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気圧や気温の変化で体調不良…「気象病」に漢方は有効?

公開日:2020.07.21
カテゴリー:病気と漢方

 低気圧が来ると頭痛や肩こりがひどくなる、雨の日や台風の日はめまいや吐き気、全身けん怠感が強くなるなど、気象の変化によるさまざまな体調不良に悩まれている方も多いのではないでしょうか。特に台風が多くやってくる晩夏や初秋は気圧の変化が大きく、長引く不調が仕事や学業、日常生活に支障をきたすことも。そうした気象の変化をきっかけとした不調は「気象病」と呼ばれています。気象病の治療法や漢方薬の有用性などについて、気象病患者の診察や治療を多く手がけるせたがや内科・神経内科クリニックの久手堅司先生に伺いました。

めまい、頭痛、肩こり…さまざまな症状が現れる「気象病」

 まずは気象病の概要について、先生に解説いただきました。

気象病に苦しむ女性

「気象病を引き起こす要素は、大きく3つあります。気圧、寒暖差、そして湿度です。これらの変化に対して体が反応し、体調に悪影響が現れることを気象病と呼んでいます。ただし正式な病名ではないので、医療従事者にもあまりなじみがなく、理解されづらいこともあります。また症状が多岐にわたるため、気象の変化が病気の根本原因だと気づきにくいことも多いでしょう」

 気象病の具体的な症状には、めまい・吐き気・頭痛・肩こり・全身倦怠感・関節痛・手足のしびれ・冷え・動悸(どうき)・目のかゆみ・鼻水・咳など、一見すると気象の変化が影響しているとは気づかないような症状も含まれます。久手堅先生いわく、中でも気圧の変化による、めまいや頭痛を訴える人が最も多いそうです。

「気圧は、目には見えませんが、体には大きな負担となります。気圧は、地球の表面を覆っている空気の圧力のことですが、だいたい1平方メートルあたり10トンもの圧力がかかっているといわれています。これに負けないよう、体も同じ圧力で押し返してバランスを取っています。気圧が一定であれば、体もその状態に慣れるので、体調も安定します。しかし、台風のように大型で速度の速い低気圧が通過する際は、気圧がまるでジェットコースターのように乱高下します。低気圧が近づいてくるとドーンと下がり、去っていくと今度は急激に上昇するといった具合です。すると、体内の圧力のバランスも崩れ、その結果として不調が出てしまうのです。気圧差が大きくても、ゆっくりと緩やかに変化する日であれば比較的症状は悪化しにくいのですが、急激な変化のある日は症状もさらに悪化してしまう患者さんが少なくありません。また、気象病はひどくなってしまうと、ちょっとした気象の変化にも敏感になり、体調不良を起こしてしまうこともあります。中には、体調によって気圧の変化を察知し、ゲリラ豪雨が来るのを予期したり、海外での台風の発生を当てられたりする患者さんもおられるほどです」

 また、夏場は冷房の効いた室内と、蒸し暑い外気との寒暖差が引き起こす不調にも注意が必要です。

「気温差は自律神経に影響します。人間が生きていくためには、常に外の環境に対応し、体内の環境を適切な状態に保つ必要があります。この調整作業を行っているのが自律神経です。気温が高いときには、副交感神経が優位になり、体内から熱を逃がそうと血管を拡張させ、気温が低いときには、交感神経が熱を逃さないよう血管を収縮させています。自律神経は温度が高くても低くても、ある程度一定した環境――例えば赤道直下の南国のようにずっと暑かったり、北極圏や南極圏のようにずっと寒かったり――にいる場合はいいのですが、冷房でキンキンに冷えているところから突然、暑い屋外に出るといったような温度差があると乱れてしまい、体調不良を招きやすくなります。秋~冬、冬~春のような季節の変わり目に体調を崩しやすいのも、寒暖差の影響があると考えられます。だいたい気温差が7℃程度あると、不調が起こりやすくなります」

 さらに暑い時期は、湿度が高くなることで体調不良を起こしやすいと先生は続けます。

「冬の乾燥した時期に湿度が高くなるのは、風邪を引くリスクが下がるのでむしろいいくらいです。しかし暑い時期に湿度が高いと、汗の蒸発が妨げられ、体温調節がうまくできなくなるために、体調不良を招きやすくなります。ひどくなると熱中症になってしまうこともあります」

 こうした不調に心当たりがある人も多いのではないでしょうか。しかし実際には、このような体調不良があっても、それらが気圧や気温といった気象の影響によるものだと判断するのは難しいでしょう。自分に気象病の兆候があるかどうか確認するには、どうしたらよいのでしょうか。

気象病チェックリスト

 そこで登場するのが、久手堅先生が問診の際に用いているというチェックリストです。以下の12の項目のうち、当てはまるものがいくつあるかチェックしてみましょう。

 上記のリストのうち、1、2に当てはまる人は「気象病の可能性が高い」と先生は言います。また3~12のうち、3つ以上当てはまる項目がある人は気象病予備軍だと考えられるとのことです。

気象病になる人、ならない人の差は「内耳の過敏性」と「骨格のゆがみ」

 では、気象病になる人とならない人、そこにはどのような違いがあるのでしょうか。

「考えられる原因のひとつが、耳です。中でも耳の奥にある内耳(ないじ)という場所が関係しています。内耳は、気圧の変化を感じやすい器官です。飛行機や高層ビルのエレベーターに乗った時、耳がキーンとなることがありますが、それは内耳の中にある空気が気圧の変化によって膨張したり収縮したりするせいです。低気圧が近づくと気象病患者さんの耳の中では、これと同様のことが起こり、その結果、体調不良が生じていると考えられています」

