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千葉大学柏の葉診療所 喜多敏明所長

[外来訪問] 2011/03/15

~漢方薬の新時代診療風景~
 漢方薬は、一般に知られる処方薬(西洋医学)では対処が難しい症状や疾患に対して、西洋医学を補完する使われ方も多く、今後の医療でもますます重要な役割を果たすと考えられます。
 近年、漢方薬の特性については科学的な解明が進んだこともあって、エビデンス重視の治療方針を取る医師の間でも漢方薬が使用されることが増えています。
 漢方薬を正しく理解して正しく使うことで、治療に、患者さんに役立てたい。日々勉強を重ねる、身近な病院の身近なドクターに、漢方活用の様子を直接伺いました。ドクターの人となりも見えてきます。

「心」に関わる仕事がしたかった

 私が医師になったのは、高校時代、「心に関わる仕事をしたい」と考えたのがきっかけです。その目標を実現するため、大学受験では医学部を選びました。普通なら心理学科や哲学科に進むのでしょうけれど、僕は文系ではなく理系だった。だから数学や生物学など、自分の得意な分野で心の問題を考えたいと思ったんです。
 「心」に興味を持ったのは、何か大きなきっかけがあったからではありません。子供の頃からいつも漠然と考えていた気がします。人間が生きていくうえで、辛いことや苦しいこと、悩ましいことがたくさんある。でも、人間はそれを乗り越えていかねばならない。そんなときにとても重要なのは、「心」の働きではないか。「心」は、どうなっているんだろう?と。
 いたって普通の子供でしたが、それなりに親や友達との関係、社会での生き方に悩んだ時期もあったんです。いろいろな悩みや不安が解消されたのは、大学に入って、スピリチュアル系の本を読むようになってからですね。特に、哲学的・宗教的な本は面白かった。読書の中に、心の安定を見出していたのだと思います。

漢方は、「心身一如(しんしんいちにょ)」の医学

 ところが「心」を対象とする医学がなかなか見つかりませんでした。今の精神医学は、心ではなく脳の病気を治す医療。神経伝達物質の問題を薬物療法で解決する考え方が中心です。ほかに精神療法、心理療法の道もありましたが、これも僕のやりたいこととは少し違っていた。一番近いと思われたのが心身医学でしたが、在籍していた富山医科薬科大学には該当する科がありませんでした。
 「やりたい医療のために、他の大学へ行くべきだろうか」。悩んでいた時、受講した漢方医学の講義で、寺澤捷年先生と出会いました。先生は「漢方は心身一如の医学である」、つまり心と体を分けずに一つのものとして診る医学だと説明していました。僕は「これこそ、自分のやりたかったことだ」と確信し、寺澤先生のもとへ入局しました。そこから漢方医人生が始まったわけです。
 寺澤先生は気さくな方で、少しも威圧的なところがなく、その人柄にも惹かれましたね。また、富山医科薬科大学は漢方が必修で、和漢薬研究所もありました。「薬の富山」だけあって、全国でも珍しく漢方研究が行われている場所でした。僕がこの大学に入り、寺澤先生や漢方医療に出会えたことは、運命だったと思います。

病気の悪化スパイラルを防ぐ、漢方治療

 大学病院で漢方治療に取り組んでいましたが、大学病院はそもそも、専門性の高い医療を行うところ、「3次医療」の位置付けです。漢方治療も同様で、僕のところに来る患者さんは、重症の方ばかり。より重症の患者さんを治療することが医師の本分であり医学の務めと教わってきていましたが、僕は次第に疑問を持つようになりました。
 心身医学的に見れば、体に病気がある患者さんは、症状が悪化すると心にストレスを抱え始めます。そのストレスが、さらに症状を悪化させます。この悪循環で病気が進行し、やがて西洋医学で治らないほど悪化してから、漢方医のところにたどり着くというパターンが多い。私は、もっと早い段階で患者さんに漢方治療を施せば、これほど悪化する前に救えることも多いはずだと考えるようになったのです。
 そんなとき、千葉大学で「漢方の治療と研究を行う診療所」を創設する計画が立ち上がり、寺澤先生が私を所長として推薦して下さいました。僕は、これこそ病気の悪化を漢方で防ぐ「プライマリケア(1次医療)」を実現するチャンスと考え、千葉大学に移る決意をしたのです。
 とは言え、診療所はまだ出来ていませんでした。予算提出や建物の設計から始めたので、それなりの苦労はありました。でも開院すると、多くの患者さんから「こんな病院を待っていたんです」と喜ばれる毎日。これほど、漢方のプライマリケアを求めている方が多かったんだ、と実感しました。

