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医療ビッグデータを用いた臨床疫学研究の最前線~漢方薬による医療費削減~<第135回漢方医学フォーラムおよび第58回日本老年医学会学術集会レポート>

[漢方ニュース] 2016/10/05

増加する大規模診療情報データを用いた臨床研究


東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻
臨床疫学・経済学教授の康永秀雄先生

 近年、国内外で大規模診療情報データベースが整備されつつあり、大規模データを用いた臨床研究が増加しています。その中には漢方を対象にした研究も数多くあります。第135回漢方医学フォーラムで、医療ビッグデータを用いた臨床疫学研究の最前線~漢方薬による医療費削減~」と題して、東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻臨床疫学・経済学教授の康永秀雄先生が医療データベースと漢方医学研究の最前線について講演されました。その模様をご紹介します。

 一人ひとりの人生には、各ステージで色々なイベントがあり、そこで常にデータが発生します。そういったものを日常的・恒常的に収集蓄積したデータ、なおかつ電子的に記録されているデータの集合体がビッグデータと呼ばれるものです。例えば、人が生まれれば「出生届」、亡くなれば「死亡届」を出します。これは「人口動態統計」にあたります。定期健診などの健康チェックを受ければ「特定健診データベース」が、病気になって医療機関を受診すると、「レセプトデータ」や「DPCデータ」「電子カルテ」のビッグデータの1つにもなります。

 平成23年度から厚生労働省が収集しているレセプトデータ・NDBデータが、研究者向けに提供されていて、疫学研究や医療経済研究などに利用されています。これとは別に、DPCデータというものもあります。我が国ではのべ1500万人の患者さんが、約8000病院に入院されていますが、その中の約1000施設あるDPC病院で記録された年間延べ1500万件の入院、年間5億件超の外来の診療行為と費用データを含む非常に大きなデータです。

入院患者さんの8人に1人が漢方薬を使用

 今回、1年間で、1,061施設入院患者711万人のデータをもとに、入院中に何らかの漢方薬を使用した患者さんを計測しました。すると、92万人、約13%が使用していることがわかりました。これは入院患者さんの8人に1人が漢方薬を使用していることになります。92万人の内訳を見てみます。もっとも使われていたのが、大建中湯(だいけんちゅうとう) 、次に芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう) 抑肝散(よくかんさん) 六君子湯(りっくんしとう) 五苓散(ごれいさん) 、と続きました。そこで、具体的な研究例を3つ紹介します。

術後癒着性イレウスに対する大建中湯の効果

 これはすでに論文化されていますが、日本全国で大腸がんの術後イレウスで、イレウス管を挿入された患者さんは603人でした。その中で、イレウス管から大建中湯を投与していたのは約4分の1程度でした。患者さんごとにその背景は異なりますので、両群を均質化したのちに、「在院死亡」、「再手術の実施」、「イレウス管挿入期間」、「イレウス管挿入から退院まで期間」、「入院医療費」の5点について研究しました。

 結果は在院死亡には変化でませんでした。再手術にも統計的な有意差はありませんでした。イレウス管の挿入期間が若干2日程度短くなっていました。退院までの期間も短くなっていて、医療費が30万円くらい安くなっていました。

 結論としては、結腸直腸癌術後イレウスに対するイレウス管からの大建中湯の投与は、

  • 死亡及び再手術を回避する効果は有意でない
  • イレウス管挿入期間が10日から8日に有意に短縮
  • 入院医療費が269万円から231万円に有意に軽減

 となりました。

慢性硬膜下血腫の穿頭洗浄術後に対する五苓散の効果

 五苓散は利水作用があって、再手術を軽減するということが、脳外科の先生たちに経験的に言われています。術後のCTを撮ってみると五苓散を投与した患者さんで血腫がなくなったという研究もあります。

 穿頭洗浄術を行った患者さん36000人を対象に、ビッグデータ分析を実施しました。評価ポイントは「再手術が実際に減ったのかどうか」、「医療費が減ったのかどうか」の2点。

 結論は、

  • 再手術率は五苓散投与群が4.8%、非投与群が6.2%となり投与群のほうが有意に低かった
  • 平均入院医療費は五苓散投与群が64.3万円、非投与群が67.1万円となり、投与群のほうがわずかであるが有意に低かった
  •  となりました。

     五苓散を使うことによって、再手術や再入院の費用を押さえました。たった3万円かと思うかもしれませんけれど、大抵の薬は使えば医療費は上がります。使うことによって医療費を低減するというのは珍しいです。

    認知症入院患者の骨折リスクに対する抑肝散の効果

     認知症で入院している患者さんは、睡眠薬などさまざまな薬を投与されている場合が多く、転倒して骨折をすることがあります。骨折リスクのハイリスク集団といえます。

     2012年に対象病院に入院している認知症の患者さんは14万人いました。14万人の中で、院内で転倒して骨折した患者さんが830人。そしてその830人の患者さんを一人ずつおなじ病院の中から年齢が近くて性別が同じ人4人ずつを比較するような形で分析しました。結論は抑肝散など漢方薬を飲んでいたグループは、ぎりぎり有意差はありませんでしたが、低い骨折発生率でした。

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