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米の山病院 福田知顕副院長

公開日:2016.07.20
カテゴリー:外来訪問

~漢方薬の新時代診療風景~
 漢方薬は、一般に知られる処方薬(西洋医学)では対処が難しい症状や疾患に対して、西洋医学を補完する使われ方も多く、今後の医療でもますます重要な役割を果たすと考えられます。
 近年、漢方薬の特性については科学的な解明が進んだこともあって、エビデンス重視の治療方針を取る医師の間でも漢方薬が使用されることが増えています。
 漢方薬を正しく理解して正しく使うことで、治療に、患者さんに役立てたい。日々勉強を重ねる、身近な病院の身近なドクターに、漢方活用の様子を直接伺いました。ドクターの人となりも見えてきます。

西洋医学には足りない「補う」を求めて

 呼吸器内科では特に冬になると、全力で治療してもたくさんのお年寄りが肺炎で亡くなっていきます。そうした方々はかなりの高齢であり、寿命といってもおかしくありませんでしたが、私はそのたびに悩んでいました。そして「肺炎になる前に、患者さんたちに対して何かもっとできることがあるのではないか」と、よく考えていました。
 例えば、外来で診ていた患者さんが肺炎を発症して入院されます。私は呼吸器のなかでも呼吸器感染症が専門なので、痰を採取し顕微鏡で見て、原因となる菌に効果のある薬を出します。ところが高齢の患者さんの場合、すぐに耐性菌がでてきてしまい、薬が効かなくなることがあるのです。そのため、「菌を退治するという考え方だけでは治療は難しいのではないか」とよく思っていました。
 肺炎にかかる前にできることとしてワクチンなどもありますが、もともとの体を丈夫にしたり、体力を補う方法はないだろうかと考えていました。漢方には「補剤」というものがありますが、西洋医学にその考え方は強くありません。こうした積み重ねで「漢方が役に立つのではないだろうか」という思いがより強まっていきました。

恩師の教えを受け継ぎ、「心身一如」を忘れない


福田先生の脈診風景(米の山病院提供写真)

 私は「補う薬」への興味から、北里大学東洋医学総合研究所の花輪壽彦先生のもとで漢方を学びました。師匠をとても敬愛していますので、頭の中はすっかり花輪先生の著書通りになっています(笑)。花輪先生の得意とされるものの一つに、心身のエネルギーを整える気剤の使用法があり、その代表的なものに半夏厚朴湯と香蘇散の2つがあります。この2つが適応となる患者さんを見極め、使うべきタイミングを逃さず使うと、ぐっと良くなる場合があることを学びました。例えば、表面的には心の問題があるようには見えないけれど、本当は家庭内のストレスなどが症状に影響している場合、そのストレスを漢方薬で少し和らげてあげるといい方向に向かうといったことです。
 しかし、心の問題を漢方で和らげると体もすぐ治ってくるかというと、そうとも限りません。体の症状を先に治したほうが心も整ってくることがあるので、その辺りの見極めが漢方診察では非常に興味深いです。「心身一如」という言葉がありますが、心から体、体から心への影響について、バランスのとれた見方ができるのが理想だと思います。
 いずれにせよ、そのときアプローチするといい方向に向かいやすい糸口があるのです。それを見つけながら治りやすいところから治していく。例えば、心の問題があっても、梅雨の時期で水毒が強いなというときには、水毒のほうから治療を始めて…と、そうした柔軟な考え方を北里東医研で学べたことは、とても大きな意味がありました。「心身一如」のバランスを忘れない。それが私の治療の基盤です。

漢方薬の適用の広さを実感しつつ診療を重ねる

 あるとき、ひどい頭痛を訴える患者さんがいらっしゃいました。診察してみるとおへその周囲がとても冷えていました。冷えが関与する頭痛には呉茱萸湯がよく効きます。しかし、ある先生の論文に、おへその周囲が冷たい患者さんの種々の症状には大建中湯が良いと書かれていました。そこで、大建中湯を出してみたところ、とたんに頭痛の発作が起きなくなったのです。
 大建中湯は、冷えて腸の動きの悪い方によく出す薬です。外科の先生方も、術後の腸閉塞予防などにしばしば処方されます。漢方では、胃腸を整えることを「脾胃を整える」といい、最も重要な治療と考えます。「脾胃を整える」と頭痛が止まるといったことは、漢方診療をしていればよくあることです。他にも、六君子湯は、食後胃がもたれるとか食欲がないといった人に処方しますが、その薬を食後に頭痛がするという人に出したら、すぐに頭痛が取れた方もいました。

患者さんから学び、技術を磨き続ける姿勢を生涯にわたって

 花輪先生のもとで学んだことを次世代にも伝えていきたいと思い、指導医の資格を取りました。ぜひ当院に漢方専門医を志す研修医を迎え、私が学んだものを次の世代へ伝えたいと考えています。そのために、私もまだまだ先人から学ばなければならないので、古典をきちんと読みたいと思っています。私は特に、和田東郭という江戸時代の医者が好きなので、その著書を中心に知識を広げていきたいと考えています。
 またこれからも、いろんな患者さんをたくさん診て、いつも患者さんから学ぶ姿勢を失わず、死ぬまで診療技術を磨いていきたいと思っています。「心や体の問題でお悩みの方と一緒に、よりよい方向へ歩んでいきたい」という思いを抱いていますので、漢方治療に興味を持たれたら、ぜひいらしていただきたいと思います。

米の山病院

医院ホームページ:http://www.kome-net.or.jp/

※写真1枚目、米の山病院提供写真

西鉄天神大牟田線「新栄町」駅よりバスで約10分。2016年3月に移転・オープンしたばかりの新病院は待合室や通路が広々とした造りになっていて、来院した方を優しく迎えてくれます。詳しい道案内は医院ホームページから。

診療科目

内科、神経内科、漢方内科、外科、整形外科、アレルギー科、小児科、皮膚科、泌尿器科、眼科、リハビリテーション科、放射線科、呼吸器内科、消化器内科、肝臓内科、胃腸内科、循環器内科、麻酔科、歯科、小児歯科、歯科口腔、糖尿病内科、消化器外科、腎臓内科・透析、救急科、病理診断科、臨床検査科、総合診療科

福田知顕(ふくだ・ともあき)副院長略歴
1965年 福岡県大牟田市生まれ。
1992年 佐賀医科大学(現 佐賀大学医学部)卒業
1992年 米の山病院 内科研修医
1997年 長崎大学熱帯医学研究所 宿主病態解析部門 臨床医学分野(熱研内科)
1998年 米の山病院 呼吸器科
2008年 北里大学東洋医学総合研究所 特別研修医
2011年 米の山病院 漢方内科 科長
2016年 米の山病院 副院長
■所属・資格他

日本東洋医学会(漢方専門医、代議員、福岡県部会副会長)、和漢医薬学会、日本内科学会(総合内科専門医)、日本プライマリ・ケア連合学会(プライマリ・ケア認定医)、日本感染症学会

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