漢方では、診断と治療は一体

 初診の患者さんには、受付で必要事項を問診表に書いて頂きます。その後は「予診」として、看護師長が今までの病歴や家族歴、生活歴について一通りお話を聞き、電子カルテに記載。それをもとに、医師の診察が始まります。漢方の診察は、脈や舌、お腹を診て、それらの所見と問診表のチェック項目と照らし合わせ、最終的にその方にどんな漢方薬が合うかを考えます。
 西洋医学では、診察し、検査をしてから病名を診断し、そして治療を開始するのが一般的な流れです。でも漢方では、診断と治療は一体です。診断して薬を処方し、その結果によって診断が正しかったかを検証するのです。もし結果が思わしくない、あるいは何の変化も見られない場合は、「見立てが合わなかった」として診察し直します。反対に、治療の結果が良好であれば、その変化した時点の体に合った薬を、選び直していきます。
 漢方とは、このようなやり方で進化してきた医学です。西洋医学では、ほとんどの薬について効果の度合いを証明するエビデンスがあり、漢方薬にはエビデンスが乏しいとされます。しかし漢方が中国に誕生したのは、二千年前で、それ以前にも数千年の治療経験の積み重ねがあります。そして平安時代に日本に伝わってからは、日本人の体に合わせて体系化されてきました。つまり、西洋医学のように統計学的な比較検討を行ったデータはなくとも、漢方の歴史そのものが膨大なエビデンスの集積と言えるのです。

漢方による治療は、患者のQOLを上げる

 我々は数々の臨床研究で、漢方治療で患者さんのQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)が上がることを実証しています。先ほど述べたように、早い段階で病気の悪化を食い止めるべく漢方治療を行い、その結果患者さんのQOLが上がれば、さらに病気の進行を食い止めることができる。これが心と体を一つとして考える治療です。
 もし体調が悪いと思ったら、まずは早いうちに検査をすること。そして、異常なしと診断されたにも関わらず、まだ体調が悪い、気分が優れないときには、漢方治療を選択の一つとして考えましょう。西洋医学的に見れば「病気ではない」ことも、漢方治療の観点から見ると、そうでない場合もあります。最近は情報も手に入りやすく、漢方部門を置く大学病院や個人クリニックも増えたので、きちんと対応して下さる先生を見つけてほしいですね。そして病気の悪化を早めに防いで頂きたいと思います。

息抜きは周囲の自然と「ついで観光」

 今は自分のために使える時間がほとんどありません。高校時代は硬式テニス部だったので、以前は時間があるとよくテニスをしました。また、富山にいた頃はスキーも好きでしたね。夏はテニス、冬はスキーで遊ぶ、活発な大学生でした。家に帰ると哲学書や宗教書を読みふける、そんな一面もありましたが(笑)。
 当時は下宿生活で、テレビがなかったのですが、今思えばこれが良かったですね。集中して本をたくさん読めましたから。今も本は読むけれど、勉強や執筆のための読書が中心で、娯楽作品は少なくなりました。ですから息抜きといえば、たまに地方講演に呼ばれたとき、ついでに観光をすることかな。あとは、診療所が自然に囲まれているので、窓の外を眺めて癒されたり…もっと活動的になりたいものです(笑)。

取材・文/瀬尾ゆかり(せお ゆかり)
フリーライター・編集者。編集プロダクション勤務を経て独立。医学雑誌や書籍、サイトの編集・記事執筆を多数手掛ける。ほかに著名人・文化人へのインタビューや、映画・音楽・歴史に関する記事執筆など、ライターとして幅広く活動している。
喜多敏明(きた・としあき)所長略歴
1985年 富山医科薬科大学医学部卒業
1996年 富山医科薬科大学附属病院和漢診療部助手
1999年 富山医科薬科大学和漢薬研究所 漢方診断学部門助教授
2003年 千葉大学環境健康フィールド科学センター准教授
2004年 千葉大学柏の葉診療所所長(兼任)
■資格・所属学会他

日本東洋医学会代議員、和漢医薬学会評議員、日本未病システム学会評議員他

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