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肺炎治療に漢方薬を併用することで治療期間が短縮

公開日:2019.10.25
カテゴリー:漢方ニュース

 現在、日本人の死因トップはがんで、次いで心疾患、老衰、脳血管疾患、肺炎の順となっています1)。死因第5位である肺炎は、死亡者の多くが65歳以上の高齢者です。今後少子高齢化がより進むなか、肺炎による死亡者は増加することが予想されます。
 肺炎は、多くの場合細菌感染が原因のため、抗菌薬が処方されます。この抗菌薬に、漢方薬の小柴胡湯(しょうさいことう) を併用することで、抗菌薬の投与期間や発熱期間の短縮につながることを、静岡県の島田市立島田市民病院の山崎玄蔵先生らが、第70回日本東洋医学会学術総会で発表しました。

 小柴胡湯は柴胡(さいこ)、半夏(はんげ)、黄芩(おうごん)、大棗(たいそう)、人参(にんじん)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)の7種類の生薬で構成されています。体力が中等度で、脇腹からみぞおちにかけて苦しく、舌苔(舌が苔のように汚れている)、口の苦み、食欲不振、微熱や、気持ち悪さなどのある人での、急性熱性病、肺炎、気管支炎、気管支喘息、感冒、リンパ腺炎、慢性胃腸障害、産後回復不全、あるいは慢性肝炎での肝機能障害の改善に使用されます。

 今回の研究では、2016年4月~2018年8月の期間中に、肺炎で島田市立島田市民病院に入院して治療をした患者さんを対象としました。山﨑先生は対象を、抗菌薬投与・酸素吸入などの標準治療のみを行った群(39人)と、標準治療に小柴胡湯の内服(1日7.5g)を併用した群(22人)に分け、入院中の抗菌薬投与日数、有熱期間、酸素投与日数を比較しました。ちなみにこの両群間で年齢、性別や肺炎の重症度、合併している病気の有無や種類などの患者背景に差はありませんでした。
 その結果、抗菌薬の投与日数と有熱期間について、統計学的な検討で小柴胡湯を併用した患者の方で明らかに短いという結果が得られました。なお、酸素投与日数については小柴胡湯の併用の有無で差はありませんでした。

免疫調節作用や抗炎症作用を持つ小柴胡湯

 山崎先生は、日本呼吸器学会が策定した現状の成人肺炎診療ガイドラインでは、漢方薬に対する言及はなく、これまでの研究報告でも肺炎治療と小柴胡湯に関する報告はほとんどないとしながらも、基礎的な研究では小柴胡湯に炎症を鎮める抗炎症効果が報告されていると説明しました。そのうえで抗菌薬は細菌が増えることを抑える作用のみであるのに対し、小柴胡湯には免疫調節作用や抗炎症作用があることを考慮すると、この2つを併用することで効果的に肺炎を治療できる可能性があるとの考えを示しました。

 また、漢方処方に関する古典である「傷寒論」を調べると、小柴胡湯を処方する病態は、漢方医学で「胸脇苦満(きょうきょうくまん)」と呼ばれる上腹部が張って苦しいという症状と発熱がほぼ常に含まれていると説明。「胸脇苦満がある急性期の発熱性疾患である肺炎、胆嚢炎、腎盂腎炎などで抗菌薬と小柴胡湯の併用は有用だろう」との見方を示しました。(村上和巳)

参考
  1. 厚生労働省 平成30年(2018)人口動態統計月報年計(概数)の概況 死亡数・死亡率(人口10万対),性・年齢(5歳階級)・死因順位別 (2019年10月11日閲覧)

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