年齢が原因ではない 男性の更年期症状のメカニズム
近年、男性にも更年期があることが知られるようになりました。株式会社ツムラが20~60代の男女600人を対象に行った調査1)では、男女ともに7割の人が「更年期症状は男女ともに生じると思う」と回答しています。しかし、男性の8割が「対処方法がわからない」と回答。さらに自覚症状がある40~60代の男性の約6割は「更年期症状を周りに言いにくい」 「更年期症状があっても認めたくない」と回答しています。男性の更年期症状について、順天堂大学大学院教授の堀江重郎先生に詳しく解説いただきました。
加齢や老化だけが原因ではない男性の更年期症状
男性の更年期症状とは、端的に言えば『男性ホルモン(主にテストステロン)が減ることで心身に不調が出ている状態』を指しますが、堀江先生ははじめに女性の更年期との違いを指摘します。
「女性の場合、閉経前後の期間に女性ホルモン(主にエストロゲン)の分泌が減ることで心身の不調が現れます。これが女性の更年期(症状)と呼ばれるものです」(堀江先生)
一方、テストステロンも歳とともに減る傾向が見られますが、そのメカニズムには女性との明らかな違いがあります。
「女性の場合、体の仕組み上、ほぼ同年齢で例外なくエストロゲンが激減します。一方、テストステロンの分泌量は年齢よりも生活習慣や環境の変化、ストレスなど社会とのかかわりのほうが大きく関係します。具体的には、社会へ参画して何らかの貢献、評価を受けることで分泌が促進されます。つまり、テストステロンの増減(ひいては更年期症状の発症)は加齢や老化だけが原因ではない点が非常に重要です」(堀江先生)
社会構造的に若い頃は経験や実績を積むことで周囲から褒められ、評価されやすい反面、ベテランになるにつれ、そうした機会も減りがちです。
「年齢を重ねるとともに評価される機会が減る傾向にあるため、テストステロンの分泌も減少傾向となります。また、転職や退職、異動などの環境変化も歳とともに増加傾向にあり、一定の評価や手応えを得ていた人も、異なる環境下で緊張や過度のストレスにさらされたり、評価が得づらくなったりすることも多く、テストステロンの分泌が低下するきっかけになります。一方、人生を通じて社会性が変わらない人はテストステロンの量もほぼ変わりません。実際、発展途上国などでは、若い人も高齢者もテストステロンの数値に差は見られないということがわかっています2)。あるいは運動選手などでは30代で引退した直後に更年期症状が現れたり、80歳で社長を辞めた途端に発症したりするケースもあります」(堀江先生)
体と心に現れる男性の更年期症状
「特にわかりやすい変化に、怒りっぽい(イライラしやすい)、笑わない、体重の増加などがあります。テストステロンには脂肪減少、筋力強化の働きもあり、減ることで太りやすくなります」(堀江先生)
男性更年期の症状は体の症状と心の症状に大別され、主なものは図のとおりです。
体の症状
- 筋力低下、関節痛、筋肉痛、異常発汗、ほてり、肥満、頻尿など
→女性の更年期と似た症状 - 性欲の減退、勃起力の低下など
→男性特有の症状
心の症状
- 興味や意欲の喪失、だるさ・倦怠感、眠れない、不安感、焦燥感、集中力・記憶力の低下
→うつと似た症状
心の症状がうつと類似していますが、更年期症状との見極めについて、堀江先生は次のように話します。
「典型的なうつは、基本的には環境と無関係に生じるケースが多いとされ、心の症状が出る前になんらかの環境変化があれば更年期症状、なければうつの可能性が考えられます。また、うつの場合は体重が減る、更年期症状では増える傾向にあるため、体重の増減による判断も有用でしょう」(堀江先生)
このほか、更年期症状、つまりテストステロンの減少は生活習慣病のトリガーになる可能性も高く、テストステロンが少ないほど寿命が短い、がんになりやすいといった大規模臨床試験での研究結果3)も出ているそうです。
軽い不調を引き起こすだけでなく、日常生活に支障が出る状態に陥る、生活習慣病の引き金となって命にかかわるケースがあることを考えると、何らかの対処が必要と考えられる男性の更年期症状ですが、当事者自身が更年期症状やその治療について正しく理解しているとはいえない状況のようです。
「男性の更年期症状が未だ浸透していない点も大きいと思われます。環境の変化をメインとするさまざまな更年期症状を『単に歳のせい』と誤解し、『まだそんな歳じゃない!』と認めたがらない方は少なくありません」(堀江先生)
次回は、漢方治療を含めた更年期症状の治療について、ステップごとに解説します。
(取材・文 岩井浩)
- 参考
-
- 株式会社ツムラ│「男性の更年期に関するイメージと実態調査(2022年11月実施)<2024年2月14日閲覧>
- Peter T Ellison, et al. Hum Reprod 2002; 17(12): 3251-3253
- Khaw K, et al. Circulation 2007; 116(23): 2694-2701
順天堂大学大学院医学研究科泌尿器科学 教授
泌尿器科漢方研究会 代表幹事