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二十歳の時から13年間メンタルクリニック通院を続ける不安障害の男性

公開日:2011.06.21

二十歳の時から13年間メンタルクリニック通院を続ける不安障害の男性

 私が勤務している別のクリニックで、不安障害に抑肝散(よくかんさん) が著効した例がある。患者さんは13年前から精神科治療を続けている33歳の男性。6年前に病気が原因で失職してしまい、以来、職業訓練校へ通ったり、カウンセリングを受けたりするものの、なかなか就職先が決まらずに焦燥感が募っていた。そして、2年前に私が主治医となった。
 この患者さんは、過去に様々な薬剤を内服していたが、目立った効果が得られていなかった。抑うつ気分、不安感に対してジェイゾロフト、ドグマチール、ベタナミンを主剤に治療を受けているが、気分は晴れず経過している。アナフラニール、デプロメール、パキシルなども試したことがある。
 1年前から「考え出すと止まらない」「イライラが凄い」との訴えが見られて、ジェイゾロフトとベタナミンを減量し、リスパダールの液体を頓服として開始した。錠剤よりも液体の方が即効性を期待できるため、頓服として使いやすい薬剤である。翌月に受診した際に、「調子良いけど、少しだるい」との評価であったが「以前よりは気分が楽なので、もう暫く続けたい」との希望があり、処方継続とした。
 ところが半年近く経つと、リスパダールの使用頻度の増加に伴い、体重増加が気になるようになった(9キロ増加)。体重増加をきたし易いドグマチールは長年内服しているため、今回の体重増加の契機になっている可能性は低く、リスパダールの服用増加による影響が最も考えられた。抗精神病薬は気持ちを落ち着かせ、イライラを軽減する作用はあるが、体重増加の副作用が出現する薬剤が多い。そこで抑肝散をイライラ止めとして頓服で処方し、抑肝散で効果が見られない程の強いイライラが認められた時のみリスパダールを内服するよう指示をした。
 すると翌月受診時には「イライラも減ったし、ボーっともせず、とても良い」と嬉しそうに語ってくれた。頓服で1日1~2回の使用頻度であったが、「なるべくリスパダールは減らしていって、最終目標は0にしたい」という意向が強かったために、今度は規則的に1日3回抑肝散を内服としたところ、リスパダールの使用頻度が顕著に減少し、倦怠感も減り、体重増加も止まった。就職の面接にも積極的に出向けるようになり、2ヶ月後には職が決定した。現在はリスパダールを完全に止めて、ドグマチールも減量しながら、元気に通勤している。
 精神科において、統合失調症の患者さんで、幻覚妄想状態・興奮状態・不眠が顕著である時に抗精神病薬は不可欠であるが、倦怠感が見られやすい。しかし、倦怠感を軽減しようと薬剤を減量すると症状が再発し、以前よりも状態が悪化する可能性が考えられるので、倦怠感についてはある程度は納得して貰って処方しているのが現状である。
 しかし、それ以外の患者さんにおいては、倦怠感や「頭がボーっとする」という症状があると仕事や勉強の効率などが落ちて、QOL(Quality of Life=生活の質)が著しく低下してしまう。抗精神病薬の代わりに抑肝散が代替出来るのであれば、眠気も無く体重増加もせず、QOLの上昇が期待出来る。
 最近、認知症患者さんへの適応が話題になっている抑肝散であるが、若者への適応として頓服としてでも効果があり、今後も使用していきたいと思う。

小松桜(こまつ・さくら)先生
愛世会愛誠病院・漢方外来
2000年順天堂大学卒業。順天堂医院メンタルクリニック科で2009年まで勤務。
不定愁訴や過量服薬、副作用出現の患者さんに対し、向精神薬のみでの対応では加療困難なケースもあり、漢方に興味を持った。
現在の施設で本格的に学ぶようになり、2010年より漢方外来勤務。精神科専門医。

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