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躁うつ病からくるイライラ、不眠で来院した65歳女性

公開日:2012.08.31

躁うつ病からくるイライラ、不眠で来院した65歳女性

 イライラや不眠に悩む65歳の女性。自宅近くの精神科クリニックを初診した際には、テグレトールが処方されたが、血圧が下がったため、ソラナックスに変更となった。その後、若干改善傾向が見られたので自己中断していたのだが、再び症状が出現したため、私が勤務しているメンタルクリニックを受診した。
 その時の初診医はソラナックスに加え、デパケンを処方するも、今度は嘔気が認められ中止。多弁であったことから、躁状態と診断され、ジプレキサが開始された。しかし「調子は良いが、起きられなくなる」との訴えがあり、リスパダールの少量処方に変更するも、同様に動けないとのことで中止となった。抗精神病薬が体に合わなかったので、初診から2年後の8月、抑肝散(よくかんさん) にしたところ、効果があり、これまで1日5錠内服していたソラナックスが3錠にまで減量出来た。
 しばらく経過観察していたが、4か月経過した頃から、友人に電話する時間と回数が増え、再度軽躁状態となったため、リーマスが投与され、同時に抑肝散は中止となった。リーマスについては、「とても良い」と自覚し継続していたが、内服量が増加するにつれて、徐々に副作用である手の振戦が起こっていた。さらにその4か月後には、抑うつ気分が顕著となって、食欲低下、体重減少も見られた。セロクエルが処方されたが、眠気、ふらつきが強く、以前内服していたリスパダール少量、デパケン600mg、リーマス100mg、ロヒプノール1mgを処方。約1年継続していた。
 私が担当となったのは初診から3年目の3月。イライラ、ソワソワ、足が落ち着かないという訴えを聞き、軽躁状態というよりも、リスパダールによるアカシジア(じっとしていられないなどの症状)と考え、リスパダールを中止し抑肝散を再開。3週間後に再診した時には「とても落ち着いた。不安が取れ、睡眠薬も半分で済む」と穏やかな笑顔で語っていた。ただ胃のムカつきが若干認められたため、抑肝散を食後に変更、六君子湯(りっくんしとう) を追加した。5月の再診時には「イライラが全く無いし、西洋薬を減量できませんか」との希望が出た。確かに、最初に受診した時の落ち着きのなさは全く消えて、話のまとまりも良く、躁状態には見えなかったため、まず副作用の強いリーマスを中止し、その後、デパケンを減量した。6月再診時には漢方とデパケン100mgのみで過ごせており、このままで良いかな、とも感じた。
 ここまで少量の西洋薬と漢方のみで良くなってくると、さらに欲張りになってしまうのが私の性格である。精神面以外での体の不調を聞いてみたところ、「体の不調も言っていいんですか? それなら沢山あるんですよ。頭痛に肩こり、地震のように目が回る、それで不安が募ることが多いですね」と、女性は、様々な体の不調を我慢している患者さんであった。メンタルクリニックの患者さんの控え目な性格がまた再認識出来た。
 そこで抑肝散から釣藤散(ちょうとうさん) に変更。2週間後に診察室に入ってきた表情を見るやいなや、「これは効いたんだな」とすぐわかるくらいに、晴れやかな顔を見せてくれた。「頭痛、耳鳴りは全くしません。眩暈も軽く、血圧にも良さそう。新聞も読めるようになりました」と笑顔であった。その後、喘息発作が出現し、喘息薬を飲むため釣藤散を自己中断したら、のぼせや肩こりがすぐに再発。慌てて釣藤散を再開したところ、改善したようで、7月再診時には定期的に内服し、ソラナックスは屯用のみ使用で落ち着いていた。
 この症例でも以前感じたように、精神科を受診している患者さんは、精神的なことしか担当医に話してはいけない、という固定観念を抱いているのか…と再認識した。罪悪感を覚えると同時に、医師自体が、もっとオープンクエスチョンを投げかけなければいけないと身が引き締まった。精神科医師にありがちな「眠れますか、食事は食べられますか」といった回答の選択肢が限られるクローズクエスチョンでは、患者さんは、それ以外話してはいけないという気持ちになってしまう。正直に言うと、私も医師になりたての時は、患者さんに色々聞かれて答えられなかったらどうしようと不安な気持ちが働いてしまい、こちらからの質問にイエス・ノーで答えるよう、診察を進めて来てしまっていた。漢方を知った今、新見先生が患者さんにしているように「何か困ったことはありますか」と尋ねて、患者さんの返答を待つことが、以前より余裕を持って出来るようになった。
 付け加えて、この患者さんのように、風邪をひいたり、胃を壊したり、喘息になるなどして近所の内科を受診し、短期間西洋薬を飲むようになると、「併用してはいけない」と自己判断して、漢方を中止してしまう例が多い。私としては、「漢方だし、殆どの西洋薬と併用しても良いと分かっているだろう」と勝手に思い込んで、説明不足になっていることがあるので、きちんと説明しておかなければならないし、内科医にも確認のため聞いてくださいと伝えておかなければと、再度認識を改めた。
 今回は軽躁状態のイライラに抑肝散が効いたので、さすが、抑える効果が抜群、神経症、夜泣き、最近では高齢の認知症患者に対する精神安定剤として多く使用されているだけあるなぁと実感出来た。しかし軽躁が改善し、身体面にも目を向けて釣藤散を開始してみると、精神面にも身体面にも改善が認められた。QOL(生活の質)を上げる効果を発揮してくれた釣藤散に、今後も精神科領域での活躍を期待したい。

小松桜(こまつ・さくら)先生
愛世会愛誠病院・漢方外来
2000年順天堂大学卒業。順天堂医院メンタルクリニック科で2009年まで勤務。
不定愁訴や過量服薬、副作用出現の患者さんに対し、向精神薬のみでの対応では加療困難なケースもあり、漢方に興味を持った。
現在の施設で本格的に学ぶようになり、2010年より漢方外来勤務。精神科専門医。

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