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抗がん剤の効果が見られたものの副作用で食欲が落ちてしまった70歳男性

[オンコロジー(がん)専門医による漢方外来] 2011/05/24

抗がん剤の効果が見られたものの副作用で食欲が落ちてしまった70歳男性

樋口さん(仮名) 70歳男性。
隠居中の元衣服店経営者。東京近郊に妻、娘夫婦、孫と3世代で暮らす。白髪交じりの頭で、少し猫背。人なつっこい性格で、いつもにこにこしている。外来では看護師さんと仲がよい。都内の美術館を孫と一緒に高齢者無料の日に回るのが楽しみ。
161cm 50kg、BMI 19.3(BMI=体重kg/(身長m)2: 20<BMI<24)

2年前、大腸悪性腫瘍*1で手術を受けたとき、進行度はStage II*2であった。本人と相談し、補助療法*3は行わなかった。3ヶ月前、定期検査に訪れた時、CEA 17mg/dl (~5mg/dl)*4と上昇、胸腹部CT検査にて左右肺にSOL*5を認め、転移性肺腫瘍の診断で化学療法*6を受けてもらうこととなった。
レジメ*7はFOLFILI*8で、NCI-CTCAE*9ではGrade2の有害事象を認めたものの1Kr*10は完遂することができた。今回の治療効果判定では、CEA 6mg/dlと低下、胸部CT検査では左肺にあった2cmのSOLは消失し、右肺4cm SOLも1cmと縮小を認めた。

*1 悪性腫瘍とは、「がん」を含む腺癌、扁平上皮がん、肉腫などの腫瘍性疾患を意味する。
*2 がん取り扱い規約には、病気の進み具合を示す進行度が決められており、Stage (ステージ)で表す。
*3 がん治療において三大療法とは外科的治療、薬物治療、放射線治療。主な治療法を補うものを補助療法という。
*4 血液検査で測定する腫瘍マーカーのひとつ
*5 Space Occupying lesionの略
*6 薬物療法のこと
*7 resume 化学療法の治療方法(使用する薬剤量と併用薬および投与方法など)
*8 5FU / LV / Irinotecan による化学療法
*9 日本臨床腫瘍研究グループによる有害事象久痛用語基準(pdfファイル)
*10 化学療法のスケジュールの単位

外来診察室で・・・

わたし
「樋口さ~ん、どうぞ!」
樋口さん
「・・・・・」


 いつにもまして猫背になった樋口さんが、足を引きずるように入ってきました。

わたし
「樋口さん、今回の検査結果、たいへんいいですよ」
樋口さん
「先生、有り難うございます。」
わたし
「いやいや、これは樋口さんが頑張って治療を受けてくれたおかげですよ。これからも頑張りましょう」
樋口さん
「・・・ありがとうございます・・・」
わたし
「見てくださいよ。肺に出来たしこり、左側はなくなってしまったんですよ。右側だってこんなに小さくなっているし!」
樋口さん
「でも、先生。この治療、結構つらいですよ。食欲もなくなるし体重も減ってしまったし・・・」
わたし
「何キロ減ったんですか?」
樋口さん
「そうですね、元々55kgだったのが、この3ヶ月で50kgになってしまいました」


 体重減少は、栄養状態を考える上で最も大切である。

体重減少率(%体重変化)=[以前の体重ー現在の体重]/[以前の体重] x 100
明らかに体重減少による栄養障害があると判断される体重減少率
一週間…1~2%以上/1ヶ月…5%以上/3ヶ月…7.5%以上/6ヶ月…10%以上

 樋口さんの場合は、[55-50]/55 x 100 =9.1%(3ヶ月)なので、明らかな体重減少と考えなければならない。

わたし
「そうでしたか、大変でしたね」
樋口さん
「ええ、春になったというのに、手足も冷えるし足の裏がガサガサになってしまいましたよ」
わたし
「わかりました。治療のことばかり考えて、大切なものを見落としていました。すみません。まずは、体力を取り戻すためにどうすべきか、一緒に考えましょうね」


 いくつかのがん治療ガイドラインには副作用を軽減する有効な方法はないとされている。がん診療に携わる医師の多くが漢方薬を含めた補完代替医療*11に期待している。また、がん患者への栄養療法の介入も必要であり、タンパク質を中心とした栄養管理を進める必要があると考えられる。

*11 がんの補完代替医療ガイドブック

処方

 わたしは、樋口さんに古典『和剤局方』*12に「男子婦人、諸虚不足、五労七傷、飲食進まず、久病虚損、・・・・・」とある「十全大補湯(じゅうぜんたいほとう) 」を処方することにした。それまで便通も落ち着かなかった樋口さんも(抗がん剤の副作用が時間とともに体から抜けてきたこともあるのだろう)食欲が増し、手足のひび割れも治ってきた。2週間後に来院されたときは、顔色も戻っていた。

*12 わざいきょくほう:中国の宋代に、国の事業として編纂された薬局方

まとめ

  1. がん治療には、栄養療法を積極的に活用する。
  2. がん化学療法を行う時には、副作用軽減に漢方薬を活用する。
  3. 十全大補湯は「病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、寝汗、手足の冷え、貧血」に適応。

今津嘉宏(いまづ よしひろ) 北里大学薬学部・薬学教育研究センター 社会薬学部門

1988年藤田保健衛生大卒、慶應義塾大学医学部外科学教室入局
東京都済生会中央病院外科、慶應義塾大学医学部漢方医学センターを経て11年4月より現職。外科医の父の戸棚に漢方関係の本が並んでいたのがきっかけで、がん治療に漢方を活用するようになった。
がん治療認定医機構暫定教育医・外科学会指導医・消化器内視鏡学会指導医・東洋医学会指導医など
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