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代替医療からの脱出 海外でも注目される漢方の実力(第109回漢方医学フォーラム)

[漢方ニュース] 2010/08/02

 日本で独自に発展してきた漢方薬が、にわかに海外で高い関心を集めている。理由の一つは、「なぜ、どのように効くのか」というエビデンスが示され始めているからだ。

 旭川医科大学准教授の河野先生は、そうした重要なデータを相次いで発表している代表格のひとり。手術後のイレウス(腸閉塞)対策に広く使われている『大建中湯(だいけんちゅうとう)』を中心に、作用メカニズムの科学的解明状況を有力学術誌や学会で発表し、米国を代表する有力病院とも連携して研究を続けている。最近では2009年7月、世界的に著名な外科系医学雑誌『Surgery(オンライン版)』に筆頭著者として執筆した総説が掲載されたり、2010年5月にはアメリカ大腸肛門病外科学会(ASCRS)で学会賞を受賞した。

 その河野先生が2010年7月27日、メディア関係者を前に「外科領域における漢方薬のエビデンス」や「米国で巻き起こっている反響」などを、包括的に講演したので、その概要を紹介したい。

漢方薬が欧米医師から認められ始めた理由

 漢方薬は世界中で使われているものの、欧米での実態は「補完代替医療」(Complementary and Alternative Medicine: CAM、標準的な医療の代わりに使われる治療法であり民間療法も広く含まれる)の域を出ていない。その主な理由は2つあり、一つは「漢方薬には汚染された植物が混入し、安全性が担保されていない可能性」で、もう一つは「処方する医師が納得できるだけのエビデンス情報の不足」である。

 前者に関しては、高速液体クロマトグラフィーを用いて成分分析したチャートを見せることで、日本の医療用漢方製剤は「安定した抽出成分で構成されている」「望ましくない成分は含まれない」と説明しやすくなった。日本のエキス製剤ならば、他国と異なり抽出された物質で品質管理しているからだ。


大建中湯の全ての成分を三次元高速液体クロマトグラフィーで明らかにできる(クリックすると拡大画像を見ることができます)

 そして後者の問題に関しても、大建中湯の作用機序(効くしくみ)に関して分子レベルでの研究が進むなど、ここ数年で研究成果が飛躍的に積み上がってきた。

 なお米国では、漢方薬に積極的に目を向ける別の事情もある。それは、1992年以降、国として毎年巨額の予算(当初は200万ドルだったのが、今年度は約1億3千万ドルに増大)を使って補完代替医療の研究を進めているのに、FDA(米国食品医薬品局)で認可された治療法が一つも確立できていないという問題だ。打開策として、安全性や信頼性の面から日本の漢方薬に白羽の矢をたて、米国内での臨床試験を許可することで、高いレベルのエビデンス構築を要求している。

大建中湯は日本で最も多く使用されている漢方薬

 エビデンス情報の代表例として、前述の『Surgery』に掲載された大建中湯に関する総説の概要を紹介する。

 大建中湯は、「山椒(さんしょう)」、「乾姜(かんきょう)」、「人参(にんじん)」、「膠飴(こうい)」という4つの生薬で構成されている方剤だ。主に、「大腸や小腸の手術後の麻痺性イレウスの改善」と「大腸や小腸の手術後の腸管癒着の軽減」目的で、医療現場で多用されているが、特に後者については「効くしくみ」があまり分かっていなかった。

 河野先生らの研究により、大建中湯に含まれる「山椒」と「乾姜」の2成分が、腸管の粘膜におけるADM(アドレノメデュリン)とCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)と呼ばれる2つの刺激物質を放出させて、2重に腸管の血流増加を促し、腸管運動を活発化させるらしいことが判明した。ADMもCGRPも腸管の粘膜に張り巡らされている細い血管を拡張する強い作用を持つが、ADMは非神経組織(末梢)で生成する神経ペプチド(アミノ酸結合物)であり、一方のCGRPは神経組織(中枢)で生成するという、場所の違いがある。


大建中湯はADM/CGRPシステムを利用して血流増加を促している
(クリックすると拡大画像を見ることができます)

 CGRP関連作用だけでなくADM関連作用があることが分かったおかげで、「クローン病の患者さんはCGRPが低いのに、なぜ大建中湯が効果を示すのか」という疑問に、「それはADM関連の作用があるからだ」と説明がつくようになった。あわせて、クローン病で炎症を起こすサイトカイン(細胞同士が情報伝達する物質の一種)をADMが抑える作用も確認できたために、今後は、軽症から中等症のクローン病患者には併用薬として大建中湯が有効な可能性が見えてきた。

 なお、河野先生はこれらの研究途上で、新たな仮説にもたどりついた。それは、漢方薬が効くしくみに、「TRPチャネル」という、浸透圧刺激や温感・冷感を感知するセンサーが関わっているのではないか、というもの。この仮説で漢方薬の多くの薬効が説明できるそうで、今後の理論拡大が期待される。

大建中湯以外でも、エビデンスの蓄積は進んでいる

 大建中湯によって産生されるADMのはたらきを延長して研究していくと、「術後の腸管癒着を予防する効果がなぜあるのか」の解明にもつながり、さらには「慢性肝炎や肝硬変の治療薬としても大建中湯が使える可能性」が生まれてきている。

 また、大建中湯以外でも、漢方薬の作用に関するエビデンスは蓄積が始まっている。例えば、『牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)』の、オキサリプラチンという抗がん剤の副作用軽減効果。この抗がん剤は、大腸癌の化学療法の生存期間を3倍にした立役者であるが、患者さんは、末梢神経障害(手足のしびれや冷感など)の副作用に悩まされるため、治療を長く続けられなくなってしまう人が少なくない。河野先生の研究によると、具体的には2か月程度、オキサリプラチンの投与期間を延長することが可能となり、ちょうど治療上の重要な時期を乗り越えることになるため、非常に大きな意味がある。

 今までこの副作用問題の解決が実証された方法がなかったために、米国内でも、河野先生による科学的分析の発表は、大きな反響を呼んだ。
 ※参照:抗がん剤オキサリプラチンの末梢神経障害を軽減し、大腸癌の抗がん剤治療をより効果的に進めることができる−牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)

 河野先生は、講演の最後を「私も若い頃は、“なぜかは分からないが、効くから使っておけ”と先輩に薦められた。でも今後は、薬理作用機序を明らかにして、2重盲検試験で薬効を証明していくことが重要だ。そこまでしないと国際的には納得を得られない。」と締めくくった。

講師プロフィール

河野 透(こうの・とおる)先生
旭川医科大学外科学講座消化器病態外科学分野 准教授

河野 透(こうの・とおる)先生
1982年 旭川医科大学卒業
1986年 旭川医科大学大学院卒業
1991年 テネシー大学神経解剖学講座 准教授
1993年 旭川医科大学第二外科講座助手
2001年 デューク大学医学部外科学教室客員研究員
2004年 旭川医科大学第二外科学講座助教授
2007年 名称変更で旭川医科大学外科学講座消化器病態外科学分野 准教授


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