Vol.1 更年期と漢方養生 ~消化力を整える“養生”で症状は改善できる~

[病気と漢方] 2022/11/24

閉経の前後5年が「更年期」と呼ばれていますが、その年代に入っても現代の女性は見た目も若く、公私ともに忙しい日々を送っています。とはいえ、女性ホルモンの分泌量は減少し、不調が出始める時期です。「自分より他人のため」になりがちなこの時期、忙しさのあまり、自分の不調を「見ないふり」したり「とにかく我慢」したり、という人も少なくありません。更年期をうまく乗り切って今後の人生を明るく楽しく過ごしていくためにはどうすればいいのでしょうか。漢方内科・婦人科・心療内科の診療を行う泉州統合クリニックの院長であり、吉野・熊野の大峯奥駈道で修行する山伏でもある、中田英之先生に話を伺いました。

更年期障害の発症には、胃腸機能の低下が隠れていることが多い

日本人の平均閉経年齢は約50歳ですが、個人差が大きく、早い人では40歳台前半、遅い人では50歳台後半に閉経を迎えます1)。この閉経前後の更年期に現れる、ほかの病気に伴わない体調不良や情緒不安定などの症状を“更年期症状”と呼びます。身体的症状としては、のぼせやほてり、動悸や発汗、頭痛やめまいなどが、精神的な症状としては、イライラや不安感、うつ、不眠などがあります。その中で、症状が重く日常生活に支障を来す状態を“更年期障害”といいます。

更年期障害の主な原因は、女性ホルモン(エストロゲン)分泌の減少だといわれていますが、「必ずしもそれだけが原因ではない」と中田先生は指摘します。

「不調を訴えるその年代の患者さんには、無理や不摂生による脾胃(ひい)失調(=胃腸機能の低下)が土台にあり、それに伴う体力低下や睡眠障害、また社会的負荷の増加、これまでの人生を振り返っての焦りなどが積み重なった状態を抱えている人が多くみられます。この上に、女性ホルモン分泌の減少が加わって、発症ラインを超えてしまうと、さまざまな症状が現れてきます。なかでも、忙しくストレスの多い更年期の女性の不調には、胃腸機能の障害が隠れていることが多いです」(中田先生)

「脾胃」とは東洋医学用語で、胃腸の消化機能、消化力を意味します。消化吸収は生きていくうえで最も大切なことであるため、東洋医学では消化力を重視しています。例えるなら「脾胃は身体にとって発電所のようなもの」だと中田先生は続けます。

「実際、脾胃失調を抱えたまま更年期に突入すると、発電量が足りずパワー不足である状態を、気合でなんとか乗り切ろうとして体が無理をしてしまうのです。まず、消化機能を保つために横隔膜を閉じて(緊張状態にして)上半身を中心に血液を回そうとします。その結果、足は冷えて、頭はのぼせ、お腹は冷えて動かず便秘がちとなります。呼吸も浅くなって、血圧が上がり、眠りも浅くなってしまいます。これが更年期におけるさまざまな症状のメカニズムです」(中田先生)

消化力を落とす生活習慣とストレス、自己犠牲が拍車をかける

では、更年期の女性に脾胃失調(胃腸機能の低下)を抱えた人が多いのはどうしてなのでしょうか?

「原因はたくさんありますが、“身体の冷える生活習慣が多い”ということが第一。冷たい物を一気に飲む、入浴せずシャワーで済ます、冷房の効いた場所に長時間いる、座りっぱなしで運動不足など……心あたりはないでしょうか。また、“自分の消化能力を超えて食べている”という人も多いです。調子が悪いときでも『元気になるために食べなきゃ』とか、お腹は空いていないけど『時間がきたから食べよう』とか、甘い物をたくさん食べて『ストレス発散!』という人も要注意ですね。また、仕事や家事育児で夕食の時間が夜遅くになってしまう、というのも消化力を落としてしまうパターンです。本当は床につくまでに消化が終わっているのが理想。どうしても夜遅くなってしまうときはスープだけにするなど、胃腸に負担をかけないことが何より大切なのです」(中田先生)

