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あいち熊木クリニック 熊木徹夫院長

[外来訪問] 2016/10/19

~漢方薬の新時代診療風景~
 漢方薬は、一般に知られる処方薬(西洋医学)では対処が難しい症状や疾患に対して、西洋医学を補完する使われ方も多く、今後の医療でもますます重要な役割を果たすと考えられます。
 近年、漢方薬の特性については科学的な解明が進んだこともあって、エビデンス重視の治療方針を取る医師の間でも漢方薬が使用されることが増えています。
 漢方薬を正しく理解して正しく使うことで、治療に、患者さんに役立てたい。日々勉強を重ねる、身近な病院の身近なドクターに、漢方活用の様子を直接伺いました。ドクターの人となりも見えてきます。

漢方と精神科医療は相性がいい

 当院は心療内科クリニックです。いくつかの専門外来を標榜しています。現在はとりわけ、摂食障害で来られる方が多いですね。それから痛み治療の中でも積極的に取り組んでいる線維筋痛症、そのほか、発達障害やギャンブル依存症といった患者さんが来院されます。
 病気によって、西洋薬と漢方薬の両方選べるものがある時は、患者さんにその選択を委ねます。最初からこの人にはぜひ漢方を使おうと決めてかかるよりは、この人には漢方が合いそう、この人には向精神薬が合いそうとイメージして、臨機応変に処方してゆきます。
 実際に精神科医療の中で向精神薬を使う感覚と、漢方薬を使う感覚は、非常に似ています。漢方では四診という診断法があり、聞診や切診といった、見た目や声色など体の感覚に沿った多角的見立てをすごく重視しています。それは精神科も一緒なんです。
 精神科医療も漢方医療も問診が非常に大事ですが、問診だけではなく、治療者の身体感覚を総動員して診ていきます。そういった意味では、漢方診察と精神科診察は互いに通底していて相性がいいため、違和感がなく、2つを混合することもできるんです。

目の前で苦しむ患者さんを助けるための試行錯誤から漢方につながった

 漢方を治療に取り入れるようになったのは、豊橋市民病院に勤務していた時からです。豊橋市民病院では、内科で検査したけど異常がない、けれども患者さんは痛い、辛いと言っている、それで耳鼻科に行っても脳外科に行っても何にもない、あなたは異常がないよ、気のせいだよと言われる。それで精神科に来る人、すなわちさまざまな不定愁訴を抱えた患者さんがごまんといました。
 当時の私は、これは異常がないのではなくて、検査で異常が分からないだけだと思っていました。それなのに、現代医療の技術で分かりきらないというだけで、異常の訴えは患者さんの独りよがりなものとされ、その結果、精神科に打ち捨てられてしまう。その事態をたいへん歯がゆく思っていました。「こういった患者さんたちも、適切な方法で救済される可能性を残している。じゃあ、それを証明してみせよう」というわけで、実際にいろいろとやってみたんです。
 私の持ち札としてはまず、向精神薬がありました。これはこれで効果がある患者さんもいました。ところが、それだけではどうもうまくいかないこともある。そこで、大学時代から興味を持っていた「漢方」を試してみようと思ったのです。それから漢方に関する本を読みあさり、日曜日ごとに研究会に出ていました。
 その頃まめにやったことは、腹証―お腹を診ることでした。腹診が大事なことは、初期の頃に教えてもらっており、あとはひたすら数稽古を積んでいきました。当時、信頼関係のある患者さんが診させてくれたので、およそ1,000人の患者さんの腹証を取っています。
 正直なところ、忙しい外来診療のなかで腹証を取るのはなかなか難しく、多忙さに拍車がかかる事態になりました。しかしそれでも粘り強くそれを積み重ねてゆくと、段々分かることが増えてきて、そのうち腹証を取らなくても、ある程度のことが分別できるようになっていきました。あと舌―舌証はこれまでに4,000人くらい診ています。舌にはとても多くの情報があります。脈も取りますが、特にこの2つの証をとることが多いです。
 腹証は結構ヒット率が高いです。腹証をとった9割くらいの人に対しては、出した漢方で一定の効果を得られていると思います。意外にも、最初から効果を得られたケースが多く、漢方処方すればするほどどんどん患者さんが良くなるものだから、「漢方、えらい効くわ」と感嘆を繰り返す日々。それが励みとなりました。今まで、どこに行っても何を処方されても良くならなかったけど、漢方で初めて良くなったという人がたくさん出てきて、これはすごいなと思いました。

