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【大建中湯】腹腔鏡下大腸がん切除術後の外科的炎症反応に対する効果/論文の意義

[吉川幸造先生]

西洋医学では対処法に乏しく困っている領域

大腸がん切除後の炎症を改善する―大建中湯(だいけんちゅうとう)

 がんの切除など外科手術の後は体内で様々な炎症が起こることは広く知られています。術後の炎症を抑制することは、患者さんが速やかに手術前の生活に復帰するためには大変重要なことです。今回、吉川幸造先生(徳島大学医学部消化器・移植外科)らは、腹部膨満感や便秘の改善などに効果があるとされている『大建中湯』が腹腔鏡を利用した大腸がん切除後に発生する炎症を抑制する効果があることを明らかにしました。この研究成果は、日本国内の外科医を束ねる日本外科学会が国際的に情報を発信する英文誌『Surgery Today』2011年4月号に掲載されました。

背景:発生件数が増加している大腸がんは、今後手術件数も増えると考えられ、安定的な術後管理を確立することが求められている

大腸がん切除後の炎症を改善 現在、日本人の死因のトップはがんだが、がんのなかでは、肺がん、胃がんに次いで多いのが大腸がんである。また、現在女性のがんによる死亡では大腸がんが最も多くなっているなど、近年大腸がんは増加傾向にあり、今後その手術件数も増加が見込まれています。

 そうしたなかで、消化器系がんの切除手術として注目されている術式に腹腔鏡下手術があります。これは腹部表面の皮膚に複数の穴を開け、そこから内視鏡や手術器具を入れ、手術室内にあるモニターに映る内視鏡の映像をもとに行う手術で、近年初期のがんでの切除などを中心に急速に広がってきました。
 メスで腹部を大きく開いて行う開腹手術と比べ、手術を行う医師の視野が狭まる欠点はありますが、手術後の大掛かりな縫合なども必要ないため、患者さんは術後の縫合部位の痛みなども少なく、入院期間も短くて済むという利点があります。また、切開部位が大きい開腹手術では、細菌による術後感染症などにも注意が必要ですが、腹腔鏡下手術ではその心配もかなり少なくなりました。
 もっとも腹腔鏡による手術でも、術後に炎症などが起こることはゼロではありません。こうした術後の炎症反応を抑制することは、患者さんがより快適に回復へと向かう、いわばQuality of Life の高い治療を実現するという意味では大きなファクターとなります。
 今回、吉川先生らは大腸がん切除後の炎症の抑制に漢方薬の『大建中湯』が有効であることを明らかにしました。『大建中湯』は「人参(にんじん)」、「山椒(さんしょう)」、「乾姜(かんきょう)」、「膠飴(こうい)」という漢方薬としては少なめの生薬で構成されています。人参は従来から滋養強壮作用があることが知られています。山椒は健胃作用・整腸作用があるとされ、消化不良や腹部の冷えやガス滞留に対して効果があります。乾姜はショウガの根を蒸して乾燥させたもので、体を温めたりするほか、健胃作用があります。また、人参と乾姜には抗炎症作用、膠飴には滋養強壮、健胃、鎮痛、鎮咳(ちんがい)などの作用があることも報告されています。
 吉川先生らは、腹腔鏡下で大腸がんの切除を受けた患者さんを2群にわけ、そのうちの片方のみに『大建中湯』を投与すると、切除3日後の血中のC反応性蛋白(CRP)の値が『大建中湯』を投与されなかった患者さんの群に比べて低いことを明らかにしました。C反応性蛋白は体内で炎症が起こったときに血中に現れるタンパク質です。
 また、通常、体内で炎症が起こると、発熱が起こりやすいことが知られていますが、切除3日後の時点で、『大建中湯』を投与された患者さんの群は、投与されなかった患者さんの群に比べて、明らかに体温が低いこともわかり、この点からも『大建中湯』が炎症を抑える作用がある可能性が示されています。
 さらに、吉川先生らは切除後の患者さんの回復度合いの違いも調べました。一般に腸の手術をした場合には、腸管の神経が傷つくため、腸管内の内容物を移動させる蠕動(ぜんどう)運動が一時停止し、その結果としてガス(おなら)が出なくなります。逆に手術後にガスが早く出れば出るほど、回復が早いことになります。このガス放出までの日数は、『大建中湯』を投与した患者さんで短いことがわかりました。つまり『大建中湯』は腹腔鏡下で大腸がんの切除を受けた患者さんの術後の炎症を抑え、日常生活に戻るまでの回復を早くする薬と言えます。

2013/02/22

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