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冷えに加えて首の痛みで来院した50代女性

公開日:2013.02.22

冷えに加えて首の痛みで来院した50代女性

 冷え性の50代女性の話である。手足が冷えて眠れないと言うので、温めるために当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう) を1回2.5グラム1日3回処方した。3回のうちの1回は寝る前に飲むようにし、3回とも温服(お湯のみの熱いお湯に薬1包を溶いて飲む)するように指導した。しかし「このお薬で多少は温まる感じがするものの、直ぐにまた冷えてきてしまう」とのこと。既に2ヶ月内服していたこともあり、いったん薬を止めてみることになった。それからしばらくして、今度は首が痛いと言って来院された。首筋の張りがあって頭も痛くなると言う。そこでエキス剤の葛根湯(かっこんとう) を処方した。葛根湯は風邪薬のイメージが強いが、首筋の張りにも有効なことがしばしばある。ただ、葛根湯には生薬の麻黄が含まれており、弱々しい感じの人や体が弱っている人が飲むとドキドキしたりムカムカすることがある。この患者さんはやや線の細い感じの方だったので葛根湯は頓服(辛いときだけ飲むこと)とした。
 漢方薬は長く飲まないと効かないと思ってらっしゃる方が多いが、そうとは限らない。脚がつったときなどに処方される芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう) のように飲んで直ぐ効く漢方薬もある。葛根湯も比較的早く効いてくる薬である。余談だが、私自身も首筋が張って頭が痛いときには好んで葛根湯を頓服している。この患者さんも葛根湯の頓服で首が楽になると言い、「頓服だとドキドキもムカムカも起こらない」と喜んでくれた。また、更にもう一つうれしいことが起こった。それは冒頭に書いた冷えについてである。「寝る前に葛根湯を1包飲むと体がぽかぽかして寝付きがとても良い」と、首のこと以上に喜んでもらえた。その後、この患者さんは毎晩葛根湯を1包飲んで眠る生活を続けている。
 葛根湯に配合されている麻黄がドキドキ、ムカムカの原因になることは記した通りだが、その理由は麻黄から生成されるエフェドリンという物質にある。エフェドリンは血圧を上昇させたり脈を早くさせたりといった、体を興奮状態にする成分である。ゆえに、麻黄が含まれている葛根湯を服用すると、通常は興奮状態になるために目が冴えるはずなのだが、薬が体に合っていれば寝付きがよくなることもあるらしい。葛根湯は確かに体を温める作用があるが、寝付きも良くなるとは予想もしないうれしい誤算であった。
 なお、麻黄を含む漢方薬は、ドーピング検査で引っかかる可能性があるのでスポーツ選手などが内服する場合は注意が必要である。

堀口定昭(ほりぐち・さだあき)先生
愛世会愛誠病院・下肢静脈瘤センター
2002年帝京大学医学部卒業、2008年より愛誠病院にて血管外科医として勤務しながら整形外科と漢方を学ぶ。
血管外科の外来で漢方薬を使うようになってから、本格的に漢方を学ぶようになり、2010年より血管外科と漢方内科を兼務。
日本外科学会専門医、日本脈管学会専門医。

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