治療の難しい慢性副鼻腔炎に、辛夷清肺湯が効くメカニズムとは

[漢方ニュース] 2020/02/14

再発しやすい「好酸球性副鼻腔炎」が増加

 鼻の穴の中を医学的には鼻腔(びくう)と呼びます。鼻腔の周辺には副鼻腔と呼ばれる複数の骨の空洞があり、鼻腔とつながっています。この副鼻腔で炎症が起こり、鼻づまりなどの症状を起こす病気を副鼻腔炎と言います。

 副鼻腔炎の原因は、細菌やウイルス、アレルギーなどです。4週間以内で症状が治まった場合は「急性副鼻腔炎」、症状が12週間以上続く場合は「慢性副鼻腔炎」と診断されます。慢性副鼻腔炎は、炎症による膿が副鼻腔に溜まることが少なくないことから蓄膿症(ちくのうしょう)とも呼ばれています。慢性副鼻腔炎の治療は、一般的に、少量の抗菌薬を長期間投与します。これで改善しない場合は内視鏡による手術などが行われます。

 最近では、慢性副鼻腔炎のなかでもなかなか治りにくい「好酸球性副鼻腔炎」が増えています。好酸球性副鼻腔炎は、鼻腔内に鼻茸と呼ばれる水ぶくれのような袋(ポリープ)がいくつもでき、かなりひどい鼻づまりが起こります。鼻づまりが起こった早い段階から、においがわかりにくくなる嗅覚障害も起こってくるのが特徴です。また、気管支喘息を併発しやすいという特徴もあります。

 好酸球性副鼻腔炎の治療は、鼻の中にステロイド薬を噴霧する治療や、内視鏡による手術が行われますが、再発しやすいといわれています。また、症状が進行すると経口のステロイド薬の服用が必要になりますが、経口ステロイド薬は副作用にも注意しなければいけません。

辛夷清肺湯が副鼻腔炎に効くメカニズムを解明

 こうしたなかで注目されているのが漢方薬による治療です。福井大学医学部附属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科講師の高林哲司先生は、第35回日本耳鼻咽喉科漢方研究会学術集会で漢方薬の辛夷清肺湯(しんいせいはいとう) が好酸球性副鼻腔炎の治療に効果的である可能性があると報告しました。

 辛夷清肺湯は石膏(せっこう)、麦門冬(ばくもんどう)、黄芩(おうごん)、山梔子(さんしし)、知母(ちも)、百合(びゃくごう)、辛夷(しんい)、枇杷葉(びわよう)、升麻(しょうま)という9種類の生薬で構成される漢方薬です。承認されている適応は鼻づまり、慢性鼻炎、蓄膿症です。

 既に辛夷清肺湯に関しては、鼻茸の縮小効果や難治性副鼻腔炎での改善効果なども報告されていますが1-3)、どのようにして副鼻腔炎に有効性を発揮するかの詳細は今のところ不明です。そこで高林先生は、辛夷清肺湯が副鼻腔炎にどのように有効性を発揮するかという分子生物学的メカニズムの解明に向け、辛夷清肺湯に含まれる生薬、黄芩の主成分である「バイカリン」に着目しました。バイカリンは辛夷清肺湯の成分を分析すると、最も多く検出されるものです。

 高林先生は、ヒト気道上皮細胞と培養ヒト肥満細胞を炎症を誘導する物質で刺激し、そこにバイカリンを加えるという実験をしました。その結果、気道上皮細胞では、炎症を誘導する物質であるIL-33の発現量が低下しており、さらに、バイカリンの濃度を上げるほど、顕著に低下していました。統計学的な検討を行ったところ、この低下作用は偶然で起こったものではない明らかな差(有意差)が認められました(p<0.001)。また、IL-33のタンパク質レベルでもバイカリンを加えることでIL-33の低下が認められました。

IL-33はインターフェロンγと呼ばれるタンパク質を加えると増えることが分かっていますが、気道上皮細胞にインターフェロンγとバイカリンを加えてもIL-33は低下することが分かりました。この結果について高林先生は「IL-33の量を正常化する物質はほとんどないと言われており、これは驚くべきこと」と評しました。

また、肥満細胞では、IL-33の刺激が肥満細胞に含まれるトリプターゼという酵素の量を増やし、これがアレルギー性炎症を強めたり、好酸球の働きを活発化させることがわかっています。そこで培養した肥満細胞にバイカリンを加えたところ、バイカリンの濃度が高くなるほどトリプターゼの発現が減ることもわかりました。トリプターゼを増やすIL-33を肥満細胞に加え、そこにバイカリンを加える実験でも同様に、濃度が高くなるほどトリプターゼの発現が減ることが確認されました。

一方、上皮細胞で炎症を引き起こすTSLPはバイカリンを加えても変化はありませんでしたが、TSLPは肥満細胞に働くことで好酸球を活性化させるIL-5を大量に出させます。この肥満細胞にバイカリンを加えた実験ではIL-5の産生量も低下していました。

これらの結果から、辛夷清肺湯に含まれる生薬・黄芩の主成分「バイカリン」は、IL-33、トリプターゼ、IL-5という、好酸球性副鼻腔炎の炎症を強める物質の量を低下させて、その症状を改善している可能性がわかってきました。このことから高林先生は「Th2細胞による炎症が強い好酸球性副鼻腔炎では、辛夷清肺湯が治療効果を発揮する可能性がある」と述べました。(村上和巳)

参考

  • 1) 加藤昌志ほか:耳鼻臨床 1994;4:561
  • 2) 小川浩司, 橋口一弘. Progress in Medicine1995; 15: 2617-8.
  • 3) 宇野芳史. 新薬と臨牀. 2016, 65, p.1052-1063.
記事の見出し、記事内容、およびリンク先の記事内容は株式会社QLifeの法人としての意見・見解を示すものではありません。掲載されている記事や写真などの無断転載を禁じます。