患者さんと並走して治療を進めていく

 漢方と向精神薬を併用することはあり得ます。ただ、一度に薬の種類を増やしたり変えたりしてしまうと、体に何かしらの変化があったとき、どの薬がその原因なのか分からなくなってしまうので、ひとつずつ増減し、丁寧に診ていきます。時間はかかりますが、つまるところ「急がば回れ」です。
 例えば、ある抗うつ薬を3.75錠出しているケースがあります。当然、最初から3.75錠なんかありえません。1錠ずつ増やしたり減らしたりして、ちょうどいい薬の量を患者さんと探ったところ、3.5錠では不足だけれど、4錠では多すぎるということが分かりました。それで3.75錠になったんです。つまりその3.75錠は、私も患者さんも納得ずくの3.75錠なのです。
 また、少しずつ薬を増減することで、患者さんの身体感覚を耕しているところがあります。「この薬をこれだけ出したけれども、どんなふうに体に響いてる?体は何と言ってる?」と、自分の体が発する“ささやき”を聞いてもらいます。それらを細かくフィードバックしてもらい、それに基づいてまた薬を増減する。そうしていくうちに、自ずと導かれる場所があるんですね。それゆえ「なぜこの薬でこの量になったか」そのプロセスを、患者さんは全部認識しています。私も、どういう意図でこの薬を出すのかを、あらかじめ全部患者さんに伝えています。
 もちろん、どの症状にどの薬がいいのかという「マッチング」は、専門性が高く難しい問題ですから、私が提案します。ただ提案したものについて細かいレスポンスがないと、私たちが外から見て、薬が合っているか合っていないかを判断するだけでは、あまりにも情報が粗雑すぎる。患者さんに自分で身体感覚を磨いてもらい、薬の調整を一緒にやっていくかたちにしないと、本当に妥当な投薬量は分からないと私は思います。

目の前の患者さんに最善を尽くす

 他ならぬこの薬をどういう意図で使おうとしているのかを伝えることは、とても大事です。薬にはプラセボ効果があるから、薬効というものはそもそもいい加減だという話が、よくあります。しかし私は、より効果的なプラセボ効果を意図的に引き出せた方がいい、と考えているんです。的確な処方意図の伝達により、それは可能です。これが上手くいけば、より少ない薬で、より多くの効果を引き出せるのです。逆にこのようなコミュニケーションが上手くいかないと、すごくいい薬を選んでいたとしても、患者さんが服用を止めてしまうということがありうる。つまり「患者さんの薬物の需要の仕方が、薬の服用や効果に大きな影響を及ぼす。そして、とりわけ精神科医はそれらを意図的にコントロールすべき」と考えます。すなわち薬というのは、どのようなビジョンを持って、患者さんをどこに導きたいのか表現するための一つの道具ともいえるのです。
 とにかく目の前に来た患者さんが、納得して、喜んでくれるようでありたい。ひいては、それが我々の喜びなんですよ。つまるところ「目の前の患者さんに、自分が今できるスキルで最善のことをやろう、考え得る限りのことはしよう」という当たり前に逢着するのですがね(笑)。

あいち熊木クリニック

医院ホームページ:http://www.dr-kumaki.net/index.html

名鉄バス「竹の山」停留所下車600m、または名鉄バス「竹の山南」停留所下車500m。
名古屋市バス「猪高緑地(愛知淑徳大学)」停留所下車600m。地下鉄東山線藤が丘駅・東名高速 名古屋インターチェンジ・東名阪道 本郷インターチェンジのいずれからも、車・タクシーで7分。
自然木に囲まれた待合室には、かぐわしい杉の香りが立ち込めています。高い天井は開放感があり、木肌のぬくもりに包まれる心地よい空間は「精神科クリニック建築は、精神科の唯一最大の治療器具である」という観念を実践しています。詳しい道案内は医院ホームページから。

診療科目

精神科、心療内科、漢方外来

熊木徹夫(くまき・てつお)院長略歴
1995年 名古屋市立大学医学部医学科卒
1995年~1997年名古屋市立大学病院 精神神経科 勤務
1997年~2002年豊橋市民病院 精神神経科 勤務
2002年~2004年愛知医科大学付属病院 精神神経科 勤務
2004年~2007年矢作川病院 勤務
その他、社団法人岐阜病院、仁大病院、大同病院精神神経科などの勤務を経て、
現在、あいち熊木クリニック院長


■所属・資格他

精神保健指定医・精神科専門医・日本精神神経学会指導医・東洋医学会(漢方)専門医

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