 これが気象病の主な原因ではありますが、久手堅先生は「気象病が発生する原因は耳だけではない」といいます。

「気象病になるのは耳以外にも骨格のゆがみ、ズレ、そしてそれらの影響による体のコリや疲労の蓄積などが大きく関わっています。気象病の症状を訴えている方の多くには、ストレートネックや猫背、そり腰といった骨格のゆがみが強く出ています。そうした骨格のゆがみのバランスを取ろうとすると、今度は筋肉の緊張に左右差が生じ、自分でも気づかないうちに疲労が蓄積してしまうのです」

 このようにゆがみや疲労が積み重なった結果、自律神経が乱れるなどして気象病の症状が現れるのだといいます。

「ゆがみや疲労の蓄積によって、ある種、内耳が過敏な状態になると考えられます。すると、ちょっとした気圧の変化などにも敏感になり、それが体調にも影響を与えると考えられます」

気象病かも、と思ったときに自分でできる対処法

 先ほどのチェックリストの該当項目が多いなど、「気象病かも」という疑いを持った場合、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。

「耳に疾患があるといった明確な原因がある場合は、それを治療することが第一です。けれども、これといって明確な原因が見当たらない場合、体のゆがみやコリを解消することで、気象病の症状が緩和されることがあります。例えば、耳や顎を少しほぐすだけで、十分効果が現れます。耳たぶの少し上を水平方向に引っ張っては緩めるというのを数回くり返したり、耳たぶの後ろの骨のへこみを斜め上に30秒間ほどグッと押したりすると疲労の蓄積が予防され、自律神経の乱れや頭痛の緩和が期待できます」

 そのほか、自律神経が通っている背骨周辺の血流を良くするのも方法の1つです。背中で手を組み、胸を張るようにすると、肩甲骨が寄って背骨の血流が促されることで自律神経が整いやすくなります。

五苓散+酔い止め薬で症状を緩和

 久手堅先生は気象病の治療に漢方を用いることも多く、効果を発揮してくれるといいます。

「気象病の傾向がある方には五苓散(ごれいさん)を処方することが多いです。気象病は漢方医学では『水毒』にあたるため、利水効果を期待して処方します。多少の差はありますが、年齢・性別を問わず、症状が緩和されます」

 五苓散は体内の水分代謝異常を調整する、代表的な漢方薬です。頭痛、悪心・嘔吐、下痢、めまい、むくみなどの症状が見られる場合、体質にかかわらず広く用いられます。

「めまいの症状がある方には五苓散のほか、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅってんまとう)と苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)を使います。頭痛のある方には葛根湯(かっこんとう)と呉茱萸湯(ごしゅゆとう)、女性の方には当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)を使うこともあります。気象病の症状として不眠を訴える方も多いので、そうした方には抑肝散(よくかんさん)を、そのほか手足のしびれには五積散(ごしゃくさん)も効果的です」

 また漢方薬と西洋薬を併用することもあるそうです。

「気象病症状の緩和には漢方薬の五苓散と、酔い止めの薬との組み合わせを第一選択にすることも多々あります。酔い止め薬に含まれる抗ヒスタミン作用が、気象病にも有効なのです。気圧の変動で体調を崩す方は、気圧が本格的に低下する前に服用することで、ある程度は体調の悪化を予防できるでしょう」

 前もって適切なタイミングで酔い止め薬を服用することも、気圧の変化による頭痛の軽減に役立ちます。天気予報やスマホのアプリなどを活用するのもよいでしょう。なお、酔い止め薬については市販薬(OTC)でもよいとのことです。

「ただし、漫然と酔い止め薬を服用しても効果が出るとは限りません。中にはかえって眠気やだるさが出てしまう人もいるでしょう。効く症例と効かない症例があり、私はたくさんの気象病を診察してきた経験値でその点を見極めています」

 また久手堅先生はこうも続けます。

「気象病は自律神経の乱れがきっかけになって起こります。漢方薬などを服用することで体調の改善を図ることも大切ですが、規則正しい生活を送る、体を冷やしすぎない、十分に睡眠をとるといった基本的なことも、もちろん重要です」

 気象病にうまく対処するには、自分が気象病であることを自覚するとともに、日頃から体をしっかりとメンテナンスしておくことがポイントといえるようです。体のケアを行いつつ、漢方薬の力を適切に借りて、つらい季節を乗り切っていきましょう。

久手堅 司(くでけん・つかさ)先生
せたがや内科・神経内科クリニック 院長

医学博士。日本内科学会・総合内科専門医、日本神経学会・神経内科専門医、日本頭痛学会・頭痛専門医、日本脳卒中学会・脳卒中専門医。
1996年、北九州大学法学部法律学科卒業、2003年、東邦大学医学部医学科卒業。東邦大学附属医療センター大森病院等での臨床経験を経て、2013年、せたがや内科・神経内科クリニックを開業。「頭痛外来」「肩こり・首こり外来」「自律神経失調症外来」「気象病・天気病外来」など、複数の特殊外来を開設している。著書に「最高のパフォーマンスを引き出す自律神経の整え方」 (クロスメディア・パブリッシング)。

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