さらに、職場では管理・指導する立場だったり、家庭では子どもの受験や親の介護が始まる時期が重なったりする、この年代の女性特有の忙しさやストレスが、脾胃失調に拍車をかけていると中田先生は言います。

「調子を崩す人は、几帳面でしっかり者の人が多い。それが『頑張らなくちゃ』『私がやらなきゃ』『みんなが困る』『迷惑かけちゃいけない』につながり、自分のことは後回しになってしまうのでしょう。そして、サプリメントや栄養ドリンク、市販薬などで、とりあえず乗り切る。そのツケが、体への不具合となって出てくるのです。皆さん自分を犠牲にし過ぎているな、といつも感じています」(中田先生)

“養生”で、脾胃を整えることが何より大切

更年期に差し掛かり、女性ホルモンのゆらぎがあっても、土台である脾胃を整えれば、さまざまな症状は軽減されていくもの…このような考えから、中田先生のクリニックでは漢方薬を含め、常に薬の処方は必要最小限にすることを心掛けていて、初診で薬を処方しないこともあるそうです。

「多くの不具合の根本にある原因は“脾胃失調”ですから、まずは患者さんに脾胃を整えるための養生を体験してもらいます。食事では、甘いものを避け、果物や乳製品を控えて、和食中心にします。冷たいものは飲まないようにして、足湯や入浴で体を温めます。そして運動と早寝を心がける…。当たり前の生活と思われるかもしれませんが、1か月しっかりやれば、慢性的な不調は間違いなく改善します」(中田先生)そして何より「普段から自分の体を意識するようになる」と中田先生はおっしゃいます。
この生活内容は、『養生のキホン』として1枚の紙にまとめられており、中田先生のクリニックで患者さんに手渡されています。クリニックのwebサイトでも閲覧できます。

「今までの生活習慣を変えたり、自分の体と向き合ったりすることが苦手な人は多いです。それに、“日常生活を変えると体がどうなるか”ということを案外皆さん知らないのですよ。食べ物を変えるだけで体が軽くなるとか、冷えないとか、肌荒れが消えるとか。そこで、この『養生のキホン』は、自分の体の変化を感じるきっかけになるように作りました。これだけで、体の調子がよくなり、処方の必要がなくなる人もたくさんいます」(中田先生)

更年期は、自分の体を感じ、人生を見つめ直すチャンス

更年期障害というと、“女性ホルモンのせいで起こるどうしようもないもの”“当たり前にあって耐えるべきもの”と捉えられがちですが、決してそうではありません。少し立ち止まって、自分の体と向き合い、今までの習慣・行動を変えていけば、つらさをやわらげることは十分可能です。

「更年期の症状というのはある日突然に起こるものじゃない。今までの人生のプロセスの結果の花なんですね。その花が咲いたのには、理由がある。どうしてこの症状が出たのだろう、と自分の体の声を聞いて、落ち着いて、振り返ってみることが大切です。症状が出たら、せっかくのチャンスですから、置いてきぼりにしてきてしまった自分の体を見つめ直し、これからの人生をどう生きるか、ということを考えるきっかけにしてほしいと思います」(中田先生)

Vol.2更年期と漢方養生 ~“処方ありき”ではない漢方薬の使い方~では、中田先生が更年期の不調に対して行う、“処方ありき”ではない漢方薬の使い方について、また季節ごとの養生の仕方について伺います。

参考
  1. 日本産科婦人科学会│更年期障害<2022年10月19日閲覧>

中田 英之(なかた ひでゆき)先生
泉州統合クリニック 院長

1995年防衛医科大学校卒業。防衛医科大学校病院産婦人科、慶応大学漢方医学講座、練馬総合病院 漢方医学センターを経て、2021年に泉州統合クリニックを開院。ライフワークである「養生」を重視した臨床を行っている。日本東洋医学会漢方専門医・指導医。日本産科婦人科学会専門医。
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