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きれいなロングスカーフが疑問を解くヒントになった若い女性

[オンコロジー(がん)専門医による漢方外来] 2011/07/12

きれいなロングスカーフが疑問を解くヒントになった若い女性

浜田さん(仮名)、20代女性。
川崎市内の両親宅から品川にある企業へ通勤しているOL。外観はモジリアーニの描く女性を想像させる。きれいなロングスカーフを身にまとい診察室に入ってきた。
158cm 42kg、BMI 16.8(BMI=体重kg/(身長m)2: 20<BMI<24)

就職して1年が経過したばかり。冬に風邪を引いてから、朝の通勤電車の中や会社でときどき腹痛がするようになった。両親の薦めで家の近くの病院で診てもらったところ、とくに問題はないと診断された。しかし、友人から大きな病院でしっかりと検査したほうがよいと言われ、心配になり精密検査希望で当院を受診された。
血液検査、尿検査、腹部単純レントゲン撮影、腹部超音波検査、上部消化管内視鏡検査、注腸検査を行なったが、異常を認めなかった。担当した総合外来の医師から紹介状を持ってわたしの外来へやってきた。

外来診察室で・・・

わたし
「どうされましたか?」
浜田さん
「はい、お世話になります」
わたし
「まずは、内科の先生からの手紙を読ませてもらっていいですか?」
浜田さん
「はい、よろしくお願いいたします」
わたし
「・・・いろいろと検査をしても異常が見つからなかったのですねぇ」
浜田さん
「はい、家の近くの病院でも診てもらったことがあるのですが、そのときも何ともないと言われました」
わたし
「それでうちの病院へ来られて検査を受けられても、同じ結果だったんですね」
浜田さん
「はい、どこにも異常は見あたらないそうで、一応、お薬はいただいているんですけれど・・・」
わたし
「そうですか。それで痛みは良くなりましたか?」
浜田さん
「それが、まだ、ときどき痛むんです。知り合いには過敏性腸症候群※1じゃないか?と・・・」


 病気が知り合いからの情報によって違った方向へ行ってしまうことがしばしばある。担当する医師もそれに惑わされることもあるので、注意が必要である。

わたし
「過敏性腸症候群ですか・・・。ところでどんなときに痛くなるか?もう一度、お聞かせいただきますか?」
浜田さん
「はい、通勤電車や会社で悪くなります」
わたし
「会社では、いつ頃、痛くなります?食前ですか?食後ですか?」
浜田さん
「食事とはあまり関係がないみたいです」


 診察室で話を聞いている間、浜田さんが持っていたロングスカーフを膝にかけている姿をみてひらめいた。

わたし
「月経はいかがですか?」
浜田さん
「今年に入ってから、定期的にこなくなりました」
わたし
「なるほど。会社で、あなたの机は、どこにありますか?ひょっとして、空調の風の通り道ではないですか」
浜田さん
「はい、そうです、なぜ分かったんですか」
わたし
「空調は寒くないですか?」
浜田さん
「わたしの部署は、営業の男性が多いんです。皆さん “暑い!”と言って、部屋の温度をぐっと低めにしちゃうので…今年はクールビズが早めに導入されたんですけれど、内勤のわたしには冷房がちょっと寒くて、薄い毛布を使っています」
わたし
「わかりましたよ、病気の原因が!」
浜田さん
「えっ!何だったんですか?」
わたし
「それは、『冷え症』ですよ」


 血液の循環が悪く、手足や腰が冷えやすい状態を一般には冷え症と呼んでいる。しかし、医学用語では冷え症を冷え性といい、身体の特定の部分だけが特に冷たく感じる状態を指している(村田高明著『冷え症の漢方治療』より)。冷え性の患者さんは、冷え以外にも腹痛や月経異常を訴えることが多い。夏でも靴下を履かないではいられない、足が冷えて眠れないなど、の症状を訴える。女性ばかりでなく男性にも見られる。様々な検査を行っても原因がわからない病態を経験した時には、「冷え」を考慮する必要がある。

※1過敏性腸症候群:腹痛と便通異常が慢性に持続する機能的疾患

処方

 わたしは、浜田さんへ「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん) 」を試してもらうことにした。古典『金匱要略』※2に、「婦人、腹中諸疾痛の証。(婦人雑病篇)」とある処方だ。はたして2週間後に来院したときは、浜田さんは手足が温かくなったという。そこでさらに2週間処方を追加した。その頃から朝の電車での腹痛が消失し、月経が久しぶりに順調に来たと報告を受けた。会社でも腹痛はしなくなったそうである。

※2きんきようりゃく:3世紀初めに張仲景が記したとされている『傷寒雑病論(しょうかんざつびょうろん)』は、急性熱性病については『傷寒論(しょうかんろん)』、慢性病については『金匱要略(きんきようりゃく)』として伝わった。

まとめ

  1. 「冷え症」は、「冷房病」ともいい、1年中みとめられる。
  2. 原因不明の症状には、「冷え」を考慮する。
  3. 当帰芍薬散は「貧血、倦怠感、更年期障害、(頭痛、頭重、めまい、肩こり等)、月経障害、月経困難、不妊症、動悸、慢性腎炎、妊娠中の諸病(浮腫、習慣性流産、痔、腹痛)、脚気、半身不随、心臓弁膜症」に適応

今津嘉宏(いまづ よしひろ) 北里大学薬学部・薬学教育研究センター 社会薬学部門

1988年藤田保健衛生大卒、慶應義塾大学医学部外科学教室入局
東京都済生会中央病院外科、慶應義塾大学医学部漢方医学センターを経て11年4月より現職。外科医の父の戸棚に漢方関係の本が並んでいたのがきっかけで、がん治療に漢方を活用するようになった。
がん治療認定医機構暫定教育医・外科学会指導医・消化器内視鏡学会指導医・東洋医学会指導医など
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