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ももち東洋クリニック 犬塚央院長

公開日:2015.04.01
カテゴリー:外来訪問

~漢方薬の新時代診療風景~
 漢方薬は、一般に知られる処方薬(西洋医学)では対処が難しい症状や疾患に対して、西洋医学を補完する使われ方も多く、今後の医療でもますます重要な役割を果たすと考えられます。
 近年、漢方薬の特性については科学的な解明が進んだこともあって、エビデンス重視の治療方針を取る医師の間でも漢方薬が使用されることが増えています。
 漢方薬を正しく理解して正しく使うことで、治療に、患者さんに役立てたい。日々勉強を重ねる、身近な病院の身近なドクターに、漢方活用の様子を直接伺いました。ドクターの人となりも見えてきます。

「人はなぜ病気になるのだろう」という疑問から東洋医学の道へ

 当クリニックは福岡県飯塚市にある飯塚病院の関連施設なのですが、3年前にここの院長が退職されることになり、当時飯塚病院のスタッフだった私が引き継ぐことになりました。名前の通り、漢方薬による治療を専門的に行なうことから、患者さんは漢方治療を希望される方ばかりです。もちろん普通に西洋医学的な治療もしますが、あくまで漢方が中心。他の病院ではおそらく漢方を併用するかたちが多いのでしょうけど、うちは漢方が中心というかたちです。
 私がなぜこの道に入ったかというと、普通は臨床で漢方を使ってみたら良かった、という体験がきっかけかなと思いますが、そうではないんです。実は大学を卒業してしばらく外科にいたときに体を壊しまして、その時に、健康って何だろう、どうして人は病気になるのだろうということを深く考えるようになりました。それから代替医療と言われるものや予防医学について勉強していたときに東洋医学に出会い「これだ!」と思ったんですね。
 そして、どうせやるなら本格的な漢方医を目指そうと考えました。西洋医学を中心に漢方を併用するのではなく漢方専門にしたいと思い、そこで漢方診療科として病床も持っている飯塚病院に入局しました。それまではほとんど漢方薬を使っていなかったんですが、飯塚病院で本格的に使うようになり、漢方の面白さも分かってきました。

漢方の力を教えてくれた2つの事例

 印象に残る事例があります。飯塚病院で受け持った末期の膵がんの方です。その方は化学療法など西洋医学的なもの、さらに延命治療も一切受け入れるつもりはない、限られた時間を自分の思うように過ごし、家で死にたいとおっしゃっていたので、煎じ薬をずっと処方していました。途中、ほとんど食事できなかったのが、六君子湯と香蘇散で食べられるようになり、少し元気になられたこともありました。膵がんの末期は痛みが出る人が多いのですが、その方は最期までずっと点滴、麻薬を使わなかったにも関わらずほんとうに苦痛を訴えられなくて。亡くなる2日前まで食事も排泄も人の手を借りることはありませんでした。
 ご家族からは「最期まで本人のやりたいことができた」と非常に感謝していただきました。それまでは、痛みが強くなったり腹水が溜まると麻薬で意識レベルを落とさざるを得なくなり、家族との意思疎通なども難しくなっていく、そんなケースばかり見ていたので、これが自然の最期なのかなと感銘を受けました。
 最近では不登校の子の事例でしょうか。不登校という以外に特に他に手がかりがなく、難しいなと思ったんですが、少しアトピーやかゆみ、かさつきがある子だったので黄耆建中湯という薬を使いました。それ以前にも幾つか使ってみたのですが、これに変えたら全体的に良くなってしまいまして。それで、体と心は別々には診られない、と改めて思いました。体を治しているつもりが心のケアになっていたり、その逆もあるということです。漢方は人の全体を診るというのが良い点なので、こういう治療ができるのは漢方治療の利点です。

人は自然の一部 それを理解してこそハッピーになれる

 当クリニックの特性とも言えると思いますが、基本的に第一選択として漢方治療を行うようにしています。場合に応じて西洋薬も出しますし、専門の領域を越えると思ったら紹介もします。つまり、”患者さんにとって必要な治療をする”ことに尽きると思います。東洋医学も西洋医学もそれぞれの得意分野があります。漢方ですべてが治療できるわけではありません。時々、漢方でがんを治して欲しいという患者さんがいます。もう手の施しようがないような患者さんに対しては漢方で対処しますが、それはあくまでも補助的なものです。でも、QOLを高めることができるという意味ではメリットがありますから、使う価値はあると思います。
 それから、私の方針として「養生」をきちんとするように指導しています。漢方は養生とセットなんです。西洋医学は病気になったら治すというのが主ですが、漢方では「未病を治す」と言い、病気になる前に不調を見つけて病気にならないようにします。ですから病気にならないような体づくりをすることも必要です。暴飲暴食をしたり、睡眠時間を削って仕事をしたり、体が冷えるというのに冷たいものを食べたり飲んだりとか、病気になるような生き方をしている人たちはそこに気づいていただきたいんですね。
 漢方を通して東洋医学の考え方、自然観まで理解してもらえればよりいいのかなと思います。根本的なところに関しては、東洋医学のなかにこそ知恵があると思うんです。人は自然の一部。そこを理解しないと最終的には本当に人を診ることはできないのではないかと思います。全てが繋がっていて循環しているということ、人間はその一部であってそのなかで生かされているということですよね。治療する際にそんな込み入った話はしないですけど、そういうところに皆さんが気が付いてくれればもっとハッピーなんじゃないかと思います。

漢方薬をより多くの医師に使ってもらいたい

 今後は、より多くの医師に漢方薬を処方してもらえるように、漢方の普及や啓蒙に努めていきたいと思っています。中国や韓国では別に免許が要りますが、日本は要らないので、そういう意味では恵まれています。実際に使って漢方薬の良さを感じていただければと思います。私も外科をやっていたときは、漢方薬はサプリメントの延長みたいに思っていたのですが、漢方は西洋医学の穴埋めに使うようなものではありません。そういった使い方では非常にもったいない。西洋薬の量も減らせるだけでなく、何より病気になる前に健康になって病院に行かなくてよくなる可能性があります。いろいろと小難しい理論もありますが、もっと幅広い使い方ができるし、もう少し気軽に使えるようにしていきたいなと思っています。

ももち東洋クリニック

医院ホームページ:http://www.hakuaikai-group.jp/toyoclinic/

福岡タワー南口から歩いて1分。煎じ薬を処方してくれる数少ない東洋医学専門のクリニックで、遠く広島県や鹿児島県から来院する患者さんもいる。詳しい道案内は医院ホームページから。

診療科目

内科、心療内科、アレルギー科

犬塚央(いぬつか・ひさし)院長略歴
平成6年 福岡大学医学部卒業、第一外科学講座入局
平成21年 (株)麻生飯塚病院東洋医学センター漢方診療科診療部長
平成24年 ももち東洋クリニック院長
■所属・資格他

日本外科学会、日本東洋医学会、日本東洋医学会認定漢方専門医・指導医、日本外科学会認定医

■著書

つかってみよう!こんな時に漢方薬(シービーアール:共著)
はじめての漢方診療症例演習編(医学書院:共著)

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