、その名の通り、脈を生む、つまり、循環血漿量を増加させる漢方薬です。暑熱による気津両傷、あるいは慢性の咳嗽による肺の陰液不足に用います。もちろん、清暑益気湯(せいしょえっきとう) にもこの方意は含まれています。この場合には脱水と発熱が認められたため、緊急に脱水を改善するために湯液を用いました。保険適用外ですが、一部のメーカーではエキス製剤も販売しています。

 循環血漿量を増加させる食品で有名なのは葛根湯(かっこんとう) にも含まれる葛の根ですが、生脈散で用いた薬用人参や、ジャノヒゲの根茎である麦門冬も食品として用いることができます。

 その他、山芋、菊芋、ヤーコンや、豆乳、トマト、ゆり根、きくらげ、しめじ、桃、びわ、柿、梅、リンゴ、すもも、スイカ、みかんなどリコピンを含む酸性の食材、うなぎ、すっぽん、なまこ、どじょうなどの夏に精力をつけるとされるビタミンの豊富な魚介類、はちみつ、砂糖、お茶なども循環血漿量を増加させる働きがあります。以上を踏まえて、食事療法を指導しました。

ゴーヤーときゅうりの混ぜ寿司

材料(4人分)
ゴーヤー 1本
きゅうり 2本
赤ピーマン 1個
ごま 小さじ2
しそ 5枚
3合
◇A
 酢 大さじ6
 砂糖 小さじ6
 塩 小さじ1と1/2
作り方
  1. ゴーヤーは縦半分に切って、種を取り、薄切りにする。きゅうりは薄い輪切りにする。ゴーヤーときゅうりの正味2%の塩をふってからもむ。水分が出たらギュッと絞る。ゴーヤーの苦味が気になるときには水洗いをする、もしくはさっと熱湯に通してもよい。
  2. ピーマンは素焼きして種を取り、薄皮をむいて1cm角に切る。
  3. 炊き上がった米にAの調味料を混ぜ合わせ、酢飯をつくる。
  4. 3の酢飯に具を混ぜ、ゴマと千切りにしたシソも合わせる。
  5. ※詳しい作り方は文献1)に記載されています。

 さらにもう一品。

きゅうりのトマトがけ

材料
きゅうり 2本
トマト 大1個
◇ドレッシング
 酢 大さじ1
 レモン汁 大さじ1
 酒 大さじ1
 油 大さじ1
 塩 小さじ1/2
 こしょう 少々
作り方
  1. きゅうりは薄い輪切りにして、上記外の塩少々でもんでおく。トマトは湯むきをして種をとり、5mm角に切り、ドレッシングをなじませておく。
  2. きゅうりの水分を切り、器に盛り、上からたっぷりのトマトドレッシングをかける。
  3. ※詳しい作り方は文献1)に記載されています。

 きゅうりやトマトは循環血漿量を増加させる働きがありますが、塩分が濃いと逆効果になるので気をつけたいところです。酢飯にも循環血漿量を増やす働きがあります。つまり、夏バテで循環血漿量を増やすには寿司と緑黄色野菜、葛粉などが最適です。

 今回の患者さんは次の日には微熱がとれ、1週間後には血圧130/70mmHgまで下がり、血液検査なども異常がなくなりましたので、生脈散は終了としました。生脈散がない場合は、清暑益気湯でもいいでしょう。

終わりに

 食は体を作る上で重要なものです。漢方薬の服用とともに、食事でも体の症状にあった食材を取り入れることで、よりよい改善が見込めます。14回にわたって紹介した症状以外は『食べて元気になる漢方ごはん』に掲載されています。食べものが持つ性質を覚え、自分の今の体の状態にあった一品を加えることで、病気にならない体を作ることができます。少しの知恵と工夫です。漢方食を取り入れ、健康を手に入れましょう。

文献
  1. 水嶋丈雄ほか. 食べて元気になる 漢方ごはん. 信濃毎日新聞社, 2008, p.41.

(本記事は医療関係者向けサイト漢方スクエアに掲載された記事を元に、一般読者向けに再編集しております)

水嶋丈雄(みずしま たけお)先生
医療法人 水嶋クリニック 院長/NPO法人 東洋医学研究所
医療法人水嶋クリニック院長、NPO法人東洋医学研究所所長。
1981年大阪医大卒。1978年より麻酔科兵頭教授に師事、鍼灸治療を学ぶ。1998年長野県佐久市内に水嶋クリニック・東洋医学研究所開業。2010年WHO伝統医学部門委員、日本東洋医学会評議員、2012年日本プライマリケア学会認定医、2014年厚労省保険部会外部諮問委員。著書に『花粉症・アレルギーを自分で治す70の知恵』(主婦の友社)、『鍼灸医療への科学的アプローチ』(三和書籍)など多数。

食べて元気になる 漢方ごはん
解説:水嶋丈雄
料理:横山タカ子
撮影:山浦剛典
発行社:信濃毎日新聞社(https://shinmai-books.com/)

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