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がん患者における「一般的な病気」に対してのケアの重要性

[オンコロジー(がん)専門医による漢方外来] 2012/03/16

がん患者における「一般的な病気」に対してのケアの重要性

松浦さん(仮名)、20歳 男性。

自室で・・・

 その年の成人式の朝は、窓の外が一面、銀世界で眩しいほど美しい景色が広がっていた。その朝、松浦くんは、寒さのためか、息がうまく吸えず、咳が立て続けに出てハッとなって目が覚めた。

 ぼくはこの1年半というもの、大きな問題にいつも真っ正面から戦ってきた。高校2年の夏、クラブ活動に明け暮れていたぼくを襲ったのは、「左大腿骨遠位部骨肉腫」という若年者に多い悪性腫瘍だった。その秋には、国立のがん専門病院で人工骨置換術の手術を受け、その後も化学療法を定期的に受けた。それでも同級生達の暖かい応援と素晴らしい先生の指導を受けることが出来、無事、大学へ推薦入学することができた。

 これまでにも体調が悪くなることがあった。しかし、今朝の症状をいつも心配をかけている両親へ正直に告げることに抵抗を感じて、携帯電話でがん情報サービスを開く。このサイトはこれまでに何度も訪れては、自分の症状と照らし合わしてきた。毎回、憂鬱な気持ちになることを百も承知しているのに、不安を感じると必ずこのサイトを最初に見ることにしている。それは、自分にとってこのサイトが最も信頼がおけるからだ。

 「悪性骨肉腫は、日本では人口100万人に対して約2人、全国で年間200人前後の人が新たにかかると推定されています。年齢では10歳代が最も多く、発生部位は膝関節周囲に多くみられます。」と記載された部分をこれまでに何度読んだことだろう・・・。今朝の風景は、普通の大学生ならばウインタースポーツに心浮かれる朝だろうに。今の自分には、白装束を想像させる。

 やはり、心配していたとおり僕の病気は肺にも転移することがあるようだ。国際医療情報センターには、どの程度の確率で転移するとは明記されていないが、「肺転移の治療法は化学療法と手術が行われる」と書いてある。実際に治療を受けてきた身にとっては、化学療法も手術もたいして恐いものではない。

 ぼくが膝の手術をした後、母親はぼくをある専門外来へ連れて行ってくれた。どこで見つけたのか?がんに罹った患者ばかりを専門に診てくれる外来だった。その先生には「困ったことがあったら、いつでもメールしていいよ」とアドレスを教えてもらった。それ以来、何度か不安なときや治療方針に疑問があるときには、メールをさせてもらっている。今朝の症状、先生に確かめてみようか?でも、単なる風邪の引き初めだったら、迷惑になるし・・・。まだ、朝5時だし・・・。しかし、胸の奥から、何とも表現が出来ない咳が込み上げてくる。一度、出始めると止まらなくなってしまう。意を決して、先生にメールを打つことにした。

「いつもお世話になっております。松浦です。寒い朝ですね。先生、実は今朝から嫌な咳が出て、息苦しくて困っています。痰や熱などはありません。病院へ行って、見てもらった方が良いでしょうか?」

送信し終わった途端、返信が帰ってきた!

「おはよう!松浦くん!まだ、冬の早朝だというのに、雪の白さで外は明るく感じますね。さて、咳ですか!心配でしょうね。でも、大丈夫ですよ!たぶん、急に冷え込んだせいでしょう。冷たい空気を吸い込んでしまい、肺がびっくりして咳が出始めたのでしょう。たしか、松浦君には小児喘息があったと思いますが、いかがでしょう?暖かいお茶を飲んでみてはいかがですか?それでも症状が続くようなら、また、連絡をくださいね。待ってます」

 びっくりして、心臓がドキドキ動悸を打っている。朝5時に打ったメールがすぐに帰ってきたりするから。それにしても忘れていた!幼稚園の頃、ぼくは喘息だったんだ。それにしてもこの先生、よく僕のこと覚えてくれていたものだ。早速、台所へ下りていって暖かいお茶を一杯、ゆっくりと飲んでみた。スーッと体の奥から暖まる感じがして、まるで小さな花が咲いたように暖かい空気に包まれたようにホッとしている。

「先生、有り難うございます。咳、止まりました。感謝です!きょうは、成人式です。両親と3人、無事にこの日を迎えることが出来ました。本当に有り難うございました」

「松浦君へ よかった、よかった。どうか、ご両親に宜しくお伝えください。君の体はもう十分に元気になっているはずですから、安心して式に出てくださいね。きょうだけは、用心のためにマスクを忘れないようにね。来週、外来の予定ですので、そのときにまた、詳しく話を聞かせてくださいね。ではでは」

 また、先生に励まされてしまった。でも、今朝の咳、たった一杯のお茶で治ってしまうなんて、びっくりだ。さあ、成人式の準備に取りかかるとしよう!

まとめ

 漢方医学の理論には、様々なものがあります。「気血水」「寒熱」そして、「五行」があります。日本伝統医療である漢方医学では、「五行」を使うことは少ないのですが、今回のような症例では、「冬」「寒い」「白(雪)」「咳」などから「五行」で考えると病気は「骨」ですので、感情としては「恐(怖)」、悪くする要因は「寒」となります。また、咳を「肺」の異常と考えると、色は「白」、気分は「憂(鬱)」となり、悪くする要因は「(乾)燥」となります。そこで顔も見えない、声も聞けない状況で治療法を探るには、この悪くする要因である「寒」と「乾燥」を良くしてあげる必要があります。そこでどこの家庭にもある温かいお茶を選んだわけです。
 がん患者が抱える問題は、化学療法に伴う副作用や治療方針の決定ばかりではなく、とくに最近の「がん緩和ケア」では、疼痛コントロールと精神的フォローばかりがクローズアップされていますが、風邪や怪我、不眠や便秘といった一般的な病気についても支えていく必要があります。全身を診て、総合的にケアをするためにはがんの専門知識だけでは難しい場合があります。そんなときには、さまざまな医療を取り入れる姿勢を持った医師に相談されると良いでしょう。

今津嘉宏(いまづ よしひろ) 北里大学薬学部・薬学教育研究センター 社会薬学部門

1988年藤田保健衛生大卒、慶應義塾大学医学部外科学教室入局
東京都済生会中央病院外科、慶應義塾大学医学部漢方医学センターを経て11年4月より現職。外科医の父の戸棚に漢方関係の本が並んでいたのがきっかけで、がん治療に漢方を活用するようになった。
がん治療認定医機構暫定教育医・外科学会指導医・消化器内視鏡学会指導医・東洋医学会指導医など
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